鹿毛康司、モダンエルダーを目指す #16

パソナウェルネスツーリズム代表 近藤奈央氏が目指す、産業・行政・医の三方良しの仕組みづくり

 

社会にメッセージを発信する“アイコン”になりたい


鹿毛 ウェルネスツーリズムの定義については、どのように考えていますか。

近藤 チームのみんなで、「ウェルネスツーリズムの定義とは何か」を考えました。ただ、「これとこれとこれの要素があればウェルネスツーリズムです」という定義には、私はあまりしっくりきませんでした。

私がウェルネスツーリズムに参加した方に望んでいるのは、もう一度、自分がやりたいことを見つけ、それに向かって生きがいを持って生きられる状態になることです。

鹿毛 つまり、ウェルネスツーリズムは「道具」なんですよね。だから、「ウェルネスツーリズムを使って何をしようとしているのか」を語らなければならない。病気や障害があるからできないと思っていたことを実現してもらう。無理をせず、楽しくできるようにする。その手段としてウェルネスツーリズムを使う、ということですよね。

マーケティングの定義を持ち出すなら、アメリカマーケティング協会では、マーケティングを「顧客、取引先、パートナー、社会全体にとって価値のある提供物を作り出し、伝え、届け、交換するための活動、一連の制度、プロセス」と定義しています。

患者さん、パートナー、そして社会に価値を創造し、伝えていく。近藤さんがやっていることは、まさにマーケティングそのものなんです。
   
かげこうじ事務所 代表
鹿毛 康司氏

マーケティング戦略家・クリエイティブディレクター。人間理解とくに「人の心が動く瞬間」を紐解き、戦略立案からクリエイティブの着地までを一気通貫で手がける。東日本大震災直後に発表したエステー「消臭力」のCMは、多くの人の心に寄り添い社会現象となった。その後も、ほけんの窓口、森永乳業、大阪王将、にんべん、バーガーキング、ブラザー、筑紫女学園大学など、幅広い企業の「人間理解」に基づいたマーケティングやクリエイティブ支援を続けてきた。グロービス経営大学院教授、日経クロストレンド アドバイザリーボードも務める。著書に『心が分かるとモノが売れる』(日経BP)、最新刊に『無双の仕事術』(クロスメディア・パブリッシング)など。

近藤 今は淡路島が中心ですが、今後は選択肢を一緒に増やしていきたいと考えています。理想は、最終的にはご本人が自分で行きたい場所を見つけ、ご家族同士で旅に出られるようになることです。ですから、私たちのサービスから“卒業”していくことも、まったくネガティブには捉えていません。

この事業の出発点は、患者さんの幸せや「やりたいこと」を実現することです。その一方で、産業・行政・医療が三方良しになる仕組みもつくっているところです。

最近、さまざまな理学療法士・作業療法士の方にお会いしていますが、病院を一歩出た後の、その人の生き方に関わりたいという方がたくさんいます。しかし今は、そうした方々が活躍できる場所が十分にありません。理学療法士・作業療法士の新しい働き方をつくることにも取り組んでいきたいです。

鹿毛 日本の理学療法士・作業療法士は、今は需要のほうが多いですが、数年後には供給過多になるとも言われていますね。リハビリの業界の人たちが、それぞれの場所で力を発揮し、リハビリ全体が上手く回るようになればいい。近藤さんは、世の中に指導する人をつくり、生み出していく立場でもあるわけですよね。

「リハビリにはこういうやり方がある」「私は現場でこんな経験しました」と、テレビや学会に呼ばれ、理論だけでなく実践経験から語れる人を育てていく。

近藤 そうです。この会社自体が大きくなりたいというより、社会にメッセージを発信する立場を引き受けたいんです。つまり、アイコンになるということですね。

鹿毛 でも、製薬会社で働いた頃と比較すると、給料は下がったのでしょう。

近藤 そうですね。

鹿毛 それでも、300人に話を聞いたところから、本気で取り組んでいるのですね。

人間は本能的に、じっと同じ場所にとどまってはいられない生き物です。旅をすることは、人類が生きていくために必要な行為なのだと思います。「トラベル」という言葉は、元々「トラブル」にも通じると言われます。旅は楽しいだけではありません。道に迷う、予約したのにタクシーが来ない、計画通りにいかない。そうしたトラブルが起きるものです。そのトラブルを楽しみながら冒険していくのが、旅なんです。

ウェルネスツーリズムの対象となる方は、健常者ではない分、そもそものハードルが高い。すべてのトラブルを無くすことはできません。ただ、そのトラブルを少し滑らかにしてあげる。それが近藤さんの活動なのですね。

近藤 本当にその通りです。すべてをきれいに整えることも、不可能ではありません。でも、私はそれをしたいわけではないんです。「これは無理だ」と思っていたことを、旅を通じてどうにか乗り越えた。その経験こそが旅の大切な思い出になり、また次の挑戦につながっていきます。だから、すべてを整えてあげるという発想ではないんです。

鹿毛 僕が動けなくなったら、ウェルネスツーリズムに連れて行ってくれますか。

近藤 もちろん!何回でもお連れします。

鹿毛 ありがとう。本当に動けなくなったときにどうしようと思うと、怖いんですよね。近藤さんがいてくれてよかった。そういう夢を叶えてくれる人は、なかなかいないません。

多くの人は、自分や家族のことだけで精一杯です。でも近藤さんは、社会を見ている。そうでなければ、300人に話を聞きに行くことはできません。その意味で、近藤さんは器が大きい。あとは、もう少し言語化が上手くなると、さらにいいですね。もったいないです。

近藤 はい…練習します!
   
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