日本市場の構造変化と、伸びる市場の共通点を捉える
富裕層、インバウンド:これから伸びるマーケットを自社ビジネスにどう取り入れる?【マーケター 藤原義昭氏インタビュー】
2026/07/29
「日本市場は縮小している」「モノが売れない時代になった」──そんな言説を耳にする機会は少なくありません。しかし、本当に市場そのものが縮んでいるのでしょうか。
コメ兵でリユース市場の成長を牽引し、その後はユナイテッドアローズでCDOとしてDXやマーケティングを統括するなど、長年にわたり消費の最前線を見続けてきたマーケター・藤原義昭さんは、「市場は縮小しているのではなく、価値が集まる場所が変わっている」と語ります。
いま起きているのは、単純な市場縮小ではなく、価値が集まる場所や評価される基準が大きく変わる構造転換です。規模の大きな市場は減る一方、規模は小さくとも「選ばれる理由」が明確なものに価値が集中する時代へ。その変化をどう捉え、企業はどこに成長機会を見いだすべきなのか。本稿では、藤原さんの視点をもとに、日本市場の構造変化と、これから伸びる市場に共通する条件を読み解きます。
本稿は「中編」として、藤原さんが「これから伸びる市場」として挙げた4つのうち、「富裕層」「インバウンド」の2つにフォーカスし、それぞれが伸びるといえる理由や、自社ビジネス/マーケティングへの取り入れ方を解説します。
コメ兵でリユース市場の成長を牽引し、その後はユナイテッドアローズでCDOとしてDXやマーケティングを統括するなど、長年にわたり消費の最前線を見続けてきたマーケター・藤原義昭さんは、「市場は縮小しているのではなく、価値が集まる場所が変わっている」と語ります。
いま起きているのは、単純な市場縮小ではなく、価値が集まる場所や評価される基準が大きく変わる構造転換です。規模の大きな市場は減る一方、規模は小さくとも「選ばれる理由」が明確なものに価値が集中する時代へ。その変化をどう捉え、企業はどこに成長機会を見いだすべきなのか。本稿では、藤原さんの視点をもとに、日本市場の構造変化と、これから伸びる市場に共通する条件を読み解きます。
本稿は「中編」として、藤原さんが「これから伸びる市場」として挙げた4つのうち、「富裕層」「インバウンド」の2つにフォーカスし、それぞれが伸びるといえる理由や、自社ビジネス/マーケティングへの取り入れ方を解説します。
「日本市場はシュリンクしている」は果たして本当か?
前回は、モノの機能や価格だけではなく、その価値が時間や場所を超えて成立するかどうかが消費者の評価軸に組み込まれつつあること。その前提に立った時、日本で今後伸びていく領域として「富裕層」「インバウンド」「IP」「二次流通」の4つがあることをお伝えしました。
今回(中編)と次回(後編)の2回にわたって、4つの市場をそれぞれどのように捉え、自社ビジネスに落とし込めばいいのかを、具体的に考えていきます。今回は、「富裕層」「インバウンド」の2つの市場にフォーカスしてみましょう。

藤原 義昭 氏
300Bridge 代表取締役
ラグジュアリーリユーストップ企業であるKOMEHYOでマーケティング、IT、マーケティングの役員を務めたのち、ユナイテッドアローズでは執行役員最高デジタル責任者としてPRなどを含めたマーケティング、CRMやデータなどデジタル化を推進しV字回復に大きく貢献したのち、PEファンドにて投資先のデジタル、マーケティングを同時に推進。現在はBX(Business transformation)専門アドバイザリー〈株式会社300Bridge〉代表として、戦略・組織・データを束ね“稼ぐ仕組み”を設計から課題に応じ最適ケイパビリティを編成し伴走している。
300Bridge 代表取締役
ラグジュアリーリユーストップ企業であるKOMEHYOでマーケティング、IT、マーケティングの役員を務めたのち、ユナイテッドアローズでは執行役員最高デジタル責任者としてPRなどを含めたマーケティング、CRMやデータなどデジタル化を推進しV字回復に大きく貢献したのち、PEファンドにて投資先のデジタル、マーケティングを同時に推進。現在はBX(Business transformation)専門アドバイザリー〈株式会社300Bridge〉代表として、戦略・組織・データを束ね“稼ぐ仕組み”を設計から課題に応じ最適ケイパビリティを編成し伴走している。
「富裕層市場が伸びている」と聞くと、「お金持ちが増えたから」と考えがちですが、それだけではありません。この市場が伸びる理由は大きく3つあります。
1:消費の基準が「所得」から「資産」へ移っている
1つ目は、消費の前提が変わってきたことです。富裕層市場は、必ずしも富裕層だけの市場ではありません。
たとえば、300万円の高級腕時計を購入する人が、全員が超富裕層というわけではありません。所得だけを見れば一般的な会社員でも、高額な商品を購入するケースは少なくありません。
背景にあるのは、消費の主語が「所得」から「資産」へ移っていることです。
給与所得は大きく伸びにくい一方で、金融資産や不動産、株式などの資産を保有する人たちは、資産価値の上昇によって購買力を維持、あるいは拡大しています。さらに、ローンやリセールを前提にすれば、高額商品は以前より手の届く存在にもなっています。
つまり、「いくら稼いでいるか」ではなく、「どのような資産を持ち、それをどう活用するか」が消費力を左右する時代になりつつあるのです。その結果、市場全体を牽引する消費者層も、以前より明確に分化してきていると感じています。
