海外ニュースから読み解くマーケティング・トレンド #04

GAFA を倒す方法は、社会的つながりへの回帰にある【ニューバランス 鈴木健】

GAFAは、時間を奪い合っている

 SHOWROOMの前田裕二氏によれば、GoogleやFacebookなど、いわゆる4騎士「GAFA(Google、Amazon、Facebook、Appleの頭文字)」のようなデジタル時代のプレーヤーが争っているものが「可処分時間」である。

 デジタルデバイス上の接触が勝負の分かれ目である場合、時間がひとつの鍵になっていることは間違いないだろう。そのことは、早くからオイシックス・ラ・大地の奥谷孝司氏が指摘していた。

 ただし「時間の共有化」という点で考えれば、前田氏によるとオンラインとオフラインとの境目がなくなり、「可処分時間」ではなく「可処分“精神”」の争いになった際、GAFAのアドバンテージがなくなるという。


 彼が「精神」と呼ぶものは、「好き」や「共感」のような感情的な意味だけでなく、AIによる自動化などによって、かつてあった人との触れ合いが減少している点を指している。これは退行的な視点のようだが、精神と同時にコミュニティや分散化が語られることを見る限り、テクノロジーの進化の恩恵を受けた人々によって必然的に回帰してくる人間の「社会的関係の本質」を意味している(彼はそれを宗教に似たものと表現している)。

 SHOWROOMというプラットフォームは、個人がライブ配信するという行為を通して、YouTubeよりも生の個人とのコミュニケーションの時間を共有させて、より緊密で精神的な社会的関係を提供しているように見受けられる。

 「投げ銭」のような形でその関係の価値を高めることができるのも、彼がいうコミュニティをつくることを意図している。面白いのは、このような関係そのものは極めてオフライン的な体験だが、テクノロジーによって物理的な障害を越えたコミュニティに拡大することが可能な点である。
 

可処分精神とは「社会的な人とのつながり」

 時間を奪い合うという視点のみだけでは、単に短い時間のコンテンツを数多く視聴する消費者と考えがちだが、実際はその先に求めている精神、つまりオフライン的な感情や体験といった価値を志向しているのであれば、問題は長さや質なのではなく、社会的な関係にあると言える。

 そういう意味で興味深いのは、そのような社会的な関係を時間で共有する体験をつくり出すことをテクノロジーが個々のコストを最小限にして、マッチングさせるプラットフォームができつつあるということだ。実はUberやairbnb、メルカリなど、すべてそのようなマッチングサービスだし、エンターテインメントでいえば、「Player Unknown Battle Ground(PUBG)」のようなゲーム体験は、ソーシャルゲームをより時間に特化して生まれている。

 このようなサービスは、あらゆる社会関係に適用できるため、デートや飲み会はもちろん、仕事や教育などの世界にも応用されていくだろう。このような価値は社会的な関係を通して交換されることが前提なので、数量的な規模の拡大化でマネタイズできる。「投げ銭」はどんな形でも応用できるのであって、その価値を分散化技術によってコストを最小化する技術がブロックチェーンになる。さきほどの前田氏はコミュニティが分散化を加速するといっているのは、テクノロジーとしては中央集権化しないシステムが必須だからである。

 そう考えると、精神の競争とは、つまるところ前田氏が想像するように、デジタルによって時間の奪い合いに置き換えられた社会における「人と人とのつながりへの回帰」だといえる。そして、そのような人とのつながりを物理的な距離や、コミュニティの壁を越えて行き来するためにデジタルプラットフォームが役立つ。


 それはオンラインが主で、オフラインが従という考えではなく、人とのつながりである社会関係が主で、オンラインは道具に過ぎないということだ。GAFAの死角とは、そのような「可処分精神」がもたらす社会的つながりへの回帰である。

 この点で重要なのは、何がデジタルに還元できて、何が還元できないかを見極めることだろう。いくらデジタルに還元できない良さをもっていても、プラットフォームが弱ければ、人とのつながりは深くなってもスケールしないためビジネスになりくい。かといって還元できるものを追いかけているだけでは、最終的にGAFAのような競争に負けてしまう。

 その意味で「デジタルに還元できない社会的交換価値」をデジタルによってスケールさせたプレーヤーが、GAFAとの闘いの勝者になるのかもしれない。
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