HANNOVER MESSE 2025 現地レポート #02

ドイツのSIEMENS「Hannover Messe 2025」展示は、日本企業にとって見習う点が多い【電通 森直樹氏】

 

工場のカスタマージャーニーと見える化、インダストリアル・ブランディングを提唱


 次は、フランスの産業機器メーカーであるSchneider Electronics(シュナイダーエレクトリック)の展示を紹介。同社は、産業オートメーション技術とサステナブルな製造の未来を体験できるブースを事例として展示していた。

 デジタルツインやAI、リアルタイムのデータ統合による工場最適化のデモを乳製品メーカーの事例で説明していた。私が参加したブースツアーでは、この乳製品の工場事例の説明がほぼすべてであった。乳製品工場の設計・運用の最適化や資源の再利用、カスタマイズ性を高めることで、工場エンジニアリングの効率を最大化させるという。また、優れたUIのダッシュボードを通して設備や生産ラインの監視を実現している。エネルギー効率やカーボン排出量、KPIの可視化が見事(私でも理解できた)であり、その体験を超大型ディスプレイで観ることができた。

 こうした優れたUI/UXのダッシュボードを導入することで、サステナビリティの向上に貢献する。このデモでは、物流・製品出荷の情報に天候などのオープンデータをダッシュボード上に重ねて表示することで、サプライチェーン全体を見渡す視点も提供している。保守の面では、3Dモデルと過去データを活用した遠隔支援が可能で、世界中の工場と知見の共有も可能にしている。
  
Schneider Electronicsの展示ブースの様子。SIEMENS同様に、すべての展示と展示ボードの説明やメッセージがシンプルでわかりやすく、統合されて洗練されたブランド体験を提供している。
     
非常に洗練されたビジュアルを多用した説明ボード。
  
ブースツアーにて、工場のサプライチェーンの現状を可視化するダッシュボードを説明している様子。ダッシュボードのプレゼンテーションとしても優れた展示。
  
ハノーファー・メッセでは、ルーレットで客寄せする様子をたびたび見かけた。スペイン・バルセロナで開催される携帯業界の見本市「MWC(モバイル・ワールド・コングレス)」でもよくルーレットを見かけたので、欧州の人はルーレットが好きなのだろうか。

 SIEMENSとSchneider Electronicsを振り返り、両社派共通して極めて洗練された体験を提供していると感じた。両社は、BtoB領域の非常に専門的で複雑な要素技術や機能、プロダクト、そしてエコシステムやパートナーシップにいたるまでさまざまなものを展示しているが、その体験は極めて洗練されている印象を受けた。高いユーザー体験や展示体験を提供しているといってよいだろう。

 それは、コピーや技術説明の構造化度合い、図表イラストのクオリティ、ブランドの統一、プレゼンテーションデッキの洗練さなど、どれをとっても高いレベルを担保している。そして、CESでサムスンやLG、NVIDIA、米国のビックテック各社の発信で感じている印象と、ハノーファー・メッセで両社に感じた印象は極めて近似していた。

 高いビジョンやオープンイノベーション志向、エコシステム、そしてデジタルプラットフォームの事実の実態。さらに、彼らが構想する未来の「ありたい姿」の提示だ。日本企業にとっても見習う点が多いのではないだろうか。
 
電通 ビジネストランスフォーメーション・クリエイティブセンター エクスペリエンス・デザイン部長/クリエイティブディレクター
森 直樹 氏

  光学機器のマーケティング、市場調査会社、ネット系ベンチャーなど経て2009年電通入社。米デザインコンサルティングファームであるfrog社との協業及び国内企業への事業展開、デジタル&テクノロジーによる事業およびイノベーション支援を手がける。2023年まで公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 デジタルマーケティング研究機構の幹事(モバイル委員長)を務める。著書に「モバイルシフト」(アスキー・メディアワークス、共著)など。ADFEST(INTERACTIVE Silver他)、Spikes Asia(PR グランプリ)、グッドデザイン賞など受賞。ad:tech Tokyo公式スピーカー他、講演多数。CESでは、ライフワークとして各種メディアに10年以上の寄稿経験がある。

※第3回 ソニーのAI搭載センサーや住友電工の革新素材、「Hannover Messe 2025」で示した日本の活路【電通 森直樹氏】 に続く
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