カンヌライオンズ レポート
ブランドは文化の一部になるか、黙殺されるか。選ばなければいけない。【電通 田辺俊彦】
裏側から見るカンヌライオンズ。
審査員として参加したカンヌライオンズはこれまでになく新鮮で、裏側から見える景色は表側の華やかなお祭りとは随分と違うものだった。
審査を担当したSocial & Influencer部門は設立2年目。おそらく今年のカンヌ全体の中でも最もカオスで、最高に面白い部門だった。今の時代、ソーシャルの要素が絡まないキャンペーンなどないし、単品のフィルムから複雑なキャンペーンまで合計1507作品が出品されていた。
日差しの届かない薄暗い部屋の中で交わされた議論の一つひとつが貴重な学びだったので、文字数が許す限り日本に共有したいと思う。
受賞作には、大きな共通点がある。
審査の中で最も引用されたパワーワードを一つあげるなら、それは「カルチャー」だと思う。そのブランドはカルチャーに寄り添っているか。社会のコミュニティの一員として認められているか。
20世紀型の一方通行なマーケティング活動に終始するブランドは、一切評価されることはなく黙殺された。
今年カンヌを席巻したNIKEの「DREAM CRAZY」も。そのNIKEを抑えて我々の部門でグランプリを受賞したWendy’sも。予想外のインフルエンサーの起用方法で複数のライオンを受賞したDieselも。それぞれの受賞理由には共通する4つの要素がある。
- あるコミュニティのカルチャーを深く理解し
- 勇気を持って
- 迅速に反応し
- 共感をビジネスにつなげることができたか
NIKEの事例はあまりにも有名なので割愛しつつ、グランプリのWendy’sのケースを見ていきたい。
グランプリの方程式。
まずWendy’sのキャンペーンの流れを見てみよう。
赤毛のWendy’sのキャラクターが世界最大級のオンラインゲーム「FORTNITE」に降臨し、ゲーム世界のあらゆる「バーガー屋の冷蔵庫を壊しまくる」というシンプルかつ破壊力のある行動に出る。そしてTwitterで、その理由が明かされる。「Wendy’sはバーガー界からまずい冷凍ビーフを撲滅したい」のであると。
その破天荒な行動を面白がったユーザーたちがこぞってゲーム世界の冷蔵庫を最後の一つまで破壊しまくり、ライブストリーミング配信サービス「Twitch」で配信された映像は他のメジャーなSNSにもすぐに飛び火し、大拡散した。
勝因は先ほどの方程式に見事にハマる。オンラインゲーム「FORTNITE」でバーガーVSピザのフードバトルが開催されることを知ると「すぐに」Wendy’sはTwitter上でバーガー陣営へ宣戦布告し、最初の話題をつくった。
もともと予定されていたイベントを場外からぶち壊すことで反発を生むリスクもあったが、ゲーマーたちが予定調和じゃない「祭」を好むことを熟知しているWendy’sは「勇気を持って」行動に出た。
さらに冷凍ビーフを使わない、という自社商品のRTB(Reason to Believe:信用できる根拠)までしっかり浸透させ「ビジネスに鮮やかにつなげている」。カルチャーファーストでありながら、極めて戦略的なキャンペーンでもある。
Wendy’sが指し示す未来への希望。
「FORTNITE」は、そのユーザー規模(世界中で2億5000万人以上がプレイしていると言われている)から、もはやゲームではなくSNSだと言う人すらいる。
NETFLIXの役員曰く、彼らの今の最大のライバルは「FORTNITE」だそうだ。
だからこそ、ここ数年SAMSUNGを始めとする大手スポンサーが「FORTNITE」にビッグマネーを投入し、Gen-Z世代の取り込みを狙ってきた。
そんな中Wendy’sは巨額の予算を投入しなくても、カルチャーを深く理解し、勇気とスピードを持って行動すれば大きな結果を出せることを証明してしまった。
これは、予算が潤沢ではないチャレンジャーブランドにとって素晴らしい「希望」であり、僕ら10人の審査員は、この「希望」を世界に広く発信するためにNIKEではなくWendy’sに最高の栄誉を与えることを決めた。