日本市場の構造変化と、伸びる市場の共通点を捉える

IP、二次流通:これから伸びるマーケットを自社ビジネスにどう取り入れる?【マーケター 藤原義昭氏インタビュー】

「日本市場は縮小している」「モノが売れない時代になった」──そんな言説を耳にする機会は少なくありません。しかし、本当に市場そのものが縮んでいるのでしょうか。

 コメ兵でリユース市場の成長を牽引し、その後はユナイテッドアローズでCDOとしてDXやマーケティングを統括するなど、長年にわたり消費の最前線を見続けてきたマーケター・藤原義昭さんは、「市場は縮小しているのではなく、価値が集まる場所が変わっている」と語ります。

 いま起きているのは、単純な市場縮小ではなく、価値が集まる場所や評価される基準が大きく変わる構造転換です。規模の大きな市場は減る一方、規模は小さくとも「選ばれる理由」が明確なものに価値が集中する時代へ。その変化をどう捉え、企業はどこに成長機会を見いだすべきなのか。藤原さんの視点をもとに、日本市場の構造変化と、これから伸びる市場に共通する条件を読み解きます。

 本稿では、藤原さんが「これから伸びる市場」として挙げた4つのうち、「IP」「二次流通」にフォーカスし、それぞれ「伸びるといえる理由」や「自社ビジネス、マーケティングへの取り入れ方」を解説します。
 

今回は「IP」と「二次流通」の2つの市場に着目


  前編では、モノの機能や価格だけではなく、その価値が時間や場所を超えて成立するかどうかが消費者の評価軸に組み込まれつつあること。その前提に立った時、日本で今後伸びていく領域として「富裕層」「インバウンド」「IP」「二次流通」の4つがあることをお伝えしました。

 4つの市場のうち「富裕層」「インバウンド」市場について解説した中編に続き、後編となる今回は、「IP」「二次流通」をそれぞれどのように捉え、自社ビジネスに落とし込めばいいのかを、具体的に考えていきます。

 
藤原 義昭 氏
300Bridge 代表取締役

 ラグジュアリーリユーストップ企業であるKOMEHYOでマーケティング、IT、マーケティングの役員を務めたのち、ユナイテッドアローズでは執行役員最高デジタル責任者としてPRなどを含めたマーケティング、CRMやデータなどデジタル化を推進しV字回復に大きく貢献したのち、PEファンドにて投資先のデジタル、マーケティングを同時に推進。現在はBX(Business transformation)専門アドバイザリー〈株式会社300Bridge〉代表として、戦略・組織・データを束ね“稼ぐ仕組み”を設計から課題に応じ最適ケイパビリティを編成し伴走している。
 

 

「IP」市場が伸びるといえる3つの視点


 私は、これからIP市場がさらに伸びる理由は、大きく3つあると考えています。

 ちなみに、ここでいうIPとは、単にキャラクターやアニメ作品を指すものではありません。ブランドやキャラクター、地域、企業が持つ世界観や思想、物語まで含めた「意味の資産」と捉えています。
 

1:機能による差別化が限界を迎えている

一つ目は、機能だけでは差別化できない時代になっていることです。

品質や性能、価格といった競争力は、以前よりも短期間で模倣されるようになりました。AIの普及もあり、「何ができるか」という機能的価値だけでは、競争優位を維持することはますます難しくなっています。

だからこそ、消費者は商品そのものではなく、「なぜその商品なのか」という意味を重視するようになっています。
 

2:世界観や意味そのものが競争優位になっている

二つ目は、意味や世界観そのものが競争優位になっていることです。

消費者は、商品の機能や価格だけを見て購入するのではありません。そのブランドが持つ価値観や思想、物語、文化まで含めて共感し、「自分らしい」と感じるものを選ぶようになっています。

IPは、そうした意味を一貫して保持できる仕組みです。キャラクターであれブランドであれ、一度世界観が確立されれば、それを商品やサービス、イベント、映像、デジタル空間など、さまざまな形へ展開できます。つまり、意味そのものを資産として保有し、何度でも活用できるのです。

物理的な制約を受けずに展開できるため収益性も高く、ビジネスにおけるアセットとして非常に優れています。
 

3:IPは消費者の意思決定を圧倒的に速くする

三つ目は、IPが消費者の意思決定を圧倒的に速くすることです。

人は商品を選ぶとき、無意識に「これは自分にとって意味があるか」を判断しています。IPは、その意味を最初から持っているため、購入理由を考える時間がほとんど必要ありません。

