古川裕也が見たカンヌライオンズ
【古川裕也 カンヌライオンズ2025 特別寄稿】新しい意味を持つと、そのインダストリーは進化する
Democracy
民主化は昨年のCoca-Cola/Thank you for your creativityによって明確に姿を現した強い流れ。勝手にブランドロゴを書き換えて楽しく商売している小売店を発見。今までなら厳格なロゴ使用を強制したところだが、むしろそれを奨励して世界的なキャンペーンに仕立てた。今年もそれは継承された。
事例5:Coca Cola /Shades of Red
メキシコの小売店に必ずあるコカ・コーラのロゴ入りの色褪せた日よけ。12700の店から大量の日よけを集めて、バス停、店の看板などアウトドア広告を作り上げた。肝は、すべての店のオーナー(ステイクホルダーですね)を巻き込んで、それも彼らの長年付き合ってきたブランドに対する思い入れを駆動力にしていること。企業と消費者だけがブランド関与者ではない。コカ・コーラという文化圏を形成することを、送り手と受け手との協業という一種の民主化によって成しとげようとしている。その形はこれからのブランディングのありようを示唆している。
事例6:Unilever:Vaseline/Verified
Vaselineもネット上の「意図的商品誤使用」、平たく言うと裏ワザに悩んでいた。その数350万以上。Vaselineでホワイトニングやってみたとか、食べると健康にいいかどうかやってみたとか。危険なものも多く含まれている。ふつうはここで、ブランドとして警告を発することになるのだが、彼らは、そのいくつかをピックアップして実際にやってみたのだ。
すると、例えば、髭剃りの時に塗るとよいとか、カメラのレンズに塗ると光沢のある華やかな写真が撮れるとか。いくつか科学的にも間違いでなく害のない楽しげなものが発見できた。Unileverはその投稿者たちを表彰することにしたのだ。強固なブランド・コミュニティの誕生である。面白半分の投稿が承認されただけでなくギフトまでもらえたのだから。
ネットはとっくにカオスである。取り締まるという態度がすでに不可能なのだ。彼らはいいかげんだけれど、ブランドに対してアクションしていることだけは確かだ。ひどいものも含みつつ。ならば、その中でちょっとでも手を握り合えるのなら仲間に引き入れた方がいい。ブランドはベーシックには信頼が重要だけれど、楽しさとそれを共有する仲間もまた求められているのである。世の中のふつうのちょっとおっちょこちょいの人たちが自分たちのブランドに対してどんなアクションをしているか。どんなブランドになってほしいと思っているか。そのインサイトをどう取り込むか。民主化はこれからも進化し続けるだろう。