イスラエルマーケティング月報 #04
イスラエルの繊細な広告事例に学ぶ、コロナ禍のマーケティング
イスラエルのマーケティングは、「フツパー」に非ず?
前回は、イスラエルのコロナ対策と現状をお伝えしましたが、今回は現状のイスラエルのマーケティングについて感じたこと、コロナ禍のイスラエルで気になったコミュニケーションやクリエイティブ、それからコロナ禍で在宅ワーク&保育になった経験から、日常生活を楽しく送るための7つの心得を書きたいと思います。
イスラエルの国民性は「フツパー」と言われています。
フツパーとは?:鉄面皮、毛の生えた心臓、すさまじいガッツ。普通は躊躇・遠慮してできないことでも、エイっとやってしまう勇気と行動力を持っているさま。
ですが、イスラエルでの1対Nのコミュニケーションにおいて、特に対消費者のマーケティングにおいては、「フツパー」ではないなと感じることが多くなりました。
日本のLINEのような立ち位置で、イスラエルではWhatsAppが使われているのですが、企業やブランドからのプッシュ通知は皆無です。メールマガジンや、SMSも来ません。お店で買って、会員になっても、「フツパー」ならやりそうな(と言うか、やって然るべき)売り込みやアプローチがないのです。イスラエル人の国民性からいうと、ガンガンプロモーションしてしまいそうなものなのに。
私が大好きなブランドSABONも然り。SABONは日本でもポピュラーなビューティーブランドで、いい香りのボディスクラブや死海の塩を使ったフェイスマスクなどが人気です。
イスラエル発のブランドだからでしょうか。イスラエルでは日本価格の3分の2以下で買えるので、引っ越して早々にお店に行き、会員登録をしました。その際に、翌月と翌々月に使えるクーポンをもらいましたが、その後お知らせメールやSMSは一切来ません。私が外国人だから弾かれている可能性も無くはないのですが(笑)、「フツパー」流ならガンガンメルマガが来そうなものです。
これは私見ですが、SABONの場合、商品の特性もあり、LTVを上げるには最初の3カ月がキモということが(おそらく今までの経験上)分かっていて、来店率を上げるための施策としてクーポンを付与し、それ以外はあまりプッシュ型のコミュニケーションをしないのでしょう。
イスラエルの対消費者コミュニケーションには、温かみを感じることが多いです。
都市間の行き来が禁止になりロックダウンした4月8日からは、ちょうど「ペサハ(パスオーバー)」という期間にあたり、イスラエルは1週間ほど休みの期間でした。
「ペサハ」はユダヤ人の出エジプトを祝うべく制定されている祭りの期間で、初日の夜は親戚家族一同が集まって晩餐するのが世俗的な習わしになっています。しかし、この状態で親戚一同集合してしまっては…そこで、政府はロックダウンに踏み切ったのですが、前日にこんなFacebook広告を見ました。
私はてっきり、「警告:ペサハですが、こんなことはしないでください!」「今年のペサハは集まらずに過ごしましょう」といった、警告か要請のメッセージ広告だと思いました。
しかし、これは、古のしきたりに従えないイスラエル国民を慰める「みんな大丈夫。近くにいなくても、ペサハの夜、私たちはちゃんと繋がっています」というメッセージだそうです。こんなメッセージを自治体が発信しているなんて、ちょっとほっこりしました。
ユーモラスなコミュニケーションも顕在です。まずはこの動画をご覧ください。
これはShufersal(シュファシャル)という大型スーパーの動画広告です。音声も字幕もヘブライ語ですが、言葉が通じなくてもだいたい分かりますよね。イスラエルのスーパーではこの動画のようにスパイスや総菜、お菓子の量り売り場所では味見自由なのですが、さすがにこのご時勢で今まで通り味見している人はあまり見かけません。この動画のメッセージとしては、「当たり前を見直そう」らしいのですが、それをこんな風にユーモアたっぷりに表現するところが、とてもいいなと思いました。
また、イスラエルのリブリン大統領が、学校が休校になって大変な家庭を少しでもサポートしたいと、自ら絵本を読み聞かせている動画も流れてきました。
大統領だけではなく、保険省もYouTube動画をリリースしています。これは保険省による、手作りマスクの作り方動画。日本の首相が、歌手とのコラボ動画で炎上していたのとほぼ同時期、私のスマホにはひっきりなしにこの動画が広告として流れてきていました…。
5月から段階的に規制緩和されてきているイスラエルですが、最近街中のクリエイティブにハート(♥)を見かけます。
イスラエルでも日本と同じように、イスラエルでも新型コロナウイルスの感染者が増えて医療崩壊が危ぶまれていたので、医療従事者の方々は相当ハードな生活を強いられています。自治体が率先してこんなメッセージを発信していると、住民としても安心感がありますよね。
こうしたコミュニケーションを見ていると、「フツパー」とはちょっとかけ離れた、思いやり・気づかい溢れるコミュニケーションが、イスラエルでは主流なのだと思います。緊急事態下だからこそ、より一層の思いやりと繊細さが求められ、それをちゃんと消費者は見ているということを、きっとイスラエルのマーケターも意識しているのでしょう。