アセアンのリアルな生活者の姿を追う #05

「姿勢を評価してほしい夫」と「実態で評価する妻」 タイと日本の家事シェア【博報堂生活総研アセアン 帆刈吾郎】

妻ナームさんの話

では、ナームさんに伺います。一般論として男女平等についてどう思いますか。

「今のタイ社会は男性のほうが女性より優位だとおもう。政府や社会は男性がリーダーシップを取っている。ただ能力でいえば、男女は平等だとおもう。会社では男性の同僚よりも自分のほうがよく働いている」



では、家庭での男女平等はどうでしょう。

「結婚はやはり夫サイドのやり方に従う感じになってしまうのが男性優位社会だと思う」

では家事や育児の分担はどうですか。

「家の掃除や子供の世話は、自分をサポートしてくれている。でも結婚当初は全然手伝ってくれなかったのよ。それで夫と色々議論して、今では少しは手伝ってくれるようにはなったけど。子供ができてからは、毎晩ディスカッションしたわ」

実際の役割分担はどのような割合ですか。

「洗濯、掃除、料理、おむつ替えなどは全て7割くらい自分がやっている。夫は3割程度。子供の相手は50%くらいはやってくれている」

 そうですか。では旦那に点数をつけると、100点満点で何点だと思いますか。

「65点が、いいところ。自分も同じように外で働いているのに、結局家に帰った後の家事や育児の大半は自分が負担しているというのが納得いかない。夫はベストを尽くしてヘルプしているというが、実際、私のほうが彼よりもかなり家事をやっているの」
 

意外にも妻の満足度が低い、フレキシブルな役割分担家族

 アイスさん、ナームさん夫婦のインタビューからは、どうやら夫婦の認識にズレがあることが見てとれました。夫へのインタビューで、彼は「ベストは尽くしている」「サポートしている」と主張していたのに対し、妻へのインタビューでは「同じように働いているのに家事育児は3割しか担当していない」という認識でした。
 
インタビューの合間に、何やら深刻そうな話し合いをしている二人
 「ベストを尽くしている」と頑張りを認めてもらいたいという夫と「あなたのベストはたった3割なの」と頑張りではなく、実態でとらえる妻。言い換えれば「姿勢を評価してほしい夫」と「実態で評価する妻」というところにギャップの根源がありそうです。

 今回の調査では、夫婦の役割分担を次のタイプに分けて、インタビューと定量調査を行いました。
 
トラディショナル:夫が外で働き、妻が家のことに責任を持つタイプ

シェアリング:夫婦が家事や子育てなどを平等に分担するタイプ

スイッチ:妻が外で働き、夫が家のことに責任を持つタイプ

 さらにシェアリングについては、次の二つのタイプに細分化して分析しています。
 
タスクベースシェアリング:夫婦がタスクを平等に分担するタイプ

フレキシブルシェアリング:夫婦で時間があるほうが柔軟に分担するタイプ

 どのタイプが良い、悪いという判断をすることが目的ではありませんが、当人の役割分担の満足度をタイプ別にみてみると夫が仕事、妻が家のことに責任をもつというトラディショナルタイプが最も役割分担満足度が低く72%でしたが、今回ご紹介したフレキシブルシェアリングタイプも意外に低く74%の満足度にとどまりました。

 これは妻側の満足度が68%と低いことが原因で、夫婦の満足度ギャップも15ポイント差と大きい結果となっています。



 私たちも調査を行うまでは、フレキシブルに役割分担する夫婦は、満足度が高いのではないか、という仮説を持っていたのですが、見事に外れる結果となりました。

 柔軟な分担、という一見、理想的に見える分担方式は、実際取り入れてみると、早く家に帰ってくる妻への負担過多という結果になりやすいようですし、夫の意識としても「時間があるときに、サポートすればいい」といった「お手伝い感覚」を助長する面もあるのかもしれません。

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