鹿毛康司、モダンエルダーを目指す #15
300人の当事者と向き合ったウェルネスツーリズムの第一人者 近藤奈央氏が目指す「人生を再始動させる旅」とは
2026/07/27
バングラデシュで感じた、「社会貢献とビジネスを両立させる」という想い
鹿毛 アステラス製薬を辞めた後は、まず何をしたのですか。
近藤 旅をしました。パソナグループに入ることを決める前に会社を辞めたので、3ヵ月間、バングラデシュやカンボジアなど、アジアのさまざまな国を巡りました。
鹿毛 その場所を選んだ理由はありますか。
近藤 私は大学院でMBAを学びましたが、そのときはビジネスの“手触り”をなかなか感じられなかったんです。その中で、「この人はすごい」と思ったのが、グラミン銀行の創始者であるムハマド・ユヌス博士でした。グラミン銀行は、最貧困層に少額の融資を行うマイクロクレジットの仕組みを実現した銀行です。
本当の手触り感を得たくて、バングラデシュに行き、ユヌス博士のところに突撃しました。
鹿毛 直接会いに行こうとする人は、なかなかいないと思います。近藤さんは、本当に会いに行ったのですね。
近藤 気づいたらバングラデシュにいた、という感じです。実はアポイントが取れていなかったのですが、運よくお会いすることができました。
「ここにいることが多い」と書かれていた場所に問い合わせたのですが、返事がありませんでした。そこで、まず現地の日本人コミュニティに入り込んでみました。でも、それだけではどうにもならず、自分で電話やWhatsAppで連絡しました。
「返事がなかったら私は帰るしかないので、どうか返事をください」というようなメッセージも送りました。最初は断られたのですが、「その代わりにマネージャーと話せる機会をあげます」と言っていただきました。それでマネージャーの方にお会いしたときに「ユヌス博士に会うのは、やはり難しいでしょうか」と尋ねたところ、「今なら会えますよ」と言われたんです。
鹿毛 まさに突撃ですね。相手からすれば、どこの誰かも分からない人が突然来るわけですから、少し怖いですよね。
近藤 バングラデシュの民族衣装を着て、友好の気持ちを精一杯示したのですが……(笑)。
鹿毛 そういう問題ではないです(笑)。ちなみに、やりたいことが決まっていたのに、なぜ旅に出る必要があったのでしょうか。
近藤 いざ起業するとなったときに、「本当に自分はやりきれるのか」を、会社を辞めてまったくゼロになった状態で、もう一回確かめてみたかったんです。
実際に旅をして、「覚悟を持って最後までやりきろう」と、決意を新たにしました。起業したい人が100人いたとしても、本当に起業する人は一人くらいしかいないと思います。私はちゃんとやる人になろうと、自分自身と約束しました。
鹿毛 MBAで、いろいろな起業の仕方を勉強していますよね。40科目すべて受けて、1科目に40時間ほどかかるとすれば、2000~3000時間くらい座学をしていることになる。でも、座学で学べば学ぶほど、リアルとは何なのかが分からなくなることもあります。だから、近藤さんは旅に出たのですね。本物の起業家ですよ。
ユヌス博士とは、何の話をしたのですか。
近藤 「困っている人を助ける」ためには、NPOやボランティアの形が良いのだろうかと悩んでいたので、そのことを質問しました。想いの部分を聞かせていただいたのですが、そこで私はある違和感を覚えたんです。
鹿毛 どんな違和感でしたか。
近藤 慈善事業で終わらせてはいけない、ということです。ビジネスとして回していくからこそ、次の人を救える部分があります。ディスカッションしてくださったマネージャー陣は、どちらかというと慈善事業寄りの考え方でした。一方で私は、社会貢献とビジネスの両輪を回していきたいと思いました。
鹿毛 慈善事業をビジネスにするというと、「それは慈善ではないのではないか」「自分のお金のためではないか」と思われることもあります。でも、違うんですよね。活動を継続するために、ビジネスにする。だからこそ、社会貢献を続けられる。そういう考え方ですね。
近藤 はい。日本で、社会課題の解決とビジネスの両立に取り組んできた起業家といえば、パソナグループ創業者の南部靖之さんだと思いました。南部さんは日本で何度も社会課題を見つけ、それを解決し、また次の課題を見つけるということを繰り返しながら、人を育ててこられました。
そこで私は、パソナグループの女性起業家アクセラレータプログラムに参加しました。半年間、契約社員として入社し、その間にパソナグループの子会社として実現したい事業案をブラッシュアップしていくプログラムです。その期間中に、南部さんや経営会議に事業案を通し、承認を得ていく仕組みがありました。
鹿毛 採用されなければそこで終わり、つまりオーディションのようなものですね。そこで合格したわけですか。なぜ自分一人でやらなかったのですか。パソナグループの力が必要だったのでしょうか。
近藤 必要でしたね。どちらかといえば、私は自分で立ち上げるほうが向いているタイプだと思います。企業を背負うことにはいろいろな大変さもありますから、一人で地道に積み上げていくのも一手でした。でも、300人の方に協力いただきながら描いた世界観や事業規模を実現したいと思うなら、一緒に夢を描いてくれる大企業と組んだほうが、そこに早く近づけると考えました。
鹿毛 そもそもこの事業は、医療、政治、ツーリズムなど、さまざまな分野から大きな力が働く領域です。当然、お金も必要になる。
一人で始めることは、確かにかっこいいかもしれない。でも、これを本当に実現するためにはどうすればいいかを考え抜いた先にあったのが、パソナグループだったのですね。
(後編へ続く)
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