古川裕也が見たカンヌライオンズ
【古川裕也 カンヌライオンズ2025 特別寄稿】新しい意味を持つと、そのインダストリーは進化する
地球市民全員参加
大きく言えばDemocracyの一種。地球上のできごとにひとり残らず参加できるためのアイデアという流れがある。Diversityの本質である“All players Welcome”の具体化である。
事例7:Academy of Motion Picture/Caption with Intention
これだけ技術的に進化している映画制作のなかで、字幕のシステムだけは1971年から変化していない。現状だと、映画のセリフの持つダイナミズムを聴覚障害の方たちは享受できない、という視点。エージェンシーが、シカゴ聴覚協会と聴覚障害者コミュニティとの協業を開始。コミュニティとの会話で出てきた課題は3つ。セリフと字幕のタイミングがずれる。声の大きさ、エモーションが伝わらない。誰がしゃべってるかわからない。そこで、人物の感情や声の大きさなどを可視化するために、字幕に動き、大小、強弱、色分けなどをテキスト・アニメーションで表現した。
ここにはいくつもの示唆がある。まずAccessibilityということがInclusionの実際的な本質であること。誰一人置いていかずという概念は社会的なことだけではなく、映画のようなエンタテイメントにおいても重要であること。誰もが楽しめるシステムをつくることこそインダストリー全体で取り組むべきことだろう。
さらには、このアイデアが世界中に展開可能であること。ともすると1回こっきり、再現不可能な画期的なアイデアばかりに光が当たりがちなのが今までカンヌだったけれど、すべてのアイデアには社会性があるべきだというテーゼが正しいとすれば、ひとつのアイデアを地球のどこでも応用でき、誰もが享受できた方がいいに決まっている。要はプラットフォームということなのだけれど、このことは同時に、ソーシャル・イッシュー・プロジェクトの場合、お題目の時期はとうに過ぎていて、具体的にカタチにする以外は意味がないということがよくわかる。
もうひとつは、アライアンスの力。もはや、ひとつの企業でできることは限られている。この事例のように、映画を楽しめる人口を増やすというようなひとつの産業全体に力を与える仕事の場合、インダストリー代表×ターゲット代表×推進するCreative Agencyという座組がどうしても必要になる。はじめの例でCMO×ECDという新しい座組に触れたけれど、ここにも仕事の創り方、組み方の新しいケースがある。