SXSW現地レポート #01
テクノロジーの先進性を競う場から、“体験の創造”の場へ【奥谷孝司・風間公太 SXSW現地レポート】
既存プロダクト+テクノロジーで公共性を持つサービスに。
SXSWは一つの会場ではなく、オースティンの市街地広域で開催されるため、頻繁な移動が強いられる。6年前に訪れた際も、とにかく歩き疲れた印象があるが、今回は4社の電動キックスクーターが街の至る所に置かれていていた。
電動キックスクーター自体は珍しいプロダクトでは無いが、アプリでQRコードを読めばすぐに使え、指定範囲内であれば乗り捨て自由。“シンプルなUIと細かなルールに束縛されないサービス設計”が利便性を高め、短距離移動インフラを担う圧倒的な存在感を出していた。
一方でこのキックスターターがもたらす乗り捨てや、転倒の危険性といった社会的課題も会期中に垣間見ることができた。中国ではすでに顕在化しているシェアバイクの乗り捨て問題は、国民性の問題ではなく、デジタルが拡張する身体性がもたらす世界的課題とも言える。
このようなデジタルの進化がもたらすプラスの側面だけでなく、課題にまで思いを馳せることができるのもSXSWの魅力なのだ。
SXSWは、次の課題とアイデアを披露し続ける場
冒頭に述べた、テクノロジーの先進性から「体験」の創造にSXSWの流れが向いていると筆者らが感じたように、新しい価値をテクノロジーから得ることは、もう限界がきているのかもしれない。たいていのことはテクノロジーで実現でき、そこからイノベーションは生まれない。使い手の体験発想でどうテクノロジーを使うのかという視座に立たなければ、次の進化はない。
SXSWは日本国内の洗練されたカンファレンスやイベントと比較すると、スマートではなく、雑多で混沌とした場であり、最先端で見たこともないテクノロジーやイノベーションの発見を期待してSXSWを訪れても肩透かしを食うだろう。失礼な言い方だが、「これでビジネスになるの?」「くらだない」「何を目指しているの?」と言いたくなるようなものも多い。
「SXSWとは何か?」を簡単に見出すのは難しいが、我々がSXSWから学ぶべきは、“まずアイデアを形にする姿勢”なのだと思う。荒削りなアイデアも多く、今回ご紹介したプロダクトやサービスにも、少し深掘りすると課題が顕在化するものもあるが、課題がアイデアを生み、アイデアが課題を解決し、さらに新たな課題が提示され、そこからどんな体験価値を生み出すかの指針にあふれていることを見逃してはならない。
そして、SXSWにおいて注目すべきは、体験をどの視点から構築するかであろう。既存のハードウェア中心に企業視点でのテクノロジー活用を設計するのか、ユーザー視点から体験を再設計し直すためにテクノロジーを活用することができるか。この差が未来へのアプローチの差になるように思う。
課題の否定ではなく、むしろ肯定として捉えて、“社会とつながる課題解決とアイデア実現の可能性を提供し続けている場”であるSXSWの気概に、大いなる敬意を表したい。
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