社会変動を紐解き、マーケティングで時代を拓く #06

ウォルマート・メタの多様性後退、 「AI経済圏」との駆け引き【2025年マーケティングに求められる3つの視点】

前回の記事:
共感が希薄な時代、マーケターが追求すべき「他者への関わり」と「価値の創出」【LIFULL篠崎亮氏】
 不動産・住宅情報サービス「LIFULL HOME’S(ライフルホームズ)」を運営するLIFULL(ライフル)で、住生活に関する不動産会社や自治体のマーケティング・課題解決支援に取り組む篠崎亮氏が、時代の変化に伴う消費者や商品・サービスの動向を読み解き、未来を拓くマーケティングのあり方を模索する本連載。

 今回は篠崎氏がウォッチしてきた2024年の企業や消費者の動向、生成AI などテクノロジーの進化を踏まえ、2025年にマーケターが意識するべき論点を、実務家の立場から提案・解説する。
 

視点①多様性後退の中、支持されるメッセージとは


 2024年に開始した本連載も1年が経過して、読者に感謝を申し上げます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。前年の記事では未曾有の災害や世代の分断を取り上げ、現代を「混沌とした時代」と表現しました。不確実性の高まりと共に、マーケターの定義やマーケティングの在り方も日々変化しているものと思います。

 2024年の年末は各国で政治的な変化が起きる一方で、インフレが続く状況は変化しないままです。現場業務ではChatGPTなど生成AIの活用が進み、GoogleのAIアシスタントGeminiの2024年7月からCM露出を強化して、消費者の検索キーワードや検索の仕方も少しずつ変化してきています。こういった時代にマーケターはどう向き合っていけばいいのか。現在の予兆から、2025年に重要になると考える3つの視点をお伝えしていきます。
 
GeminiのCM 「Google の AI、Gemini(ジェミニ)登場」編(動画引用:Google Japan公式YouTube)
  
2024年から2025年にかけての「Gemini」の検索ボリューム。2024年11月以降特に上昇傾向にある。(Googleトレンド)

 2024年11月に行われた米大統領選挙では、トランプ氏が勝利して政権が共和党へと移りました。彼は米国第一の保護主義を基本路線として、公約集「アジェンダ47」では外国製品を対象にした「普遍的基本関税」の導入、自動車産業の救済、ウクライナ紛争の停止、米国民への減税といった自国利益優先の方針を掲げていました。円安の日本では輸出企業が価格競争力で外貨を稼ぐことが重要ですが、この影響は懸念材料のひとつと言えるでしょう。

 また別の社会影響として、米国の広告マガジンAdweekでは「Trump2.0」という言葉と共に、以下のような見出しの記事を掲載しています。

 “Corporate Silence on DEI Will Grow Louder Under Trump 2.0(トランプ2.0の中で企業は多様性に対してさらに沈黙する)”
 Adweek December 2, 2024


 小売最大手のウォルマートは公式なコミュニケーションにおいて「DEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)」を発信しないと宣言し、自社の取り組みを縮小・廃止する方針を明確にして、保守層の取り込みを強化しています。またメタがトランプ氏との関係改善を狙いにファクトチェックや、DEIの実現を目的とする施策を廃止するとニュースになっています。そしてイーロン・マスク氏はロサンゼルスの山火事拡大に関連して “DEI means people will DIE (DEIとは人々が死ぬことを意味する)”と投稿し、DEI重視が同市の消防体制の弱体化を招いたとする論調に同調する姿勢を見せました。

 それぞれの真意や、その是非についてここで論じるのは適切ではありません。ただ、これらの情勢の背景には、生活者側に多様性や連帯を否定するわけではないけれど自身の利益も優先してもらいたいという、口には出しにくい想いがあると捉えています。

 この流れが、島国で独自の文化を持つ日本でも同様に広がるかはまだ分かりません。タレントの不適切行為を巡り、人権方針などに基づき75社以上がテレビCM差し止めを行う事態も今、起きています。一方で、生活者が自身の利益を優先してもらいたいという想いには、共感するところもあるでしょう。この潮流は、生活者が何を支持するかを変化させ、消費のチャネルや商品を変化させていきます。

 では、経済的な不満と満たされない欲求を前に、マーケターが事業への支持を生み出すためには「あなただけの利益を最優先する」とメッセージすればいいのか。逆にこのような時代にこそ、垣根を超える共感を生み出すメッセージで心を揺さぶることが成功に必要なのか。

 その答えはまだ見えていませんが、2025年のマーケティングの変化を捉える重要な視点のひとつになると思います。

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