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海外ニュースから読み解くマーケティング・トレンド #03

「米国中心主義」のマーケティングの世界、そして英国と仏国からの確かな影響【ニューバランス 鈴木健】

アカウントプランニングを世界に広めた英国

 英国と米国は近いようで、遠い国である。

 英作家のオスカー・ワイルドの言葉を借りれば、「われわれ英国は、最近ではアメリカと多くの共通点がある。もちろん、言葉を除いては、ということだが」ということだ。

 ワイルドの指摘は、ウイットに富んでいる。同じ英語を話しているからと言って「言葉=意味」が同じなわけではない。

 このあたりの違いは、広告関係者ならアカウントプランニングを世に広めたジョン・スティールの『Truth, Lies, and Advertising (邦題:アカウントプランニング広告を変える)』で知っているはずだ。

 「消費者」を広告のクリエイティブのプロセスに初めて導入した「ストラテジックプランニング(あるいはアカウントプランニング)」は英国発祥である。

 米国にも消費者調査はあり、クリエイティブの大家であるデヴィッド・オグルビーがそうだったように(彼は調査会社のギャラップ出身)、広告効果の検証に注目していたが、アカウントプランニングはコピーテストではなく、プロセスそのものを捉えなおす手法である。

 アカウントプランニングのインパクトは、DDBの創業者であるビルバーンバックがアートディレクターとコピーライターを協業することで、クリエイティブを飛躍的に向上させたことに近いものがある。
 
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 ジョン・スティールは、英国から米国の広告会社に移ってきたという文化的な違いをうまく活用している。英国のマーケティングの特長は、一言でいえば「経験的(Experiential)」であることだ。

 マグナカルタに代表されるように、英国には憲章はあるが、米国憲法や日本国憲法のような文章としての憲法はない。これは後に述べるように、仏国や独国などの大陸的思考と比べると明確だが、あるべき姿としての「理念」そのものよりも、実際に起こっている「現象」や「事実」を捉えることを優先する。

 それは近視眼的なことに囚われているのではなく、現象そのものがより本質的な概念につながっていると考察するのである。アカウントプランニングで示される「インサイト=洞察」とは、そのような発見のことを指している。

 また英米の顕著な違いとして、米国の広告にはハードセル型が多く、広告はどちらかと言えば商慣習的な“必要悪”として見られているのに対し、英国では広告はメディアアートの一部として鑑賞されるものとして考えられている。

 スティールは、著書で英米のスポーツ報道における違いとして、米国の試合結果にはスコアが中心で、英国の結果はストーリーが書かれていることを指摘している。つまり、米国は試合という現象に対して、もっとも結果として意味のある数字を優先するのに対して、英国は数字も含めてどのような意味があるかを洞察して語るのである。

 さらにスティールは、アカウントプランニングをテーマにした書籍だけでなく、2012年オリンピック開催都市のピッチで、どうしてロンドンがパリに勝てたのかなど、競合プレゼンで勝つ方法について書いた『Perfect Pitch』(邦訳未出)でも、この考え方が生かされていて興味深い。
 

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