2069年のクォンタムスピン #04

最終章「天空のウラヌス」SF小説で未来のマーケティングを描く④

エピローグ:再びトーキョースマートシティ


 最終的にテロリストたちの爆破は、未遂に終わった。グローバルガバメントの保安軍ブルーフォースの迅速な活動もあったが、彼ら自身も報道の混乱を狙ったものであったらしく、アレキサンドリアでは一部パニックになるグローバルホッパーも現れたが、最終的に死傷者はゼロ。

 ドクター・イドリュム自身も、その家族も無事であったが、国際環境保護団体「トゥーンべリ」が犯行後に、彼らの仕業として報道されているいくつかの過激なテロ活動は、自分たちが起こしたものではない、との声明を出したために世論は一時期騒然となった。

 それによってグローバルガバメントのカウンシルや委員会は内部調査をはじめたが、表に出てきた問題は軽微だった。おそらくカウンシル内でも政治的な対処がなされたのかもしれない。

 結局グローバルガバメントやプロタゴラスに関わるエンジニアたちにも疑義は公にはならず、スマートシティとグローバルホッパー、そしてレジデンツの区別も依然と変わらないままだった。

 ジオヴァーナとカズアキが必死の思いで提案した「クォンタムスピン」も、あの状況下で真剣にカウンシルの委員会で検討されるとも考えられなかった。

 だがジオヴァーナの尽力もあって、カズアキは「ロスト」の状態から脱し、再度ソーシャルチップとサブブレイン処置を受けてトーキョーレジデンツに復帰することができた。カズアキが死んだものと思っていた「チーム」はカズアキが復活したことに心底驚き、怒り出すものもいたが、ジオヴァーナが再度説明してくれたおかげで、最終的には全員元の鞘に戻った。レイモンドは自分の勘が間違ってなかったことに内心喜んでいたという。

 あの事件から数カ月後。カズアキとジオヴァーナは、最初に会ったトーキョーのダイバエリアのカフェで、VRではなくリアルに対面していた。彼女によれば「クォンタムスピン」は、まだ諦めていないという。



 「時間はかかるけど、グローバルガバメント委員会を通すほうがいいかもしれない」

 カズアキはジオヴァーナの強い意志に驚いた。

 「何より、ノースエリアのようなケースが増えることが大事だけど。あのプロジェクトは是非進めてね」

 「もちろんです。ジオヴァーナさんはこれから・・・」カズアキは尋ねた。

 「これからノースエリアのようなケースを探しにシャンハイとバンガロールに行く予定。私のように考えているグローバルホッパーは決してマイノリティではない。でもしばらくプロタゴラスは静観ね。ドクターもあんなことがあったらしばらくは変な動きはしないでしょうから。カズアキ、いろいろありがとう。もしかしたら何かしら協力を頼むかもしれない。そのときはよろしく」

 ジオヴァーナはダイバエリアの海とリゾート施設のほうに目をやりながら、考えを整理しているようだった。もうしばらくこの人と会うことはないだろう、カズアキはそんな風に感じた。

 「ひとつ、聞いていいですか?」カズアキはジオヴァーナの目を見て言った。最初に会ったVRのイメージとは違うリアルなジオヴァーナからは年老いてながらも、軌道エレベーターでもウラヌスでも、そしてこのようなカフェでもただならぬオーラを感じていたからだ。

 「あなたは、本当は何者なんですか?」

 ジオヴァーナはちょっと驚いてカズアキを見た。そして、すぐさま最初のVRで見た時のようなチャーミングな笑顔で答えた。

 「わたしの本当の名前は、メアリー・ウェルズ・ローレンス。職業はコピーライター。年齢は142歳よ」


 
他の連載記事:
2069年のクォンタムスピン の記事一覧

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録