CES 2025 現地レポート #04

世界最大級テクノロジー見本市「CES」でNVIDIA、パナソニック、デルタ航空が見せたAIビジョンと熱狂【電通 森直樹】

 

パーソナルな旅行体験と多彩なパートナーシップ


 デルタ航空の基調講演はラスベガスの新名所であるSphereで行われ、CESでも初めての試みとなりました。デルタ航空のプレゼンテーションはまず、100周年を迎える同社を支えてきた従業員への称賛から始まります。エド・バスティアンCEOは、デルタ航空の成功は優れたスタッフと彼らの献身的なサービスに支えられていると強調し、技術者やフライトアテンダント、予約担当者など各分野の従業員を称えました。

 同社は新たなイノベーションを進めており、特にAIを活用した未来の旅行体験を視野に入れています。新たに発表した「デルタ・コンシェルジュ」というサービスは、AIを活用したパーソナルアシスタント機能によって顧客が求める情報やサービスをリアルタイムで提供し、個別の旅行ニーズに応じた提案ができるとのことでした。AIを使ってパーソナライズされたサービスと、これまで以上に感動的な体験を提供するほか、運航の効率を高め、よりスムーズで迅速なフライト運営を実現し、信頼性を向上させることが期待できると語りました。
  
Sphereのイマーシブ空間を活用し、映像・音・振動・匂いまで演出された圧倒的なプレゼンテーションでした。

 いくつかの重要なパートナーシップも発表されました。まず、機内エンターテイメントの充実に力を入れるデルタはYouTubeと提携し、オリジナルコンテンツを提供することができるといいます。YouTube PremiumやYouTube Musicの無料トライアルがアプリを通じて機内で提供され、フライト中のエンターテイメント体験を充実させるとのことです。

 また、Uberとの新たな独占的パートナーシップによって、今後の旅行体験を革新するとも語りました。Uberの移動サービスとデルタのスカイマイル会員制度を組み合わせることで、より便利で価値ある体験の提供を目指すといいます。UberやUber Eatsを利用するとマイルが貯まり、旅行以外のシーンでもスカイマイルを効果的に活用できるのに加え、フライト前後の空港への移動も最適化されるとのことで、デルタ利用者にとっては嬉しい発表となったでしょう。

 デルタ航空は同社の使命について「単に人々を安全かつ快適に世界中に移動させることだけではない」とは強調しました。「旅行の力を活用して人々を結びつけ、広大なビジネスやコミュニティを繋げ、数年前には考えられなかったような機会を生み出すこと。この使命は今日こそますます重要だ」。デルタ航空が目指す本質的な存在意義への理解を求め、圧巻のプレゼンテーションを締めくくりました。
  

  
YouTubeやUberとの独占的なパートナーシップを公表しました。
 

パナソニックはAI戦略「Panasonic GO」や先端ウェルネスサービスを発表


 パナソニックグループはCES開幕初日のオープニングキーノートを行いました。パナソニック ホールディングス 代表取締役 社長執行役員 グループCEOの楠見雄規氏が登壇し、持続可能な未来へのビジョンと、100年以上にわたる同社の歴史と革新を続ける中で得た経験をもとに、次世代の技術と持続可能性を融合させる新しい取り組みについて披露しました。

  
映画「ハート・ロッカー」や「アベンジャーズ」などで知られる俳優Anthony Mackie(アンソニー・マッキー)氏が、楠見CEOの伴走役を務めました。

 講演ではパナソニックが近年発信を続けるPanasonic GREEN IMPACT(PGI)について説明が行われました。地球規模の気候変動に対応するためにパナソニックが掲げるサステナビリティへの計画であり、2030年度までの全工場におけるCO2排出ゼロの達成と、2050年までのCO2総排出量3億トン削減などを掲げています。そのための具体的な取り組みとして、持続可能な技術とAIを活用したソリューションによって、社会やライフスタイルの変革を目指すことを宣言しました。実例として、パナソニックは現在44の製造拠点でカーボンニュートラルを達成しており、日本の燃料電池工場では水素、ソーラーパネル、蓄電池を組み合わせた完全再生可能エネルギー供給が実現していることも紹介されました。

