海外ニュースから読み解くマーケティング・トレンド #07

マーケティングの「原則」は、この20年でどう変化したのか

「マーケティング原則」の20年の違い


 共通点は、これらが「すべてのマーケティング活動において一貫して伝えるべきもの」という点です。そして伝えるためには、それらが複雑過ぎては使えません。その要素は出来る限りシンプルであるべきです。

 しかし、シンプルだからと言って今まで世の中にあるものと同じでは意味がありません。それが他と比べてどうユニークで、しかも選ぶにふさわしいほど良いものであるかが含まれていなければ意味がないのです。消費者から見たときは「どうユニークであるか」「どう優れているか」が重要です。

 『マーケティンゲーム』も『マーケティング大原則』も斬新でユニークな「差別点」が「戦略的コンセプト」の要であることは変わりませんが、時代によって変化していることもあります。

 まずシュルツ氏の時代では、この差別点は主に便益が問題点でした。書籍内の事例では、米国・航空会社の当時のタグラインが顧客から見てまったく便益に関係ないことが紹介されていました。ですが、『マーケティング大原則』では、現在では多くの商品カテゴリーにおいて便益で差がつきにくい点を指摘しています。

 また、『マーケティング大原則』において新しく見えるDの「差別点」とは、かつて『マーケティンゲーム』では重要な要素だったCの「信じる理由」です。これは前者においては「信じる理由」は便益の合理的な根拠という文字通りの意味よりも、便益を伝えるために説得力のある「ユニークな点」という切り口が必要なためです。
 
『世界的優良企業に学ぶ「あなたの知らない」マーケティング大原則

 『マーケティング大原則』においては、シュルツ氏が『マーケティンゲーム』において問題視していた点をいくつかの切り口で見つけやすいようにしています。そのひとつは、「カテゴリー」であり、「トーン&マナー」です。また、戦略的コンセプトの中には項目がありませんが、かつてシュルツ氏がパッションポイントと呼んでいた便益が「インサイト」にあたります。

 その意味で『マーケティング大原則』は、競争が厳しくなり差別化が難しい状況で「消費者が困っている点(インサイト)」や「誰を競合相手にするか(カテゴリー)」「どのような説得力をもつか(差別点)」「言語以外のビジュアルなどのイメージを持たせるか(トーン&マナー)」などを複合的に組み合わせることで強い戦略的コンセプトをつくり出す「切り口」を多く用意していると言えます。

 一方で、そのように要素が多くなるにしたがって、例えば便益が機能ではなく情緒的なものであるほど、「戦略的コンセプト」と実際の消費者コミュニケーションの形である広告とのズレが大きくなるという問題点を指摘しています。

 このズレをあまり大きくしないことが失敗しない対策のひとつ。つまり「なるべく戦略的コンセプトが広告に近い形でシンプルに伝わるものにすべきである」と言っているのです。
 

ブランドパーソナリティは「借りるべきではない」


 この問題点に際して、広告とのズレを増やさないための要素を『マーケティング大原則』では、具体的なビジュアルの雰囲気やコンセプトボードで作成することを推奨しています。

 実はシュルツ氏は「トーン&マナー」について戦略的コンセプトに言及する箇所では語っていなかったものの、第3部の「消費者コミュニケーション」や第4部の「消費者プロモーションやイベントなどの具体的なマーケティング活動」では、これに近いことを言及しています。「戦略的コンセプト」との一貫性を保つことの重要性を語るうえで「トーン&マナー」と近い意味で「ブランドパーソナリティ」という言葉を使っています。

 ただし、シュルツ氏にとって、このブランドパーソナリティは戦略的コンセプトの一部というよりも、多くの商品では確立できておらず、マーケティング活動によって強化が可能な要素として語られています。パッケージ開発や消費者プロモーションにおいて、このブランドパーソナリティが確立されれば、競争に勝てる要素になると指摘しています。

 一方で、シュルツ氏はこのブランドパーソナリティは「借りることができる」として、映画やテレビ番組のコンテンツやキャラクターなどを挙げていました。しかし『マーケティング大原則』では、広告でインサイトや便益、差別点を伝えていないものが実際に多く、注目を集める手法としては認めつつも、そうしたタレントをコミュニケーションの主眼に置いた「セレブリティマーケティング」のような方法は、投資額が多いわりに成功率が低いことを指摘しています。

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