中国の「リアルな生活者」の姿を追う #06
知る人ぞ知る、中国で進化する「イマーシブ型消費」のいま
日本未上陸の「スリープノーモア」、上海で人気
近年、若者たちがオンラインゲームやSNSなど、インターネットを介したコミュニケーションに夢中になっていることがよく話題になります。確かに、オンラインやゲームの世界は、地域や世代を越えて新しい友人と出会うことができ、共通の趣味を持つ友人との交流を求めている若者を強く惹きつけていると思います。一方で、リアルの場での体験や交流も重要と考え始めている若者も増えているようにも感じます。
今まで二次元の世界でそれぞれ個人として楽しんでいた漫画やアニメなどの趣味は、コミックマーケットでのコスプレなど、リアルイベントの場に集って仲間と一緒に楽しみたいという欲求も年々強くなっているようです。
先日、開催された中国の動画配信サイト「ビリビリ動画」のイベント「ビリビリマクロリンク」でも中国版Vシンガー(バーチャルシンガー)のホログラムショーが盛況でした。さらにこの2、3年で、「脱出ゲーム」や「ボードゲーム」など、より参加性を求める「イマーシブ」な体験型施設が多くの都市で増えています。
若者が重視し始めているイマーシブな体験の一例として、いま上海で上演中のニューヨーク発のオフブロードウェイ作品「スリープノーモア」があります。こちらは先ほど紹介した「劇本殺」と異なってプロの役者が演じる演劇ですが、ホテルを模した6階建のビル空間内において同時進行で進む複数のストーリーを観客自身が役者を追いかけながら観劇するという構造です。
一回当たりのチケット価格は600元~800元台(1元=16円)で、決して安くはありませんが、客層は20代~30代の若者が多いと言われています。また1回では満足できず、2~3回も行くリピーター需要も多いそうです。ストーリーの展開に自分が参加しているイマーシブな感覚が、多くの観客にとって来場するモチベーションになっていると理解できます。
これらのイマーシブな体験型消費の増加の背景には、ただ受け手として体験したいという従来型の体験型消費と異なって、自らも参加するインタラクティブ性を持った体験へのニーズが、若者たちの間で広まっていると考えられます。
また、デジタル領域では5G通信技術によってVRが年々注目を集めていますが、今回ご紹介したイマーシブな演劇による体験は完全にアナログなものである一方で、ある種のバーチャル感を体現していることが興味深いと感じました。
本格的なVR自体の到来にはまだ時間がかかりそうですが、将来的なVR世界への期待を持つ若者たちは、すでに演劇やゲームなどのストーリーにイマーシブに参加することで、バーチャル体験を味わっているのかもしれません。また、今後はさらにオンラインとオフラインの融合も進み、OMOが導入されていくことで、イマーシブな体験がより加速し、まったく斬新な体験を感じられるようになる、そんな次の時代の到来を予感させてくれます。
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