 北米でのEVバッテリー製造に関しては次世代型バッテリーを開発し、性能とコスト効率を両立させると語りました。自動車メーカーとの提携を強化し、北米を含め市場をリードする存在になることを目指すとのことです。また、サーキュラーエコノミー(循環経済)への対応についても言及し、米国の電池リサイクル企業Redwood Materialsとの連携によってバッテリー製造時に発生する廃棄物をリサイクルし、98%以上のリチウム、ニッケル、コバルトを再利用可能にする循環型エコシステムを構築するといいます。この取り組みは、製造業における環境負荷を大幅に軽減するモデルケースとして注目を集めているとのことでした。

 家庭向けでは、住宅向け全館空調システム「OASYS」を北米市場で販売することを発表。エネルギー効率や快適性を追求するソリューションを提供し、家族全員が健康かつ快適に暮らせる住環境の実現を目指すと語りました。これらの取り組みは持続可能な未来を見据えたイノベーションの象徴として、業界の中でも高く評価されているようです。

  

  

 楠見CEOはさらに、AIを活用したビジネス変革を推進するグローバルな企業成長イニシアティブ「Panasonic Go」を発表。AIとデータプラットフォームを基盤にした新しいエコシステム構築を目指す戦略とのことで、今後AIへの投資を強化し、2035年までに売上の30%をAIとソフトウェアから生み出すと宣言しました。同社の製品が日々10億人以上に影響を与えていることを背景に「次の10億人に向けた革新」だと強調しました。また、米国のAIスタートアップAnthropic社とのグローバルパートナーシップによりAIの倫理的利用を推進し、消費者と企業の両方にとって、安全で信頼性の高いAI体験を提供することを目指すと語りました。

  

 米国のサプライチェーン・ソフトウェア企業でパナソニックのグループ会社になったBlue Yonderとの取り組みにも触れ、同社のチーフ・ストラテジー・オフィサーのWayne Usie氏(下)が登壇しました。同社はAIとデータ分析を活用して、グローバルなサプライチェーンの効率化と持続可能性を実現しているといい、予測AIと生成AIを組み合わせた技術によって、在庫管理や配送効率の向上、廃棄物削減を可能にし、顧客やパートナー企業を支援しているとのことでした。


  

 さらに、AIや先進技術を活用したウェルネスサービス「Umi」を米国で開始することも発表しました。家族の健康と幸福を支援するために開発されたAIによるウェルネスコーチサービスで、家族間の活動や健康管理を支援するだけでなく、高齢者のケアや家族の繋がりを深めるツールとしても機能するといいます。世界最大級の高齢者団体AARPとの提携により家族ケアの支援を強化し、家族全体のウェルビーイングを向上させるエコシステムの構築を目指すと説明されました。

  

 今回の速報はここまで。気になったトピックはあったでしょうか。CESでも最も関心を集めた3企業の基調講演から、それぞれに時代の最先端と未来のビジョンを読み取っていただければ幸いです。
 
森 直樹 氏
電通 ビジネストランスフォーメーション・クリエーティブセンター エクスペリエンス・デザイン部長/クリエーティブディレクター

 光学機器のマーケティング、市場調査会社、ネット系ベンチャーなど経て2009年電通入社。米デザインコンサルティングファームであるfrog社との協業及び国内企業への事業展開、デジタル&テクノロジーによる事業およびイノベーション支援を手がける。2023年まで公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 デジタルマーケティング研究機構の幹事(モバイル委員長)を務める。著書に「モバイルシフト」(アスキー・メディアワークス、共著)など。ADFEST(INTERACTIVE Silver他)、Spikes Asia(PR グランプリ)、グッドデザイン賞など受賞。ad:tech Tokyo公式スピーカー他、講演多数。CESでは、ライフワークとして各種メディアに10年以上の寄稿経験がある。
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