日本市場の構造変化と、伸びる市場の共通点を捉える
IP、二次流通:これから伸びるマーケットを自社ビジネスにどう取り入れる?【マーケター 藤原義昭氏インタビュー】
2026/07/30
「二次流通」市場が伸びるといえる3つの視点
二次流通市場が伸びている理由として、「節約志向が高まったから」と語られることがよくあります。しかし、私はそれ以上に、やはり消費の評価軸そのものが変わったことが大きいと考えています。
1:価値を決めるのは企業ではなく、市場になった
一つ目は、商品の価値を決める主体が変わったことです。これまでは、ブランドが決めた定価が価値の基準でした。しかし今は、「実際に欲しい人がいるのか」という市場の評価によって価値が決まる時代になっています。つまり、商品の価値は販売した瞬間に固定されるのではなく、マーケットの中で継続的に評価され続けるようになったのです。
実は、この考え方は以前から住宅や自動車では当たり前でした。たとえば、自動車には「リセールバリュー」という考え方があります。メルセデス・ベンツ Gクラス(通称ゲレンデ)やトヨタ・プリウスのように、中古市場でも価格が落ちにくい車種は、新車の段階から高い評価を受けています。つまり、一次流通と二次流通は切り離された市場ではなく、最初からひとつの価値の循環として捉えられているのです。
こうした考え方が、今ではファッションや日用品、趣味の領域へも広がりつつあります。
2:消費が「所有」から「循環」へ変わっている
二つ目は、消費そのものが「所有すること」から「循環させること」へ変わっていることです。以前は、商品を買った時点で消費は終わっていました。しかし今は、買い、使い、手放し、次の人へ受け継ぐところまでが、ひとつの消費体験になっています。つまり、消費は一回限りの行為ではなく、時間を含めたプロセスへと変化しているのです。
この考え方は、サステナビリティの広がりとも重なります。「どれだけ長く使えるか」「次の人にも価値が残るか」という視点が、購入時の判断基準になりつつあります。
3:二次流通が商品開発に影響を与え始めている
三つ目は、二次流通市場の評価が、商品企画そのものにフィードバックされ始めていることです。たとえば、メルカリを見ると、中古でも高値で取引される商品と、ほとんど値段が付かない商品があります。最近では、その違いを徹底的に分析し、「中古市場でも価値が維持される商品」を前提に企画を行う企業が増えてきました。
ロレックスやエルメスは、その代表例です。彼らは商品そのものだけではなく、生産量や流通量まで含めて設計しています。中古市場に商品が過剰に流通しないようコントロールすることで、リセールバリューを維持し、新品の価値も守っています。
中古市場で価格が維持されるからこそ、新品も安心して購入できる。この循環そのものがブランド価値を支えているのです。
「二次流通」市場の特徴をマーケティングにどう活かすか、伸びているブランドの事例
二次流通は、高級ブランドだけの話ではありません。たとえば絶版になった書籍は、新品よりも高い価格で取引されることがあります。つまり、二次流通とは中古品の市場ではなく、「市場が価値を再評価する仕組み」なのです。
だからこそ企業は、自社のビジネスへ二次流通をどう組み込むかを考える必要があります。方法は大きく二つあります。
ひとつは、自社で二次流通を事業として展開する方法です。たとえばパタゴニアやザ・ノース・フェイスなどのアウトドアブランドは、自社製品を回収し、修理して再販する取り組みを行っています。これは単なるリユース事業ではありません。ブランド価値の向上や環境への取り組み、ESG経営とも結び付いた重要なブランド戦略になっています。
もうひとつは、事業として行わなくても、「二次流通されること」を前提に商品を設計することです。認定中古品、下取りサービス、修理体制、メンテナンスプログラムなどは、すべてこの考え方につながっています。重要なのは、「売ったら終わり」ではなく、「その後も価値が続くこと」を前提に設計することです。
一方で、自社で二次流通まで手掛ける場合には注意も必要です。新品をつくる技術と、中古品を修理・再生する技術はまったく異なります。たとえば家具業界では、新品を製造する職人が、そのまま修理もできるとは限りません。修理には別の専門技術やオペレーションが必要になるため、新品事業とは異なる仕組みとして考える必要があります。
また、現在の二次流通はメルカリのようなCtoCマーケットが中心です。ここで価格が付くということは、「誰かが欲しい」と思っていることが可視化されているということでもあります。中古価格は単なる価格ではありません。人気や希少性、ブランドへの信頼、ストーリー、コミュニティなど、さまざまな価値が集まった結果として形成されています。
だからこそ、マーケティングの視点では、「二次流通でも値崩れしない商品設計」が重要になります。修理しやすい構造にすることも、そのひとつです。「壊れたら修理できない」という商品よりも、「長く使い続けられる」と思える商品のほうが、購入時の安心感につながります。
さらに重要なのは、商品とともにストーリーも引き継がれることです。ザ・ノース・フェイスでは、子どもが着られなくなったウェアを回収し、補修を施して再販売する取り組みを行っています。単に服を再利用するだけではありません。「親から子へ受け継ぐ」「思い出も一緒に引き継ぐ」という物語まで含めて価値を提供しているのです。
まとめ:4つの市場に共通するもの
前編・中編・後編を通じて、富裕層、インバウンド、IP、二次流通という4つの市場についてお話ししてきました。
一見すると、それぞれ別の市場に見えるかもしれません。しかし前編でも説明した通り、共通しているのは「価値が時間や文脈を超えて残り続けるかどうか」で評価されるということです。いま支持されているブランドは、その条件を満たしているブランドなのではないでしょうか。
もちろん、4つすべてに同時に取り組む必要はありません。大切なのは、この4つを成長市場として追いかけることではなく、価値が生まれ、広がり、残っていく構造として理解し、自社のビジネス設計に取り入れることです。
最初にやるべきことは、「中古事業を始める」といった施策ではありません。まず必要なのは、顧客を定義し直すことです。
「誰に選ばれたいのか。」
「なぜ、その人たちは自分たちを選ぶのか。」
「自分たちの価値は別の文脈でも通用するのか。」
「時間が経っても、その価値は残り続けるのか。」
こうした問いから出発しなければ、商品やマーケティングだけを改善しても、大きな成果にはつながりません。
商品そのものを、時間軸まで含めて設計し直すこと。「使われる」「語られる」「受け継がれる」。そうした状態をつくれるかどうかが重要なのです。
企業はどうしても短期的なKPIに目を向けがちです。「今月どれだけ売れたか」という指標だけではなく、「誰に支持されているのか」「どのような文脈で語られているのか」「その価値は次の消費につながっているのか」。こうした時間軸を含めた評価指標を持つことが、これからのマーケティングには必要なのではないでしょうか。
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