鹿毛康司、モダンエルダーを目指す #16

パソナウェルネスツーリズム代表 近藤奈央氏が目指す、産業・行政・医の三方良しの仕組みづくり

前回の記事:
300人の当事者と向き合ったウェルネスツーリズムの第一人者 近藤奈央氏が目指す「人生を再始動させる旅」とは
 「モダンエルダー」という言葉を知っていますか? 若者に耳を傾けて新しいことを受け入れながら、エルダーとしての力も発揮する「職場の賢者」のことを指します。日本を代表するマーケターであり、クリエイティブディレクターでもある鹿毛康司氏がモダンエルダーを目指して、さまざまな若手にインタビューしていく企画です。

  鹿毛氏は「過去うまくいったことも、今ではうまくいかないことがあります。自分としては、思考能力はまだまだ大丈夫だと思っている一方で、時代との何らかのズレを修正し続けなければいけないと、恐怖を感じているんですよ」と語ります。本連載では「若者に教えてもらう」をテーマに、時代とビジネスの勘どころを探っていきます。

 第15回・16回は、パソナウェルネスツーリズム代表の近藤奈央氏が登場。近藤氏は、製薬会社のMRとして8年間勤務した後、パソナグループの「女性起業家アクセラレータプログラム」を経て起業した唯一の女性です。病気や障がいによって「できない」と諦めていたことを、旅を通じて実現するウェルネスツーリズム事業を展開しています。

 後編では、パソナウェルネスツーリズムが今後目指していく姿や、事業拡大以上に成し遂げたい「社会に向けてメッセージを発信していくアイコン」としての役割などについて語りました。
 

リハビリの先に、「本当にやりたいこと」を実現させる


鹿毛 パソナウェルネスツーリズムは、現在はどのような活動をしているのでしょうか。

近藤 医療機関や自費リハビリテーション施設でリハビリテーションしている方が、もう一度やりたいことや、生きがいになるものを見つけられる旅を、一緒につくっています。

鹿毛 具体的には、どのようなことをするのですか。

近藤 まずリハビリテーション施設に伺い、お話を聞かせていただきます。お客さまご本人だけでなく、日頃からその方の身体を見ているトレーナーや理学療法士、リハビリテーション施設の方にもヒアリングを行い、ご本人が本当にやりたいことを引き出していきます。

本来、リハビリテーションは、リハビリをすること自体が目的ではありません。「歩けるようになりたい」「怪我をする前のように旅行に行きたい」といった願いを叶えるために行うもののはずです。

だからこそ、目の前の制約を一度取り払い、「病気や障害があるからできない」と諦めていたこと、本当はやりたかったことを思い出していただき、それを一緒に実現していきます。現在はまだ日本の方向けのみですが、今後は海外の方にも提供していきたいと考えています。
   
パソナウェルネスツーリズム
代表取締役
近藤 奈央氏

1992年茨城県つくば市生まれ。グロービス経営大学院修士課程修了。
新卒で国内大手製薬会社に入社し、新薬の営業に従事。沖縄県での営業経験を通じ、より多くの人に質の高い医療・ウェルネスを届けること、また地方医療の存続という課題を解決することを志し、起業を決意。2023年にパソナグループが未来を創る女性起業家の育成・輩出を目的に開催する「パソナ女性起業家アクセラレータプログラム」に参加。その後、起業を目的に2024年にパソナグループに入社。2025年4月3日、株式会社パソナウェルネスツーリズムを設立。代表取締役に就任。

鹿毛 実際に、5人の方が旅行に行かれたのですよね。

近藤 はい。5人の方に、実際に旅行をしていただきました。行き先は淡路島で、二泊三日の旅でした。淡路島にある施設で座禅をしたいという方がいらっしゃったので、一緒に行きました。ほかにも、温泉に入りたい、一人で旅行に行きたいという方もいました。

鹿毛 旅行に行くこと自体、健常者には想像できない難しさがあると思います。たとえば、どのようなことがあるのでしょうか。

近藤 たとえば脳卒中や脊髄損傷の方には、行動上の制限や身体的なハンディキャップがあります。特に大きいのは、トイレの問題です。他の人に迷惑かけないだろうか、事故が起きたらどうしよう、という不安があります。食事も同じです。そうしたことを考え始めると、本来楽しいはずの旅が、修行のようになってしまうんです。

鹿毛 楽しいどころか、修行になってしまうのですね。旅行に行く前と後で、表情は変わりましたか。

近藤 もう、まったく違います。当然ですが、最初は皆さん怖がっています。これまで何度も失望してきているので、最初から「自分にはできない」と思ってしまっていることも多いんです。それでも勇気を振り絞って、ようやく一歩を踏み出す。実際に行ってみると、「自分にもできる」という実感が少しずつ積み重なっていきます。帰るときには、すごい笑顔で手を振ってくださるんです。ツアーの最後には、感謝の言葉をいただくこともあります。

鹿毛 具体的には、どのようなことを言われましたか。

近藤 「次は何をしたい」という話が出てきました。お手紙をいただいたこともあります。その方には、事故が起きていなければ「退職したら夫婦でハワイ旅行に行く」という夢があったそうです。でも事故に遭い、会社も早めに辞めざるを得なくなった。ハワイに行くのは無理だと思い、その夢にずっと蓋をしていたとおっしゃっていました。

淡路島は国内ですが、その方にとっては大きな挑戦でした。行ってみたら、できることがあると分かった。次は北海道へ行きたい。ゆくゆくはハワイに行きたい。そう話してくださいました。飛行機の問題など、越えなければならないハードルはあります。それでも、少しずつステップアップしていけば、本当にハワイに行けるかもしれないと思っています。

鹿毛 ハワイに行けたら、すごいことですね。

近藤 そうですね。元気なうちに行くためにも、「いつかやりたい」と思っていた夢を、今もう一度思い出してもらう取り組みをしなければならないと感じています。

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