HANNOVER MESSE 2025 現地レポート #02
ドイツのSIEMENS「Hannover Messe 2025」展示は、日本企業にとって見習う点が多い【電通 森直樹氏】
2025/04/08
ドイツのSIEMENSが発信するメッセージ
ドイツのハノーバーで行われた世界最大規模の製造業のカンファレンス「Hannover Messe 2025(ハノーファー・メッセ)」レポートの第2弾は、SIEMENS(シーメンス:ドイツ・バイエルン州のミュンヘンにあるテクノロジー企業)や、Schneider Electronics(シュナイダーエレクトリック:フランスが本社の世界的な産業機器メーカー)の展示やプレゼンテーションに注目してレポートする。
特に、最大規模で出展をしていたSIEMENSを掘り下げて紹介する。SIEMENSが製造業のバリューチェーンで、どのようなメッセージを発信しているのか。AIやメタバースなど、新興技術や米国のビックテック企業との連携をどのように打ち出しているのかみていこう。
AI・デジタルツインなど新興技術で製造業の未来を示す
まずは、SIEMENSのプレスカンファレンスとブースツアーを通して、どのような発信をしていたのか解説する。まず感じたことは、高いビジョンと世界観を提示していることだ。
ハノーファー・メッセでは多くの要素技術やプロダクト、事例を展示・カンファレンスを通して発信しているが、SIEMENSが志向する産業・製造業の未来に対する世界観をきちんと提示している。また、巨大スペースに展示されている展示物のすべてのクリエイティブが統一され、高いブランド体験を実現させているところにも関心した。
SIEMENSが提示する複雑な展示要素は、展示ブース毎にシンプルで機能的なコピーで説明され、深い技術背景に疎い私でも何となくどのような情報を提示しているいのか理解できた。国内外を問わず、日本企業はSIEMENSのプレゼンテーションをベンチマークするべきだと素直に感じた。





さて、具体的にどのような発信をしていたのか解説しよう。SIEMENSは、「インダストリーメタバース」を軸とした取り組みを披露した。注目は、AIやデジタルツイン(現実の世界から収集したデータを基に、まるで双子であるかのように、仮想空間上に現実世界を再現する技術)、ソフトウェアによるオートメーションの融合による製造現場の再構築である。
ドイツの自動車メーカー「Audi」との協業を例に、従来のPLC(Programmable Logic Controller:機械や設備などの制御に使われる装置)を仮想化し、物理デバイスを排除したバーチャルな制御システムによって生産性の向上と保守性の改善を両立し、まさに工場の「クラウド化」に取り組んでいる。
また、米国のAltairの買収により、機械や熱、電磁気の全領域を網羅するシミュレーション技術をポートフォリオに統合した。これにより製品設計から仮想テスト、生産までを一気通貫で完全なデジタルツインが構築可能になった。
さらに、SIEMENSは強力なパートナー戦略を推し進めている。たとえば、MicrosoftやNVIDIAとは、クラウドとエッジを融合させたインダストリー・AIプラットフォームの構築に取り組んでいる。AI領域での取り組みでは、インダストリー業界専用の生成AI(Industrial Foundation Model)に注力し、設計図や時系列データなど業界特有の情報を学習させ、一般的な生成AIでは対応できない高度なエンジニアリング支援を実現させている。
SIEMENSは、「Build(自社開発)」「Buy(買収)」「Partner(連携)」の3軸戦略を通じて、産業の未来を描き、単なる技術展示にとどまることなく、社会課題とビジネス成長を両立するイノベーションの方向性を明確に示していた。




SIEMENSは、ビックテックとのパートナーシップにより、製造業全体のバリューチェーンを支援するエコシステムを築いていることを強調している。この感覚は、米国・ラスベガスで開催される世界最大規模のテクノロジーカンファレンス「CES」での、韓国やドイツ、米国企業のプレゼンテーションを想起させる。製造業の領域においても、パートナーシップやオープンイノベーション的な取り組みの思想を強く感じた。