2069年のクォンタムスピン #04
最終章「天空のウラヌス」SF小説で未来のマーケティングを描く④
2020/03/06
衛星軌道上の「ウラヌス」に到着
「ウラヌス」にあと2日間で着くというタイミングで、再度ジオヴァーナでVR会議に出ているカズアキは、提案の詰めを行っていた。
「チーム」はこの1週間働き詰めで疲弊していた。特に神経質なリーは聞こえるか聞こえないかの声で愚痴をぶつぶつ言いながら、担当のパートの最終チェックをしていた。
そしてレイモンドがサジと最終のインサイトを相談している横で、ジオヴァーナであるカズアキは全体的なプレゼンの骨子をまとめていた。ふと、レイモンドがこっちを見ているのに気が付いた。彼はゆっくり口を開いた。
「こんなことを言うと変なんだが、ジオヴァーナさん、あなたと話しているとなんだかカズアキを思い出すよ。全く似ているところなんてないんだが」レイモンドは笑った。
「こりゃいかん、とうとう疲れがでたかもしれん」
そう言われ、カズアキ自身もドキッとしたが、自分の身分を明かしたいという気持ちをおさえてレイモンドと一緒に笑った。
「チーム」での最終チェックはこれが最後になるだろう。ジオヴァーナとして、カズアキは会議が終わる前に深く頭を下げて礼を言った。「グッドラック、ジオヴァーナ」と皆が口々に言った。
ウラヌスはプロタゴラスの心臓部でもあり司令部でもある。すでに軌道エレベーターのシャトルの外には地球が美しい姿で見え、ウラヌスも最初は点のようにしか見えなかったが、ようやくその宇宙にポツンと島のように浮かぶ存在を見ることができるようになった。軌道エレベーターのシャトルは、静かに速度を落としながら宇宙ステーション「ウラヌス」にドッキングをした。
ドクター・イドリュムは、この「ウラヌス」で一年の大半を過ごす。彼はプロタゴラスが今のような形になった2052年から17年間ここにエンジニアとして勤めている。彼の家族は地上にいるが、会うのは一年間のほんの数日だ。
ジオヴァーナによると、公式にはプロタゴラスの調整はグローバルガバメントの委員会の承認が必要だが、実質ドクター・イドリュムが実権を握っているらしい。彼は典型的なエリート主義者であり、前回のEMP障害もほぼ独断で軍のリヒター・ダグラス大佐と共謀して進めたらしい。ダグラス大佐自身はプロタゴラスよりも、基本的に軍の維持のための資源確保に躍起になっており、エゴの強い合理主義者という評判だ。
今回、ジオヴァーナがドクター・イドリュムと直接話せる機会をつくれたのも、今回の環境テロリストへ罪をなすりつけたことを彼女が嗅ぎつけたからだ。「英雄が裏切り者」であるという事実が、グローバルガバメントの委員会に公になればドクター・イドリュムといえども立場が危うい。そこにつけこんで「ウラヌス」への切符を手に入れたのだ。