新・消費者行動研究論 #07
商圏は「距離」ではなく「移動者」、モバイルから新たな顧客が見えてくる【慶應義塾大学 清水聰】
店の周りに来る人を潜在需要顧客として考える
リアルの小売店舗の売上を議論する時、必ず出てくる概念に「商圏」がある。自らの店舗が商売をする範囲のことを指し、たとえば「コンビニエンスストアでは商圏内人口が3000人いないと商売にならない」というような使い方をする。この「商圏」、通常は店舗からの半径で計算される。コンビニエンスストアなら店から大体半径500m以内の徒歩圏がそれにあたり、スーパーマーケットは店から半径3キロから5キロ、自転車やクルマで行ける範囲というように、店舗が大きくなるとその半径は広がっていく。利便性を求めるコンビニエンスストアは自宅から近いところしか行かないが、広くて品揃えが豊富なスーパーマーケットは、多少遠くても消費者は来店するためである。
商圏は、出店にあたり、競合の状況を調べるだけではなく、出店後も商圏内にある家計が本当に来店しているのかを調べたり、チラシを撒く範囲を決めたりなど、小売店舗の立地や売上を考えるうえで、非常に大きな役割を果たしている。
ただし、商圏を単純に店からの半径で測定することに疑問を持つ人もいるだろう。実際、鉄道やバイパスがあると、そこで商圏は分断されてしまうことはしばしばあり、大型店の場合は、商圏が均等な円の形にならず、幹線道路にそって広がっていることが多い。
また、そもそも住んでいる人を商売相手にしていないような業態、たとえばオフィス街のコンビニエンスストアなどでは、商圏人口よりも、昼間にオフィスにいる人間の数の方が、売上予測には重要だ。
このため、単純に店からの半径で商圏を定めるのではなく、実際に店の周りに来る人を潜在需要顧客として捉えることの方が、最近では重要となってきている。
これに役立ちそうなのが、スマートフォンのGPS機能を用いたデータだ。具体的には「モバイル空間統計」という指標である。携帯電話は日本各地に無数に張り巡らされた基地局のお陰でどこでも繋がるのだが、その基地局がきちんと作動しているのかどうかの確認のため、基地局からある一定時間周期でその基地局の電波の届く範囲にいるユーザーに電波を流している。こうすることで、基地局が正常に動いているのかどうかをチェックしているのだが、そのデータを集計すると、その基地局の周りに、何人のユーザーがいるのかがわかる、というのがその仕組みである。