「ADFEST」萩原幸也氏レポート #05
「ADFEST 2025」受賞11作品をリクルート萩原幸也氏が解説、衝突の先にある新しい可能性が見えてくる
5. 課題発見と仕組みのクリエイティビティ
社会課題が複雑化し、「正解」が見えにくい時代において、課題そのものを見つけ出す力がますます重要になっています。課題とは、あるべき姿と現状とのギャップから生まれる問題を解消するものであり、問題をただ批判的に捉えるのではなく、ポジティブに解消しようとする行為であり、創造的な営みだと言えるでしょう。しかし、どれだけ発想がユニークでも、実現可能性が伴わなければ机上の空論に終わってしまいます。
ここで紹介する事例は、そのバランスを見事に実現しています。独自の視点から課題を捉え直し、さらに現実の制約や文化的背景に配慮した実行可能な仕組みを丁寧に設計しています。単なるアイデアで終わらず、社会や地域に根差したソリューションとして「形」にし、いずれも注目すべき成果を上げています。
- 作品タイトル:「DROPS OF JOY」LAY'S
ポテトチップ1kgを製造するのに約3リットルの水を必要とします。ポテトチップメーカーのLAY'Sはインドにおける深刻な水資源不足の中で、自社の成長が環境への負担となるという課題に直面していました。そこで注目したのが、原材料であるジャガイモ自体が80%の水分を含んでいるという事実。この「見えない水」を活用するために、「DROPS OF JOY」というプロジェクトを立ち上げ、ジャガイモを水の代替供給源とする自給型の水回収システムを開発。製造工程で蒸発するジャガイモの水分を回収し、凝縮・浄化・殺菌・酸素添加を行うことで、高品質の純水として再利用。これにより、製造に必要な水の50%をジャガイモからまかない、2つの工場だけで年間1億2000万リットルの純水を創出し、170万ドル以上の水コストを削減しました。

引用:ADFEST 2025
引用:ADFEST 2025
- 作品タイトル:「DABBA SAVINGS ACCOUNT」ESAF SMALL FINANCE BANK
インドの農村部では、女性の約25%が銀行口座を持たず、金融サービスから取り残されています。教育の機会不足や複雑な銀行手続き、銀行へのアクセスの難しさなどが主な要因で、こうした女性たちは、金運を呼ぶと信じられているステンレス製の米びつ「ダッバ(Dabba)」の中に現金を隠して貯金していたが、家庭内の男性に奪われてしまうこともあります。こうした状況にある女性たちの文化や生活様式を尊重しながら、金融包摂を実現するために「Dabba Savings Account」を開発。従来のダッバにあった現金用の隠し収納を加え、見た目はそのままに、安全にお金を貯めることができます。さらに、女性職員が村の女性限定の集まりに参加し、その場で銀行口座を開設、定期的にダッパに入れた預金を回収する仕組みを整備しました。加えて、女性たちが日常的に利用する米屋には指紋認証式のマイクロATMを設置し、簡単に現金を引き出せる環境も整えました。これらの取り組みは一切宣伝を行わず、女性たちのプライバシーを守る形で実施され、わずか数カ月で12万人以上の女性がはじめて自分名義の銀行口座を開設しました。

引用:ADFEST 2025
引用:ADFEST 2025
まとめ
フィルムロータス受賞作品などは紹介していないので偏りはありますが、ここまで紹介した受賞作品は、従来の広告コミュニケーションという範疇を越えたものが多くあります。
こうしたプロジェクトは、ひとつの企業や部門、専門性だけで生まれるものではありません。「企業とエージェンシー」「民間と行政」「戦略とクリエイティブ」「エンジニアとデザイナー」など、これまで分断されていた立場や役割を超えて協働する必要があります。それは最初、「COLLiDE(衝突)」という形で表れるかもしれませんが、その先にきっと新しい可能性が生まれるのだと思います。
さて最後に、毎年恒例のアドフェストを象徴する映像を紹介します。会場で最後に流れるスタッフを讃えるムービーです。こうしたスタンスが随所に滲み出る素晴らしいフェスティバルです。今年もたくさんの出会いと発見がありました。では、みなさん来年は、是非現地でお会いしましょう。
The Making of ADFEST 2025
最後と言いつつ、おまけレポートです。
会場の近くに「タイガーパーク」なるものがあり、朝9時から並んでトラと一緒に写真を撮りました。私は猫アレルギーなのですがトラは平気でした。将来はトラと一緒に暮らしたいと思います。

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