SXSW現地レポート #01

テクノロジーの先進性を競う場から、“体験の創造”の場へ【奥谷孝司・風間公太 SXSW現地レポート】

圧倒的な規模、熱量、そして混沌。

 毎年3月に米国テキサス州オースティンで開催されるSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)。1987年に音楽祭として始まった同イベントは、現在ではインタラクティブ、映画、音楽をテーマに、多くのイベントやカンファレンスが10日間余りの期間で実施されている。

 筆者らは、2013年以来の参加と6年ぶりのオースティンとなる。当時、日本ではまだまだ知る人ぞ知る存在の印象だったSXSWも、近年は「TwitterやAirbnbがブレイクするきっかけになったイベント」という説明が必要ないくらいポピュラーな存在になった。視察はもちろん、Trade Showへの出展などでも、日本からの参加者が増えている。
 

テクノロジーが再認識させる五感や身体性

日本ブースの様子
 6年前の視察と比較して変化を感じた一つが「体験」の進化だ。昨今、フィジタル(フィジカル+デジタルの造語)という言葉も耳にするようになった。筆者の一人である奥谷が昨年参加したパリでのリテールウィークでは、盛んにこの言葉が使われ、会場を賑わせた。

 SXSWでも単に優れたテクノロジーを声高に叫ぶのではなく、身体との接触とテクノロジーを掛け合わせるような体験の提供に世界のトレンドが向かっているのだろうと、多くの展示から感じることができた。ここでは、そのトレンドを表す事例を6つほど紹介したい。
 

世界が体験の提供に向かうことを示す「6つの事例」

■FATHER’S NURSING ASSISTANT(DENTSU / Ginger Design Studio / Apex)
FATHER’S NURSING ASSISTANT
 子育てを経験した男性にとって、授乳はどれだけ願っても実現できないもの。ある意味、そんな男性たちの念願を叶えるプロダクトだが、決して男性の擬似授乳体験が主旨ではない。

 「FATHER’S NURSING ASSISTANT」の名の通り、女性が行なう授乳の身体的/時間的負担を軽減させて睡眠の確保などを実現し、男性に対して、より積極的な子育てサポートを促すことを目的としている。生身の身体の接触の再現にもこだわり、赤ちゃんが乳首を吸ってミルクを飲むと本体が振動して、男性側は授乳を行なっていることを実感できるようにしている。赤ちゃんも母親の心臓の鼓動に近い状態を感じ、安心感が得られる。

 専用のアプリでは授乳の様子をリアルタイムで把握でき、飲んだミルクの量や時間なども記録される。哺乳瓶を進化させた、“身体型哺乳瓶”とも呼べるプロダクトだ。

■浮遊棒(Todai to Texas)


 毎年、東京大学関連の選ばれしスタートアップが新しいアイデアを展示するTodai to Texas。この浮遊棒(LevioPole)は、VRゴーグルをかけ、両端にドローンが付いた棒を頭上に掲げると、ドローンによる上方向への浮力とVR映像が体を引き上げる錯覚を生み出し、垂直的な落下ではなく、ふわりふわりと緩やかに地面に向かう感覚を体験することができる。

 両足が地面に接触している状態ながらも揺らぎを感じる。“経験したことがありそうで無かった浮遊感”は、繰り返し体験したくなる快楽性を持っている。

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