たとえば、オリオンビールは非常に強いIPを持っていますよね。沖縄旅行へ行ったとき、「友人とおそろいでオリオンビールのTシャツを着たい」という理由だけで購入できます。

同じTシャツでも、ユニクロならサイズや色、価格などを比較して選びます。一方でオリオンビールのTシャツは、「沖縄に来た思い出を共有したい」という目的と直結しているため、迷うことなく購入できます。IPは、「何を買うか」ではなく、「何をしたいか」と結び付いているのです。

アクリルスタンドも同じです。アクリルスタンドそのものが欲しいというより、「推しと一緒にカフェで写真を撮りたい」「SNSへ投稿したい」といった体験が欲しい。商品がやりたいことと直結しているため、意思決定が極めて速くなります。
 

「IP」市場の特徴をマーケティングにどう活かすか


 この「意思決定の速さ」は、企業のマーケティングにも大きな意味を持ちます。

 不確実性が高い時代ほど、新しい取り組みには「なぜそれをやるのか」という説明が必要になります。IPは、その説明を大幅に簡略化してくれます。だから私は、これからは「IP経営」が企業にとって重要な判断軸になっていくと思っています。

 実際、コンテンツ・IP市場はゲームやアニメに限らず、国内外で急速に広がっています。そして最近は、自社のブランドそのものをIPとして捉え、事業を組み立てる企業も増えてきました。

 従来は「ブランド」と考えていたものを、「IP」と捉え直した瞬間に、展開できるビジネスの幅が大きく広がります。「グラニフ」は、その代表例です。自社でキャラクターIPを保有しているわけではありませんが、多様なIPとライセンス契約を結び、アパレルとして編集・展開することで独自の価値を生み出しています。

 IPには、コラボレーションを容易にする力もあります。本来なら接点のない異業種同士でも、IPを介することで自然な意味付けができます。実際、コンビニや飲食店では、IPとのコラボレーションが当たり前になりました。「そのIPを好きな人に向けて商品を届ける」という共通目的があるため、業種が違っていても違和感なく企画が成立します。

 以前は、「なぜこの会社同士が組むのか」という説明を社内外へ行うこと自体が大きなハードルでした。しかしIPが間に入ることで、その意味付けが一瞬で共有されるようになり、企業同士の連携スピードも大きく高まっているのです。
 

「IP」市場で伸びているブランドの事例


 IPの大きな強みのひとつは、海外展開との相性の良さです。コンテンツはインターネットを通じて瞬時に世界へ届けられます。物理的な商品とは違い、「意味」は国境を越えるスピードが圧倒的に速いのです。

 インバウンドとの相性も非常に良く、たとえば表参道のキデイランドには連日多くの外国人観光客が訪れています。また、東急プラザ表参道「オモカド」にある「ちいかわベーカリー」では、パン1個が約800円でも高い人気を集めています。消費者はパンを買っているのではなく、「ちいかわの世界観を体験する時間」に対価を払っているのです。
   ちいかわベーカリー公式サイト

 

 そして、IPはキャラクターだけではありません。虎屋のような老舗ブランドもIPですし、浅草や富士山といった地域そのものもIPになり得ます。

 さらに、企業が長年培ってきた技術や思想、哲学も、編集の仕方次第でIPになります。つまり、多くの企業は、すでにIPになり得る資産を持っているのです。

 重要なのは、それを一貫した物語として語れる状態にすることです。「なぜ存在するのか」「何を大切にしてきたのか」「どのような文脈で評価されてきたのか」。そうした意味を整理し、継続的に発信していくことで、ブランドはIPへと育っていきます。

 これは、ビジネスの考え方そのものを変える発想でもあります。これまでは、新商品を次々に投入し続けることで売上を伸ばすことが基本でした。一方、IPは意味そのものを繰り返し活用できます。一度つくった世界観を、商品、イベント、コラボレーション、ライセンスなど、さまざまな形へ展開できるため、「一度つくれば何度でも価値を生み出せる資産」になるのです。

 特に老舗企業には、長い歴史の中で積み重ねてきた物語や信頼、技術という豊富なアセットがあります。それらをIPとして編集し直すことで、新たな成長機会はまだまだ広がっていくと思います。

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