2069年のクォンタムスピン #01

SF小説で、未来のマーケティングを描く 「2069年のクォンタムスピン」

世界を統べるAI「プロタゴラス」が業務と報酬を管理


 AIの時代では、人間が求められる仕事はスーパーインテリジェンスそのものをメンテナンスする業務を除けば、すべてレイバーと呼ばれる労働集約型の仕事に限定されている。AIは、そのレイバーの配分作業を担い、世界的な富を公平にベーシックインカムとして再配分している。

 主な人の仕事は、人間同士の交渉や関係構築、教育、介護などに集約されている。私は以前、マーケティング業務の中でも人に説明し、意見を促してまとめるファシリテーションが得意だったので、コネクティングやネットワーキングでも同様の仕事を依頼されることが多い。

 プロタゴラスからの今日の指示は、地球の裏側にあるサンパウロからの依頼だ。このように地球の反対側が夜の間に、昼間であるトーキョーのような経済特区でカバーするのは21世紀では当たり前になっている。これらの仕事は、ナイトデイレイバーと呼ばれる。

 今回は、現地の明日の朝までに、サンパウロ向けの健康食の消費促進を目的にしたAIデバイス用の施策のアルゴリズムのために、15万通りあるクリエイティブをチェックすることだ。もちろん全てを自分でやるわけではない。

 トーキョーにいる南米から来たグローバルホッパーと呼ばれる世界的に移動を許された経済特権階級の「クライアント」と、30分インタビューすることで、彼らの意見がそのアルゴリズムに反映される仕組みになっている。私のような老人はグローバルのスマートシティを移動できず、基本的にアウトサイド・トーキョーに住んでいるので、グローバルホッパーと違い「レジデンツ」と呼ばれる。

 私の身体はすでに年老いているが、アーバンモビリティサービス(通称:UMAS)を使えば、それほど苦もなく移動が可能だ。もちろんグローバルホッパーの住む特区まで行く必要もない場合は、VRで簡単にアポイントをセットできる。

 私はAIから指示されたホッパーのIDにアポイントをサブブレインと呼ばれる脳直結型のスマートデバイスを使ってリクエストし、AI経由で時間と場所がセットされ、自分のサブブレインに再度転送されてきた。



 その約束の時間は、今から3時間後。場所は、トーキョー特区のダイバエリアのカフェになっていた。VR可とサインがある。ありがたい。この歳では湾岸のダイバエリアに行くのは少ししんどい。だが、あえてそこに向かうのも悪くはないと考えた。アシストムーバーを使えば、多少楽に歩行ができるのと、たまにはリアルなトーキョー特区に行くのも悪くはない。こんなことが無ければ、行くことはないのだから。

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