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海外ニュースから読み解くマーケティング・トレンド #05

中国の企業だけが、なぜGAFAに勝つことができるのか【ニューバランス 鈴木健】

シリコンバレーの「軽さ」を中国の「重さ」が凌駕する


 李開復によれば、そもそもこのようなビジネスのイノベーションの捉え方、つまり本質的にデジタルだろうがリアルだろうが構わず、消費者の便益を追求するという姿勢は、中国のアントレプレナーの文化の特徴であるという。

 シリコンバレーの起業家は「世界を変える」ことを理念として掲げ、スマートでエレガントなデジタル技術によって解決することを目指しているのに対して、中国の起業家は「市場で生き残って勝つ」ことを目指している。

 そのため、デジタルテクノロジーだろうが、店舗だろうが、ロジスティクスだろうが、使えるものはすべて使って、泥臭く顧客の目的を達成することを優先している。このような態度の違いは、手段だけなく、そのスピードや変化に対する適応能力の違いに現れる。
 
 AIをいかに実用化するかという時代において、(中国の)O2O革命は、米国・シリコンバレーと中国に、より深く、よりインパクトが大きい形で差を見せつけることになった。それは私が「軽くいくこと(going light)」と「重くいくこと(going heavy)」と呼ぶ違いである。この違いは、インターネット企業が商品やサービスを提供する上で、どの程度、包括的(involved)であるかということである。それは企業がオンラインとオフラインの世界をどの程度、垂直的に統合しているかを示している。

書籍『AI Superpowers』より筆者訳

 李開復は、シリコンバレーのアントレプレナーシップはスマートな「軽さ」を重視するのに対して、中国はあえて物理的な投資も含めた「重さ」を厭わないと言及している。その方が強力な武器になるからであり、また一気にデータを得ることができれば、それがアドバンテージになることが自明なほど市場が大きいからでもある。

 この態度のズレを知ると、先ほどの「なぜEC企業がリアル店舗に進出するのか?」という疑問を投げることがいかに馬鹿げているかが分かる。中国のアントレプレナーの本音は「そんなノンビリしたことを言っていたら、競争に負けてしまうよ」ということなのだろう。

 例として、李開復は著書の中で、レストランガイドサービスである米国「Yelp」と中国の類似サービス「大衆点評(ダージョンディエンピン)」を比較している。

 Yelpのアプローチは「遅く、軽く」だ。当初は、デジタル上の広告収益のみで戦っていたが、11年目にしてフードデリバリーサービス「Eat24」を買収して、フードデリバリーを開始した。だが、そのやり方は基本的に加盟店レストランがデリバリーを担う形で、プラットフォームに参加することにレストラン側のメリットが十分にあるとは言えず、鳴かず飛ばずの結果しか出なかった。結局2年半で諦めて、「Eat24」を同じフードデリバリーサービスである「Grubhub」に売り飛ばしてしまったのだ。
 
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 一方で、「大衆点評」は、コマース事業にフードデリバリー事業に「重く」参入した。彼らは、何百万ドルもの投資をして自前でスクーター配送のチームを編成し、自社配送を開始したのだ。今や配達能力がなかった小さなレストランまでも加盟している。その結果、大衆点評はグループ購入サイトの「美団(メイツゥアン)」と合併し、2017年に企業の評価額は、なんと「Yelp」と「Grubhub」をあわせた総額の3倍以上である300億ドルにまで到達している。

 このような「重い」アプローチは、タクシー配車サービスの米国「Uber」と中国「DiDi」の違いにも表れている。「DiDi」は、タクシー用のガソリンスタンドから修理工場までをも買収することで、契約タクシードライバーの信頼を勝ち得ている。また、「Airbnb」の競合である中国「途家(トゥージャー)」も、自らレンタル物件を所有し管理し始めているのだ。

 このような取り組みは、これまでのデジタルとリアルの世界の関係を今までと違った見方で捉えることを可能にする。何よりリアル世界での消費パターンや個人の消費傾向を把握しやすくし、そこで生み出されたデータがAI企業のリソースとしてさらに高度な技術を生み出すことができる循環を生むのだ。

 それだけ中国の日常的な生活にはモバイルアプリを含めたテクノロジーが深く浸透しており、それが社会と経済に与えるインパクトが大きいと言える。このようなリアリティを理解してこそ、中国のイノベーションを評価すべきである。
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