海外ニュースから読み解くマーケティング・トレンド #07

マーケティングの「原則」は、この20年でどう変化したのか

原則の基礎は「戦略的コンセプト」からはじまる


 この2冊の本の全体構成は、基本的には『マーケティング大原則』と『マーケティングゲーム』は同じです。第1部は「マーケティングの基礎」、第2部は「基本的製品戦略」、第3部は「消費者コミュニケーション」、第4部は「販売促進・その他のマーケティング活動」となります。

 したがって、新しい『マーケティング大原則』も幅広い消費者向けのマーケティング活動に関わる原則を『マーケティングゲーム』と同じように、網羅的に扱っていることが分かります。

 とは言え、どちらも実践的な「困ったときにすぐに使える本」を目指していることもあり、決して学術的な教科書ではありません。そして、この4部構成は『マーケティング大原則』で足立氏が示唆しているように、フィリップ・コトラー教授の『Principles of Marketing(マーケティング原則)』を意識しています。

 しかし、両書にはマーケティングにおいて特に重要な点が書かれている第1部「マーケティングの基礎」で違いがあります。『マーケティングゲーム』では、第1部第1章から組織全体が統合されて動くための企業全体のミッションワーキングステートメントや行動計画について触れていますが、『マーケティング大原則』では『マーケティングゲーム』第4章で限定的な意味で用いられていた「戦略的コンセプト」が最初に掲げられています。

 さらに『マーケティングゲーム』では、第一部で「Audience(ターゲット消費者)」「Benefit(消費者便益)」「Compelling Reason Why(説得の力ある『信じる理由』)」というフレームワークが紹介されていましたが、これを『マーケティング大原則』では発展させて戦略的コンセプトをABCDEという5つの頭文字で説明しています。

 それぞれの差が分かりやすいように「戦略的コンセプト」の差を表にまとめてみました。戦略的コンセプトの比較は、シュルツ氏の本と今回の本の違いを如実に表しています。
 
  戦略的コンセプトABC 『マーケティングゲーム』 戦略的コンセプトABCDE 『マーケティング大原則』 相違点や注意点
① 誰のためのものか? ターゲット消費者 Audience ターゲット消費者 Audience 同じ
② どのような便益を提供できるか? 消費者便益  Benefit 消費者便益  Benefit 『マーケティングゲーム』では多くのマーケティングの失敗がここにあると指摘し、差別点の課題として捉えているが、『マーケティング大原則』では、ここでは差別化が困難という状況もあると指摘。
③ ①が②をもたらすのに説得力のあるどのような点があるか? 説得力のある「信じる理由」 Compelling Reason Why 差別点  Point of Difference 『マーケティング大原則』では、「差別点」が信じてもらえる理由として説明されている。
④ どの市場でどのような相手と競争するか?   カテゴリー Category 何と競合するか、というビジネスドメイン、ポジショニングを意味する。差別点としても機能する。
⑤ ①が思いをもち、強い反応を呼び起こす要素は何か? パッションポイント  Passion Point インサイト Insight 『マーケティングゲーム』は差別化のためには、消費者の心理的な反応点を見極める必要があると指摘。『マーケティング大原則』では、「消費者が困っていること」のような切り口。
⑥ 選択されるためにどのような魅力的なイメージを持っているか? ブランドパーソナリティ Brand Personality トーン&マナー Emotional Character 『マーケティング大原則』では、言語での意味合いだけでなくビジュアルなど感覚で伝えられるものとして定義されている。
⑦ 自社がもつ存在意義や提供価値は何か? ワーキングミッションステートメント Working Mission Statement ブランドパーパス Brand Purpose 直接の戦略的コンセプトの要素ではないが、組織においての意思決定する際の判断基準としての目的。『マーケティングゲーム』では企業の使命(ミッション)の解釈として捉えられている。

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