2:「選ぶ力」そのものが価値になっている
2つ目は、モノ余りの時代だからこそ、「何を選ぶか」そのものが価値になっていることです。たとえば東京には、素晴らしいレストランが数え切れないほどあります。ミシュランの星付きレストランだけでも、一年間毎日通っても回り切れないでしょう。
だからこそ重要なのは、「何を買うか」以上に、「何を選び、何を選ばないか」。いわば、キュレーションそのものが価値になっています。この文脈では、価格は単なるハードルではありません。一定以上の価格は、「品質や世界観が担保されている」というフィルターとして機能します。
もちろん高ければ何でも売れるわけではありません。しかし、「この価格である理由」が明確であれば、高価格そのものが安心や期待を生み、選ばれる理由になるのです。
3:消費が「所有」から「資産形成」へ変わっている
3つ目は、消費の時間軸が変わったことです。
特に経営者や資産家のように、自ら資産を形成してきた人たちは、「使い切る消費」よりも、「資産になる消費」を選ぶ傾向があります。
「なぜ高級時計なのか」「なぜバーキンなのか」と疑問に思われることがありますが、それらは単なる贅沢品ではありません。購入して所有し、その価値や体験を楽しみながら、将来的には次の人へ受け継ぐこともできる。つまり、一度きりで終わる消費ではなく、時間を超えて価値が続く消費なのです。
富裕層は、「今の満足」だけではなく、「将来どれだけ価値を維持できるか」まで含めて消費を判断しています。
また、高価格帯の商品や限定商品は景気変動の影響を比較的受けにくいという特徴があります。価格が高いから売れないのではなく、「その価格である理由」が明確であれば、安定して選ばれ続けるのです。
さらに二次流通を見ると、高級時計やラグジュアリーバッグなどは価格が維持されやすく、場合によっては購入時より価値が高まることもあります。アートも同様です。アート市場には相場の変動がありますが、一般的な日用品のように価値がゼロになるものではありません。
富裕層は、こうした「将来も価値を保てる可能性」を含めて、極めて合理的に消費を行っているのです。
「富裕層」市場の特徴をマーケティングにどう活かすか
では、この考え方をマーケティングにどう応用すればよいのでしょうか。
わかりやすいのが、「限定生産」「抽選販売」「顧客限定の体験」といった設計です。かつては、こうした体験は富裕層だけの特権でした。百貨店の外商顧客だけが購入できる商品や、限られた顧客だけが参加できるイベントなどです。
しかし今は、その考え方をコンシューマービジネスにも応用できます。「限定だから価値がある」「誰でも買えるわけではない」という状況を設計すること自体が、富裕層市場の考え方に近いのです。
ただし、大切なのは、単に希少性を煽ることではありません。
「誰のための商品なのか」「なぜその人に届けたいのか」。そこにどんな体験や物語を含ませるのかまで設計して初めて、本当の意味で価値が生まれます。そうした設計ができれば、富裕層向けの商品をつくるのではなく、「富裕層にも選ばれる商品」をつくることができます。
結果として価格競争に巻き込まれにくくなり、値崩れもしにくい商品になります。一次流通だけでなく、二次流通でも評価されるブランドをつくれることが、富裕層マーケットの本質なのです。
「富裕層」市場で伸びているブランドの事例
富裕層市場の考え方を上手く活用している代表的な例は、やはりラグジュアリーブランドでしょう。
「誰でも買えるブランド」を目指すのではなく、「本当に届けたい顧客に届ける」という姿勢を貫き、限定性や体験価値を設計することで、長年にわたって富裕層市場を牽引してきました。
一方で、同じ考え方はスタートアップにも見られます。たとえば、私の知人が手掛けるギリシャヨーグルトブランド「ミルキーグリーク」です。
一般的なギリシャヨーグルトは140円程度ですが、「ミルキーグリーク」は同じくらいのサイズで約2,000円。それでも生産が追いつかず、ECでは3ヵ月待ちの状態が続いています。
背景にあるのは、「本物のギリシャヨーグルトを届けたい」という強い思想です。当然、製造コストも高くなりますが、その価値をSNSを通じて丁寧に伝え、ビジネスとして持続できる価格を設定しています。
ここで重要なのは、市場規模を無理に拡大しないことです。
誰でも簡単に手に入る商品になれば、希少性は失われます。だからこそ、「昨対比○%成長」のように売上だけを追い続けるのではなく、利益をしっかり確保し、その利益を商品や顧客体験へ再投資していくことが重要なのです。
その意味では、Z世代から絶大な支持を集めるアパレル企業・yutoriのようなブランドのつくり方も示唆に富んでいます。
ひとつのブランドで巨大市場を狙うのではなく、「誰に届けるのか」を明確にしたブランドを次々に立ち上げる。市場が細分化する時代には、ひとつの巨大ブランドを育てるより、多様なブランドポートフォリオを持つことのほうが合理的なのかもしれません。
AIの活用も進み、商品企画やテストマーケティングは以前よりはるかに速く、低コストで行えるようになりました。だからこそ重要なのは、「できるだけ多くの人に売ること」ではなく、「誰に選ばれるのか」を明確にし、その市場を効率よく見つけていくことなのだと思います。




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