トップマーケターたちに聞く価値共創時代のマーケティング #25

組織の停滞感を打破する「共創」とは? BIOTOPE佐宗邦威氏が明かす、新たな価値を生み出すU理論

 

価U理論を活用して価値共創を実現


中村 佐宗さんはさまざまな企業向けにミッションやビジョン、パーパスといった領域において共創を手がけています。実際、企業はどのようなことに悩んでいるのでしょうか。

佐宗 多くの企業は、社員が納得し、自発的に行動してひとつの方向に向かうための戦略づくりに悩んでいます。トップダウンで方向性を決めるだけでは、社員は動きません。目の前の明確な課題に悩んでいるというよりも、むしろ会社組織に漠然とした停滞感が漂っていることに悩むケースが多くみられます。そのような場合、社員が会社で働くことの意味を作っていく必要があります。
  

中村 企業のミッションやビジョン、パーパスをつくるのは難しいと思いますが、どこから着手するのでしょうか。

佐宗 10年後の日本社会に対して、企業が提供できるものもあれば、逆に必要とされなくなるものもあるでしょう。そこで、まずは時代の流れを見極めながら、企業としての役割がどう変わりうるかを考えることから始めます。

その後、働くメンバーが、「どんな未来を見ているのか?どんなことを実現していきたいのか」を掘り下げます。そして、この2つをブラッシュアップするために数回のワークショップを実施し、ひとつの言葉やストーリーに落とし込むという流れです。

中村 業界によって多少の違いはあると思いますが、まずは日本全体の流れや日本人の価値観などを鑑みながら、クライアントに対してワークショップを実施していくイメージですか。

佐宗 そうですね。ワークショップ設計をする上では、社会変革理論として有名なU理論を土台にして作っています。U理論とは自分たちの会社が社会の中ですべきことを考え、アイデンティティを更新していく方法論です。大まかには「sensing(感じる)」「presencing (存在する)」「creating (創造する)」の3つのフェーズに分かれており、縦軸は自分たちの内省の深さを表しています。
  
佐宗氏が「価値共創」を実践するにあたり活用しているU理論(Agenda note編集部作)

最初は、企業やブランドについて自分たちが知っているデータや事実をすべて洗い出し、内省を深める「sensing(感じる)」を行います。この段階では、今後社会で起こる変化や外部環境についてインプットし、分析を進めます。

次に、ユーザーを含むステークホルダーへのインタビューを通じて、自社が社会的にどのように認識されているかを定性的に理解します。具体的には、ユーザーの生の声として「こういう言葉をもらった」「このような期待がある」といった情報を収集し、整理します。その後、コピーライティングを通じて自社が果たすべき役割について納得感のある表現に落とし出します。この段階は、自分たちのアイデンティティを発見するU理論でいう「presencing(創発する)」にあたります。

最後に、写真やイラストを用いて理想の未来イメージを可視化し、それを企業やブランドのナラティブとしてストーリーに落とし込みます。この「creating(創造する)」のフェーズでは、理想の未来に対して、一人ひとりが「やりたい」と思えるイメージを持たせることが目的です。

このようにU理論の流れを活用し、組織全体が新しいアイデンティティに切り替えていく取り組みを、価値共創を通して推進しています。

中村 これは非常にわかりやすい理論と実施方法ですね。

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