日本市場の構造変化と、伸びる市場の共通点を捉える

富裕層、インバウンド:これから伸びるマーケットを自社ビジネスにどう取り入れる?【マーケター 藤原義昭氏インタビュー】

 

「インバウンド」市場が伸びるといえる3つの視点


「インバウンド市場が伸びている」と聞くと、コロナ禍が明けて訪日客が戻ってきたからと捉えられがちです。しかし、私が注目しているのは一時的な回復ではなく、もっと構造的な変化です。この市場が伸びている理由も、大きく3つに分けて説明します。
 

1:日本固有の価値が世界で再評価されている

一つ目は、日本ならではの価値が世界で再評価されていることです。

いま世界では、商品やサービスが急速に均質化しています。SNSを通じて国境や言語の壁を越えて情報が流通するようになり、日本人も韓国人もアメリカ人も、同じ音楽を聴き、同じキャラクターやブランドを好きになる時代です。たとえば「LABUBU」のようなキャラクターが世界中で人気を集めているのも、その象徴でしょう。

世界中で「好きなもの」が似通ってきたからこそ、その反動として、その国にしかない固有の価値が際立つようになっています。

一方で、日本の審美性とか技術、職人性、細部のこだわりといったものが、それだけで価値になっている。以前は内向きだと思われていた要素が見直されて、ユニークネスとして認められている。

日本の審美性、職人技、細部へのこだわり、接客品質といったものは、以前は「内向き」「日本人にしか伝わらない」と考えられていました。しかし今では、それ自体が世界から見たユニークネスとして評価されるようになっています。
 

2:SNSによって「指名来店」が当たり前になった

二つ目は、SNSの存在です。

最近、「なぜこんな場所に外国人観光客がいるのだろう」と思うような店に出会うことがあります。その多くは、SNSを見て目的地として訪れています。

私たち自身も海外旅行へ行くときは、限られた時間の中でどこへ行き、何を食べ、どこで買い物をするかを事前に調べます。偶然入った店で買い物をすることは、それほど多くないのではないでしょうか。
 

3:外国人がブランドの「翻訳者」になっている

三つ目は、外国人がブランドの価値を世界へ翻訳する存在になっていることです。

日本人だけに通じる価値は、海外では簡単には理解されません。外国人にも魅力が伝わり、高く評価されるブランドは、文化や言語を超えて価値が成立しているブランドだと言えます。

さらに、その評価がSNSを通じて発信されることで、「外国人に人気のブランド」「海外でも評価されているブランド」という新たな文脈が生まれます。

つまり、海外の評価がブランド価値を翻訳し、新しい意味を付与しているのです。その結果、日本国内でもブランドへの信頼や憧れが高まり、再評価につながるケースが増えています。

重要なのは、旅行中に偶然商品を見つけて購入しているわけではないということです。いまは来日前の段階で、SNSや動画、口コミを通じて購買意思決定の多くが行われています。来店は「買うかどうかを考える場」というより、「事前に見た情報が本当にその通りかを確かめる場」に近づいています。

さらに越境ECや海外SNSの影響力も年々高まっています。

こうした変化を踏まえると、インバウンド市場は単なる観光需要ではなく、日本ブランドを世界へ広げるための重要なマーケットになっているのです。
 

「インバウンド」市場の特徴をマーケティングにどう活かすか


 では、この変化をマーケティングにどう取り入れればよいのでしょうか。

 象徴的なのは、観光地ではない場所にも外国人がわざわざ訪れる店舗が増えていることです。彼らが目指しているのは、有名な観光地ではありません。その店にしかない世界観やブランドの背景、そこでしか得られない体験です。それらがSNSを通じて事前に共有され、理解されているからこそ、人はわざわざ足を運びます。

 つまり、観光地に立地していることが重要なのではなく、「行く理由」をつくれていることが重要なのです。だからこそ、地方や住宅街であっても、独自の文脈やブランドストーリーを設計できれば、インバウンド需要を生み出すことは十分可能です。

 また、今後は海外で先に評価され、その評価が日本へ逆輸入されるブランドも増えていくでしょう。先ほど「翻訳者」と表現したのは、そのためです。

 海外からの評価は、第三者による客観的な評価として国内でも機能します。「海外で人気らしい」「外国人がわざわざ訪れるらしい」という事実そのものが、新たなブランド価値となり、日本国内での信頼や再評価につながっていくのです。

 もちろん、良い商品をつくるだけで自然に外国人が訪れるわけではありません。重要なのは、その商品やブランドにどのような意味を与え、どのような文脈でSNSに乗せていくかです。

 ブランドストーリーや背景をコンテンツとして発信し、「なぜこの場所なのか」「なぜこの商品なのか」を伝え続けること。それが、これからのインバウンド市場の前提になると考えています。
 

「インバウンド」市場で伸びているブランドの事例


 代表的な事例のひとつとして、ストリートウェアブランド「FR2」を挙げます。
FR2 公式サイト

 営業利益率は約60%とも言われる「FR2」は、当初から「外国人に売ること」を前提にブランドを設計しています。

 商品は単なるアパレルではなく、「日本のお土産」というコンセプトでつくられています。

 100点の商品を販売したとすると、そのうち60~70点はインバウンド客によって海外へ持ち帰られます。日本国内には30~40点しか残らないため、日本人にとっても自然と希少性が生まれ、「欲しいブランド」としての価値が高まるという構造です。

 代表の石川 涼氏が一貫しているのは、「熱狂が生まれる場所を見つけ、そこへブランドを置く」という考え方です。たとえば、「お土産」という文脈を前提に、最初は原宿という観光地に店舗を構えました。

 さらに、長野・白馬ではスキー場のリフト乗り場に店舗を出店しています。スキーやスノーボードを楽しむ観光客に向けて、購入した商品を入れるショッパーをリュック仕様にし、そのままゲレンデへ行ける体験まで設計しています。

 北海道・羊蹄山の近くにも、雪景色に映える店舗を一軒だけ出店しています。決して立地が良いわけではありません。車で目的地として訪れなければならない場所です。

 それでも、「そこへ行くこと」自体が体験となり、お土産という文脈とも重なるため、日本人であっても自分用だけでなく家族や友人への土産まで購入します。その結果、一人当たりの購買単価も自然と高くなるのです。

 FR2が売っているのは服だけではありません。インバウンドに向けて「そこへ行く理由」と「持ち帰りたくなる意味」を設計することで、ブランド価値そのものを高めているのです。


 次回(後編)では、「IP」「二次流通」という2つの市場について、伸びるといえる理由や、ビジネス/マーケティングへの取り入れ方を解説します。
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