イスラエルマーケティング月報 #03

監視型社会か、自律型社会か。イスラエルの新型コロナ対応【栗田宏美】

 

誰も緊急事態に動じない?!さすが軍事国家イスラエル


 スーパーや精肉店などは、一度に入店できる人数を制限していて、ほぼすべての店の入り口にアルコール消毒とビニール手袋が置かれ、みんなマスクを着用しています。買い物の最中も、なんとなくソーシャルディスタンスをお互いに意識しているのが分かります。

 自粛を「要請」する日本とは対極的に、「禁止」するイスラエル。私がさらに圧倒されたのは、現地人の同僚や友人に「この処置についてどう思う?」と質問したときの反応です。

 誰ひとりとして「やりすぎ」と言わず、「この処置がベストだと思う」「今は素直に従う。これが正しかったかどうかは1カ月後に分かる」など前向きな回答ばかり。

 危機に瀕したときの団結力というか、作戦遂行への執念というか、国民全員が軍事訓練を受ける国はさすが違うなぁ…と感じました。組織のトップの指令に対する信頼は、軍事経験から来ているのでしょう。イスラエル保険省は「Hamagen」というアプリを開発し、コロナ患者と国民の位置情報をリアルタイムで取得し、感染者拡大を最小限にしようとしています。このイスラエルの対策方針は、ベンサムの『パノプティコン』を彷彿とさせるかもしれません。

 「パノプティコン」とは、ベンサムによる監獄システムですが、相互/中央集権的監視作用によって社会の均衡が保たれる様子です。イスラエル社会の本質とは、「監視されている(かもしれない)ことへの緊張感による均衡」なのでしょうか。

 しかし、イスラエルは監視社会とは言い切れない、と私は思います。在宅ワークになる前の日、つまり1ページの時系列(表)でいう3月12日の夕方、Trendemonオフィスが入っているシェアオフィスのパーティーがありました。

 ちょうどこの時期は「プリム」というイスラエルのイベントがあり、日本のハロウィンのように皆仮装してパーティーするのです。しかし、コロナがこの状況でしかもその夜は嵐が来るということだったので、パーティーもそこそこに皆で17時頃会場から引きあげてきました。

 すると、同僚のAmirが、「まるで世界の終わりみたいだね!」とSkeeter Davisの『The End of the World』を大音量でかけました。

 みんなで大笑いしながら、それぞれ荷造り。不安がる私に、「大丈夫、我々は今まで生き残ってこられたんだから、今回もきっと生き残れる」と同僚たち。忘れられない思い出です。
 
規制緩和されるまで、ほとんど車がいなかった高速道路。国内の物流は動いているので、トラックの往来が際立っていました。

 私はその同僚たちの様子を見て、軍事訓練によって培われているのは、中央への忠誠心ではなく「考える力」「生き残るためにベストなことを判断する力」なのではないかと感じました。つまり、イスラエルは監視社会ではなく、自律社会としての側面が強いのでは?ということです。国民ひとりひとりが自律的に考えて行動している、そんな気がしました。

 イスラエルのコロナ罹患数を上げているのは、ユダヤ教の超正統派と呼ばれる人たちです。超正統派は、男性はもみあげを長く伸ばして黒ずくめ(黒いスーツに黒い帽子)の服装が特徴的で、信仰心が高く世俗の習慣を嫌います。

 スマホを持っていなかったり、自宅にテレビがなかったりもするそうで、彼らの中で蔓延したのはコロナの情報に対するキャッチアップが遅かったことが原因とも言われていますし、シナゴーグ(ユダヤ教の教会)に大人数で集まって祈る習慣があるからとも言われています。超正統派は、イスラエル人口全体の10%ほどですが、コロナ感染者の約半数は超正統派なのではと言われています。

 今では公園やキッズスペースも閉鎖され、遊び盛りの子供たちは窮屈な日々を過ごしています。公園には毎日あんなにたくさんの子どもたちがいたのに(イスラエルは合計特殊出生率が3.0を超えていて、子どもが多いんです)、どこに行ったんでしょう。おうちの中ばかりではストレス溜まりますよね…。みんな頑張れ!我が家も頑張ります!
 
公園は閉鎖され、「立ち入り禁止!」の貼り紙が。

第4回 イスラエルのマーケティングは意外と繊細? コロナ禍のコミュニケーションのヒント
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