海外ニュースから読み解くマーケティング・トレンド #08

幸せをつかむための「戦略」とは何か

マーケティングへの示唆となる「エージェンシー(行為主体性)」


 また、マーケティング的な示唆を最も得られたのは、第3章の「幸福を追求する方法」についてです。章のなかでアリエリー氏は、「がん患者に対して、どうやって希望を与えるか」というテーマについて、3つのものが必要であると語っています。

 そして、それは「1.達成可能である目標」「2.そこにいたる道筋」「3.エージェンシー(行為主体性)」であるとして、アリエリー氏は治療ではなく、がん患者の「前向きに生きる喜び」を具体的な目標として医師たちが患者とともに設定し、そこにいたる道筋を踏まえて治療計画を立て、患者が自主的にそれに向かって努力する主体性を持たせる事例について説明しています。

 これは、そのままマーケティングが考える「顧客に期待する行動モデル」に差し替えられるでしょう。

 マーケティングはいくらベネフィットがあるとしても、企業からの一方的な「治療」計画ではありません。顧客が持つそれぞれの「幸福になるために達成したい目標」を具体的に提示し、そこに至る道筋をエスコートして、そこに向かって行動する主体性を持たせる必要があります。

 マーケティングのコミュニケーション上は、これらは「ベネフィット」が具体的な目標を提示する場合もあれば、「信じる理由」が目標あるいは道筋を示す場合があるでしょう。しかしながら、「エージェンシー(行為主体性)」について考えると、このメッセージを受け取る消費者が「自由」を感じなければならず、もっと環境的もしくは状況や文脈的に主体性を得られるようにする必要があります。

 富永氏が「幸福にはオートノミー(自由)が必要」と語るのは、そのためです。マーケティングが考えるべきなのは、そのような意味での「幸福」ではないかと思います。
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