中国の「リアルな生活者」の姿を追う #03
不安視される経済も、依然高い中国の消費意欲。購買の決め手は「質問行動(Ask)」
中国30代男性の「NEV購入」の決め手になった情報
陳さんは、上海市の郊外に住む34歳の男性。外資系オフィス機器関連企業に勤めていて、奥さんと10歳のお子さんと暮らしています。彼は初めて購入した車がコネクテッド機能搭載のNEV(新エネルギー車)だったそうで、購入する際の情報検索行動を聞いてみたところ、「オフィシャルサイトの情報は、本当に信じられるかわからない。逆に、実際に使っているユーザー同士の話は信ぴょう性が高かった」と言っていました。
もちろん陳さんは、メーカーのオフィシャルサイトや自動車専門サイトも閲覧して情報を確認していたそうですが、それとは別にメッセンジャーアプリの「WeChat」や「QQ」のNEVのユーザーグループを車の購入検討に活用していました。
その理由については、「ユーザーグループ内の発言を信用している。グループ内の人はお互いに利害関係がないから、嘘がない。また、ユーザー数も多く、自分が質問すると、実体験に基づいた回答が得られるといったメリットがある」と言っていました。
さらに、情報を一方的に得るだけではなく、自らも有益な情報を周りにも共有しているようで、「自分が車を入手した後は、自身の経験を基に購入を検討している人の質問に答えるようにしている。そうすることで、自分が他の人の役に立っていることがうれしい」と言っていました。
陳さんの行動に見られるように、いま中国の生活者は、買い物行動のプロセスの中で「質問する」「質問される」ことに積極的に関わり、「質問行動(Ask)」が確実に機能しているのです。
このような「質問行動(Ask)」が生まれた背景には、テクノロジー商品やサービスの発達によって、ECサイトでのQ&Aサービス(例:「問大家」)や、Q&Aアプリ(例:「知乎」)、SNSユーザーグループ(例:WeChat「朋友圏」
また、多くの生活者にとっては、ありきたりで誰もが入手できる情報をそのまま参考にして、購買決定することに対して、少々不満があるように理解できます。なぜならば、人口の多い中国の特性を考えると、他人との差別化、また、他人から見られて少しでも進んでいる消費をしている自分に対する自己満足への執着心がまだ根強いと言えます。
そのため、誰もが手に入れられ、なおかつメーカーから発信される、送り手視点の情報のみを信用して、機械やAIのパターン化された情報に翻弄されるような消費行動に対して、生活者が徐々に拒否しはじめているようにも考えられます。その代わりに、自分だけの視点で、他人より深く知ることができる情報を入手したいというニーズが以前に比べて圧倒的に強くなってきていると言えるでしょう。
従来の購買プロセスにおいては、「情報収集行動」が購買検討の中心的な役割を果たしていましたが、送り手視点の情報から探す「情報収集行動」のみに頼るのではなく、自分視点の情報を「質問行動(Ask)」で発掘しようとする生活者の変化がうかがえます。
今後、マーケティングを行う企業側にとっても、一方的に情報を設計し、発信するだけで生活者の「質問行動(Ask)」に対応しきれるとはとても思えません。従来型の情報流通形態にとらわれず、生活者が既に活用し、進化を続けている「質問行動(Ask)」という視点を取り入れて、生活者の新しい購買プロセスにミートできるマーケティングソリューションを見つけることがとても重要となるでしょう。
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