鹿毛康司、モダンエルダーを目指す #14
デザインの成否は「人間理解」で決まる WEデザインスクール 稲葉裕美氏が語る、非デザイナーも身につけるべき視覚言語とは
2026/07/10
- Z世代,
「モダンエルダー」という言葉を知っていますか? 若者に耳を傾けて新しいことを受け入れながら、エルダーとしての力も発揮する「職場の賢者」のことを指します。日本を代表するマーケターであり、クリエイティブディレクターでもある鹿毛康司氏がモダンエルダーを目指して、さまざまな若手にインタビューしていく企画です。
鹿毛氏は「過去うまくいったことも、今ではうまくいかないことがあります。自分としては、思考能力はまだまだ大丈夫だと思っている一方で、時代との何らかのズレを修正し続けなければいけないと、恐怖を感じているんですよ」と語ります。本連載では「若者に教えてもらう」をテーマに、時代とビジネスの勘どころを探っていきます。
第14回は、WEデザインスクール主宰・OFFICE HALO 代表取締役の稲葉裕美氏が登場。前編では、デザインの本質が「課題解決」であることを踏まえ、多くの企業がデザイナーと上手く協働できずに悩んでいる現状に迫り、その状況を脱却する方法にも触れました。
後編では、デザイナーと対等に話すために必要な「人間理解」の重要性と、WEデザインスクールでも教えている「美大に行かなくてもできる感性のトレーニング方法」を語っていただきました。
鹿毛氏は「過去うまくいったことも、今ではうまくいかないことがあります。自分としては、思考能力はまだまだ大丈夫だと思っている一方で、時代との何らかのズレを修正し続けなければいけないと、恐怖を感じているんですよ」と語ります。本連載では「若者に教えてもらう」をテーマに、時代とビジネスの勘どころを探っていきます。
第14回は、WEデザインスクール主宰・OFFICE HALO 代表取締役の稲葉裕美氏が登場。前編では、デザインの本質が「課題解決」であることを踏まえ、多くの企業がデザイナーと上手く協働できずに悩んでいる現状に迫り、その状況を脱却する方法にも触れました。
後編では、デザイナーと対等に話すために必要な「人間理解」の重要性と、WEデザインスクールでも教えている「美大に行かなくてもできる感性のトレーニング方法」を語っていただきました。
人間理解には「トレーニング」が必要
鹿毛 人間理解は、マーケティングの世界でも、もう20年以上前から言われ続けていることです。人間理解ができている人は、どこが違うのでしょうか。
稲葉 人間理解ができている人は、自分の感情や体験を分析的に語れる人だと思います。「自分はこのとき、こういう感情になってしまった」「私はこのとき、こう感じたから、こう動いた」と客観的に捉えて話せる人は、人間理解が深い可能性があると思います。

デザイン教育家
WEデザインスクール/WEアートスクール主宰
株式会社OFFICE HALO代表取締役
稲葉 裕美氏
1984年愛媛県松山市生まれ。武蔵野美術大学造形学部卒業。
経営者の家で育ち、元々法学部志望だったが、本当に好きなことをして生きたいという思いから進路を転換し、武蔵野美術大学造形学部に入学。創造性教育、アート教育、美術史、アート・デザインマネジメント、文化政策などを学ぶ。
2014年に「クリエイティブ教育をイノベーションする」というビジョンのもと、美大時代の仲間と共にOFFICE HALOを設立。2016年に武蔵野美術大学デザイン・ラウンジと共同で、日本初のデザイン経営の学校「WEデザインスクール」を開校。デザインのアカデミックな教育法に独自の解釈を加え、クリエイティブが苦手なビジネスパーソンのために「デザインの言語化」を中心とした新しい教育メソッドを生み出す。社会人の感性を刺激する、これまでにない分かりやすさが好評を得て、さまざまなメディアや教育機関から注目を集める。2024年より美大式のアート思考の学校「WEアートスクール」を開校。著書に『美大式 ビジネスパーソンのデザイン入門』(翔泳社)。
WEデザインスクール/WEアートスクール主宰
株式会社OFFICE HALO代表取締役
稲葉 裕美氏
1984年愛媛県松山市生まれ。武蔵野美術大学造形学部卒業。
経営者の家で育ち、元々法学部志望だったが、本当に好きなことをして生きたいという思いから進路を転換し、武蔵野美術大学造形学部に入学。創造性教育、アート教育、美術史、アート・デザインマネジメント、文化政策などを学ぶ。
2014年に「クリエイティブ教育をイノベーションする」というビジョンのもと、美大時代の仲間と共にOFFICE HALOを設立。2016年に武蔵野美術大学デザイン・ラウンジと共同で、日本初のデザイン経営の学校「WEデザインスクール」を開校。デザインのアカデミックな教育法に独自の解釈を加え、クリエイティブが苦手なビジネスパーソンのために「デザインの言語化」を中心とした新しい教育メソッドを生み出す。社会人の感性を刺激する、これまでにない分かりやすさが好評を得て、さまざまなメディアや教育機関から注目を集める。2024年より美大式のアート思考の学校「WEアートスクール」を開校。著書に『美大式 ビジネスパーソンのデザイン入門』(翔泳社)。
