【速報】カンヌライオンズ2025現地レポート #03
カンヌ2025受賞作の3つ目のポイントは「“TellingからDoingへ”の加速と、そのオーセンティシティ」
2025/07/23
さて、カンヌライオンズから帰国してしばらく経った7月19日に、この記事を執筆しています。毎年、その年の受賞作の気になるポイントを3つ挙げていますが(今回は5つあるかも?)、今回は3つ目のポイントである「“TellingからDoingへ”の加速と、そのオーセンティシティ」と、実際の受賞事例についてご紹介していきましょう。
“TellingからDoingへ”の加速

ニース空港着陸直前。カンヌはニース空港から車で数十分。

ホテルの部屋から見た、カンヌ駅近くの街並み。
前々回の速報記事ではポイントの1つ目として「難題に広告的機知で一矢!」を、前回の速報記事ではポイントの2つ目として「“それってユーモアなの?”なヒューモア事例」を挙げました。そして、今回3つ目のポイントは「“TellingからDoingへ”の加速と、そのオーセンティシティ」です。
カンヌライオンズ受賞作を見ていると、評価された事例の多くが、“TellingからDoingへ”と呼べるようなものとなっています。つまり、何かを表現として伝える(Tellingする)のではなく、何かの施策を実施する(Doingする)というものです。

一般の通りから見ても、カンヌライオンズはなかなかの存在感。
今年はこの傾向がより加速化したと感じました。そして、実はDoingするその内容には、その会社やブランドとしてのオーセンティシティ=正当性(あるいは“らしさ”や納得性)が必要だと思えるのです。
その典型的な事例としては、保険会社AXAによる「Three Words(3つの言葉)」が挙げられると思います。「Three Words」は、クリエイティブ・ビジネストランスフォーメーション部門を始めとする3部門でグランプリを受賞し、2025年を代表する話題作となりました。

ゴールド以上受賞での登壇は、かなりの大人数で盛り上がるチームも。
この事例でAXAは何をDoingしたのか?それは、書き表してみると、大変に地味なものです。事例タイトルにもあるように、Three Words(3つの言葉)を住宅保険の契約書に加えた。言ってみれば、ただそれだけ、です。気の利いた表現も、世間を驚かすようなビジュアルも、特にはありません。
AXAがDoingしたのは、住宅保険の契約書に記された「火災」「洪水」に続いて次の3つの言葉を足したことです。その3つの言葉とは、「and domestic violence(それと、ドメスティックバイオレンス)」です。
フランスでは、火災や洪水で家に住めなくなった時に適用される住宅保険への加入がすべての家庭に義務づけられています。一方で、警察の発表では、毎年21万人もの女性がドメスティックバイオレンスの被害に合っていると言われています。より具体的には、3,919人のドメスティックバイオレンス被害者がNGOのヘルプデスクに電話をかけ、その77%は緊急の引っ越しを必要としていました。しかし避難所施設が足りず、77%の引っ越しを必要とする女性のうちの40%は、何の援助も受けられず放置されたといいます。

ビーチ沿いには、様々な会社のスペースが(カンヌライオンズ公式)。

こちらはMeta社のビーチ沿いスペース。独自のセミナーも。
そこで、AXAは住宅保険の契約書に、火災や洪水に続いて「and domestic violence(それと、ドメスティックバイオレンス)」という3つの言葉を加えることで、緊急避難を求める女性たちがエマージェンシーコールに電話をすれば、すぐに避難できるようにしました。ドライバーがただちに彼女をピックアップし(子どもがいる場合は子どもも含めて)、ホテルなどの安全な場所に移動させ、心理的・法的・経済的な援助が受けられ、中長期的な解決策を得られるように援助することにしたのです。
結果として、最初の1ヵ月だけで121人がサポートを受け、AXAの住宅保険を新しく契約する人は9%増加し、AXA住宅保険への加入を検討する人は67%(業界平均は43%)を記録しました。
AXAはこの活動を「Three Words」と名付け、屋外広告やテレビCM、Web動画などで周知を図りました(Telling)が、それでもその中核にあったのは契約書に3つの言葉を加えるというDoingであったことは間違いありません。
「Three Words」ケースフィルム。チタニウム、クリエイティブビジネストランスフォーメーション、ダイレクトの3部門でグランプリを受賞。
“Doing”の内容は、受け手の納得を得られる形であることが重要
このDoingをする際に注意すべきことは、そのブランドがそのことをDoするオーセンティシティ(Authenticity)を持っているか?ということです。カンヌライオンズ審査会でもよく耳にするというオーセンティシティという言葉は、一般に正当性と訳されますが、日本語の“らしさ”というニュアンスもあり、言ってみればそのブランドがそのことをDoすることに納得性があるか?ということになります。時々「○○ウォッシュ」という言葉も耳にするように、世の中に良いことをしているフリをするケースも散見される中で、納得性を持って受け入れてもらうことは非常に重要です。
AXAはフランスでメジャーな住宅保険会社であるとともに、10年にわたってAXAの名を関したNPOを通じてドメスティックバイオレンス反対の活動を繰り広げて来た歴史を持っています。そうした活動歴がある中で、シンプルな3つの言葉を自らの契約書に加えて、実際に被害者の救助活動に乗り出したことは、単なる”良いことをしているフリ“ではないと受け入れられたわけです。

ベースメントでは、テレビCMや事例ビデオを見ることができる。

同じく、事例ボードも飾られていて、写真を撮っても怒られない。
このオーセンティシティは、何も重たい話題に限りません。今回詳しくは紹介しませんが、コロナビールによる「Sun Reserve」(PR部門ゴールド等)は、ビーチに余計な影が落ちてビーチの美しさが損なわれないように、ビーチ沿いの高層マンション建設に規制を設けるようにコロナビールがいろいろな自治体に働きかけた、というものです。これも、コロナビールが自らを、“美しいビーチの似合うビール、飲むだけで美しいビーチが感じられるビール”と長年メッセージしてきた歴史から、オーセンティシティのある活動と受け止められました。
皆さんも、担当するブランドが関係するような社会課題を探して、単に反対を唱えるのではなく、受け手の納得を得られる形で(オーセンティシティがあると受け止められる形で)、何かをDoingすることを考えてみてはいかがでしょうか?
さて、このカンヌライオンズ2025の速報レポートも、残すところあと1回です。第4回目は、なるべく早いタイミングで皆さんにお届けするつもりですので、楽しみにお待ちください!

審査員たちが登壇して、審査過程について話すセミナーも。

「ブロンズ以上は3%だけだから凄いんだ!」と司会者が促し、立ち上がる受賞者たち。周囲からは惜しみない拍手が。