2069年のクォンタムスピン #01

SF小説で、未来のマーケティングを描く 「2069年のクォンタムスピン」

サンパウロの社会課題を解決するためにトーキョーに向かう


 私はUMASをコールし、アシスタントムーバーを身体にセットしながら、今回の仕事の予習としてサンパウロのレジデンツエリアの食環境と健康環境をサブブレインからAIに確認した。

 サンパウロでは、海洋汚染が進んだために人々の健康に対する価値観が悪い方に変わったために、フィットネスや健康に気を使う人が減り、運動不足と高カロリー食が全年代に浸透して肥満化が進んで、糖尿病などの成人病が増加していた。

 プロタゴラスは、そのような価値観を元に戻そうと長期的な海洋環境の改善と、スポーツやフィットネスの文化を再興するために、伝統的なスポーツだけでなく、他国のアニメや音楽にダンスやスポーツとの結びつきを強くし、新しい文化的なアイコンをつくり出そうとした。

 食事の改善はその一環であり、スマートデバイスとソーシャルチップを使ったコミュニケーション施策を講じるというのが今回のアイデアだった。新しい健康食は見た目も味も人気のあるブラジル料理によく似ているが、植物を使った完全栄養食のスマートフードである。



 世界中のレジデンツたちはデータ摂取とID管理のために身体にソーシャルチップを埋め込まれており、AIはそのデータをもとに上記のような施策を自動的に選択する。今回の健康食のローンチも、課題が明らかになってから3年ほどの実行施策をしたうえでの6回目のアップデートとなる。消費数は上がっていたものの、まだ人口の大半はAIが求める健康データのレベルに達していなかった。

 UMASで移動している際に、今回の健康食のサンプルを取り寄せて試食した。10種類の植物を使った人工肉のハンバーグだった。歯応えも十分あるし、味も悪くない。世界的なチェーンのファーストフードレストランが採用し、北米のレジデンツでも実績があるらしい。UMASのなかで自分が頼んだ和食ランチ(これもトーキョーのレジデンツ用にAIがつくった料理だ)の人工肉の鶏肉と比べてみたが、遜色ない味だった。もちろん本物の肉などこの20年、口にしたことなどないが。

 私の記憶は、サブブレインによって100歳を超えても正確だ。サブブレインを使えば、プライベートクラウドの情報をAIで検索し、この20年間何をいつどこで食べたか、どのような健康状態だったかを何の支障もなく知ることもできる。自然肉を食べたのは2048年、つまり80歳の誕生日である5月22日だと記録にある。

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