中国の「リアルな生活者」の姿を追う #05
ユーザー3000万超えアプリが多数誕生。中国「耳経済」の躍進は見逃せない
音声コンテンツが脚光を浴びる背景
音声コンテンツの急速な発展をもたらしている社会的な要因の一つとしては、スマホなどスマートデバイスの普及によって人々のメディア接触習慣が大きく変わってきているためとも言えます。
中国では「ラジオ」媒体のメディア価値について少し懐疑的に思っている方が多いようですが、この1~2年のデジタル音声コンテンツ配信アプリの発展によって、音声コンテンツが新たに脚光を浴びる時代になってきているとも感じられます。それは、まさしくデジタルテクノロジーがもたらした生活習慣の変化の一つとも言えるでしょう。
私自身もそうなのですが、車を運転しながら、書籍や語学レッスンの音声コンテンツを聞いているドライバーが最近増えていると聞きます。その理由は、日々忙しい中、移動中でも耳から簡単に情報を得られることがユーザーメリットになっているからと考えられます。
そうしたユーザーニーズが高まっていることもあり、近年は自動車業界も、生活者が運転しながら音楽や音声コンテンツを楽しみたい(いわば、情報の「ながら消費」)という需要に着目しています。IoT技術を活用した車載音声コンテンツを楽しめるオーディオスペックの商品強化に各車メーカーが一斉に動き出した、という開発トレンドは象徴的だと言えます。
もう一つ別の要因としては、「中国漢字」の構造です。漢字は象形文字としての視認性が高いという特徴がある一方、入力する際に多少手間がかかると言われています。特に、お年寄りや子どもなど、中国語入力に欠かせないピンイン(中国語の読みをアルファベットの発音で表示すること)が困難な人も多い中国では、面倒な手書き入力の代りにスマートフォンに対して直接音声を吹き込み、音声メッセージとしてやり取りする人が多いという背景もあります。
さらに、最近では飛行機などでの移動中、紙書籍や電子書籍を読む代りに、スマホやタブレット端末から書籍を読み上げてくれるアプリサービスを利用する人が増えてきています。
昔から、「百聞は一見に如かず」ということわざがあります。何度くり返し聞いたとしても、一度でも実際に見ることには及ばないという考え方に間違いありません。一方で、IoTやAI(人口知能)などテクノロジーの生活浸透によって、今後も音声解析の技術進化による生活習慣の変容には大いに期待できると思います。それにより、情報接触においては目よりも耳の優位性が再評価され、デジタル音声コンテンツがもたらす「耳経済」時代の本格的な波がやってくるのではないか、とも想像できるでしょう。
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