2069年のクォンタムスピン #04
最終章「天空のウラヌス」SF小説で未来のマーケティングを描く④
2020/03/06
プロジェクトは「クォンタムスピン」
軌道エレベーター内で、私はこの世に存在しないレジデンツとして、ジオヴァーナの存在を文字通り、借りてプロジェクトの「チーム」をVRで集合させた。
ジオヴァーナの姿で自分が死んだことをチームに伝えるのはさすがに堪えたが、大幅に予定を変えたうえで、新しいスキームで鼓舞しなければならない状況だった。100歳を超えたレジデンツであるよりは、グローバルホッパーの名前は十分リーダーシップを喚起させるのに役立った。
「こんなタイムラインでやるなんて聞いてないぞ」
リーがあからさまに不満気な顔をしたが、「カズアキ」の名前を出すと顔色が変わった。チームで仕事をすることは、たとえエリアが違っても一体感を生む。このアウトプットは、調査結果と同じ傾向である。
「みなさんカズアキのためにもお願いします」とジオヴァーナの姿と声をした自分が懇願した。
「今回のプロジェクトは“クォンタムスピン”と呼びます。これはプロタゴラスの力を使って、グローバルホッパーとレジデンツを含む、世界そのものを新しいレベルに持っていくためのものです。
スピンは悪名高い情報操作ですが、かつては『広告』と呼ばれた世界で、世界をあっと言わせて新しいものを生み出すクリエイティブのことを『スピン』と言ったのです。しかし大事なのは、単にすごいアイデアを思いつくことではなく、人々の心に『スピン』という動きを与えること。つまり、表でも裏でもあるような物議を醸しだすことです。
そして、その動きは人々の会話と交流を生み出し、新しい結合や出会いを生み出すのです。その意味で、すべての人々にクリエイティビティを刺激するのがクォンタムスピンなのです」
この物言いは少し懐かしいものがあったかもしれない。
「物議を醸しだす、なんてずいぶん響きが20世紀的じゃない。でも嫌いじゃない」アルゴリズム開発者のアンドラは言った。
「刺激的だね」エクスペリエンスデザイナーのサジがコメントした。
「ギャップを埋めるのを仕事だと思っていたけど、あえてギャップをつくるのも面白いかも」
「ニューロンの発火と感情反応を最大化させるようなメタファーが必要だな」レイモンドが言った。
「リー、きみは合理的ではないと言いそうだが」と、レイモンドがリーに意見をもとめた。リーはちょっと黙って聞いていたが、静かに言った。
「カズアキのためにもやろう」
「ありがとう、みなさん」ジオヴァーナであるカズアキは心から感謝した。
「では早速、提案の準備にかかりましょう」