鹿毛 自分の感情を口にすると、「それはあなたのN=1であって、単なる好き嫌いではないか」と言われることもあると思います。
感情を語ると、つい好き嫌いの話に聞こえてしまうけれど、実は少し違いますよね。ただ好き嫌いを言っている人と、自分の感情を言語化して説明できる人とは、何が違うのでしょうか。
稲葉 好き嫌いを言うとは、何か目的や対象となる人の感情を軸にして意見を言わなければならないときに、自分の好みを述べてしまうことだと思います。それはやはり問題ですよね。
一方で、シーンは異なりますが、自分の感情を語ること自体は重要で、時にそういった主観的な感情が、誰も気づけなかった勝ちに気づかせ、議論や意思決定の重要な転換点になる、ということはあると思います。
鹿毛 「白が嫌いだ」「黒が好きだ」というのは個人の好みですが、人類に共通する感情であれば、また違いますよね。たとえば、大切な人を亡くしたときに悲しくなる感情は、ある程度、人類に共通するものだと思います。「好き嫌い」と一言で言っても、そこにはいくつか階層があるような気がしています。
稲葉 それはありますね。広く、多くの人に共通する体験や感情もあれば、本当に個人的な感じ方もあります。要するに、同じ感じ方をする集団が小さいか大きいかというグラデーションがあるのだと思います。
鹿毛 そのグラデーションを理解した上で説明できる人は優秀ですね。
稲葉 それが分かっている人は、他人の意見に対して「間違っている」とはあまり言わないと思います。「そういう感じ方もあるよね。ただ、今回の目的はこうだよね」と、分けて話すことができます。
私たちの会社でも、「Aさんはこう感じるよね」「Bさんはこう感じるよね」「私たちはこう感じるよね」「社会全体ではこう感じるよね」といったように、すべてを相対化し、自分もその中に含めた形で話すようにしているんです。
鹿毛 自分自身にへばりついている状態だと、どうしても自分の感覚から一歩引くことができません。すると人の感覚が他人事のように感じられすぎて、共感しづらくなる。
ですから、人間の感情を理解するときには、階層をどう捉えるかが重要で、それはトレーニングすることができますよね。私も感覚だけでやっているわけではなく、トレーニングしてやっています。
稲葉 まさにトレーニングだと思います。私自身の体験で言うと、美大に入って、本当にさまざまな志向性を持つ人たちと出会ったことが転機になりました。
多様な趣味や価値観、人格を持つ人たちのアート作品やデザイン制作物に触れると、「こんな見方があるのか」「こんな感じ方をする人がいるのか」と、驚くことがたくさんありました。特にアートには、その人の内面が生々しく投影されたものが多くあります。作品を見ることは、その人の心の奥に触れるような体験でもあるんです。
そうした経験を重ねるうちに、自分自身が流転していく、つまり自分の感じ方が少しずつ変わっていく感覚がありました。「世の中には、こんなにも多様なことを考えている人がいる。自分もその中の一人(one of them)にすぎない」と感じる一方で、さまざまな人の感性を吸収することで、自分の感じ方が膨らみ、自分という存在が拡張していく感覚もありました。
鹿毛 自分の中には「1」しかなかったものを、「100」持っている人や「1億」持っている人がいる。その人たちに出会って「何これ?」と感じる。それを繰り返すうちに、自分の中で「1」だったものが、「100」や「1000」になっていく。膨らむというのは、そういうことですね。
アートを通して人間理解を深める
鹿毛 マーケターの中には、自分の心も人の心も分からないから、定量的に調査することが仕事だと思っている人もいます。そういう人は、どうすれば人間理解を身につけられるでしょうか。
稲葉 アート作品に触れることは、ひとつ有効な方法だと思っています。アート作品に対して、「どんな意味があるのか分からなければならない」と身構えている人は多いと思いますが、そんな必要はまったくありません。特に現代アートは、意味を調べながら見てもいいと思います。何なら、AIに尋ねたっていいんです。
鹿毛 私は昨年、オランダでゴッホ展に行ったのですが、作品の写真を撮ってChatGPTに聞いてみたら、見事に解説してくれました。そういう努力をすればいいんですね。アートを見に行きたいという人に、稲葉さんが解説しながら一緒に回るようなことはできませんか。
稲葉 そういう活動もしていますので、ぜひ一緒に回りましょう! しっかり解説もしますし、問いを立てて、自分たちで言語化してみるというアプローチを行っています。そうすると、すごく面白くなると思いますよ。
鹿毛 以前、東京国立博物館で開催されていた特別展「江戸☆大奥」に行ったのですが、「江戸時代だったら侍にはなりたくないな」「恋愛禁止の女性って大変だったろうな」など、妙な感情が湧いてきたのを思い出しました。それもひとつの膨らみですよね。
一方で、素晴らしい着物も展示されていたのですが、そこでは自分の中に何かが膨らむ感覚はありませんでした。そういう部分を解説してもらうのも、いいですよね。




メルマガ登録















