Web Summit 2025 現地レポート #2

Diageo・TikTok・Dow Jonesに学ぶAI活用最前線:欧州最大規模のテックカンファレンス「Web Summit 2025」レポート【電通 森直樹】

前回の記事:
欧州最大規模のテックカンファレンス「Web Summit 2025」 最速レポート 注目キーワードは「AIによるビジネスの再定義」【電通 森直樹】
 

消費者の意思決定に深く関与するAIは、クリエイティブとマーケティングにどのような影響をもたらすのか?


 今回のWeb Summitにて企業からの多くの発信から見えてきたのは、AIが「業務効率化」や「生成ツール」を超え、消費行動や企業や商品のブランド成長の構造そのものを変えている姿であった。

 AI活用はすでに多層的に進み、「ユーザーを理解する力」「コンテンツを届ける力」「価値を守る力」に影響を与えている。

 Web Summit 2025 現地レポート第二弾は、アルコール飲料のDiageo、Z世代を中心に圧倒的な影響力を持つTikTok、そして大手メディアのDow Jonesの基調講演を中心に、AIによるマーケティングとブランドの新潮流についてお届けしたい。
 

AIにより消費者理解を新たな次元へ。未来の消費嗜好を予測するDiageoの試み


 世界的アルコール飲料メーカーDiageoのChief Innovation Officer、Mark Sandys氏は、AIがブランド戦略にもたらす変革について語り、消費者理解が“未来へ”拡張する新たな局面を示した。

 同氏が強調したのは、スコッチウイスキーのように製品化に10年以上を要するカテゴリーでは、「今の嗜好」ではなく「10年後の嗜好」を読み解く力こそが競争力になるという点である。

 そのために同社が導入したのが「フレーバー・プリントAI」である。食の嗜好データを解析し、将来のウイスキー選好を予測するこのAIは、従来の調査では捉えにくかった“潜在的な味覚ニーズ”を可視化するという。

 結果、「フルーティーな香りを好む未発掘の市場」の発見に貢献、「Johnnie Walker Pineapple」や「Crown Royal Blackberry」などの大規模ヒットを実現したという。これら複数の新商品は、英国スピリッツ市場で最大級のローンチを記録。歴史が古くプレミアム飲料であるウイスキー市場においてさえ、AIが実際のヒットに貢献したという事実は驚きだ。

 Sandys氏はさらに、AIを活かすには組織そのものが進化しなければならないと指摘。Diageoは既存事業を磨くコア・イノベーションと、未来事業を創るブレークスルー・イノベーションの二層構造を採用し、データに基づいて素早く判断し、意図的に失敗を積み重ねることで学習速度を高めるスタートアップの事業創発のような取り組みを行っているという。

 この取り組みの成果として挙げられるのは、発売直後に全量リコールとなった「Guinness Zero」だ。経営陣はチームへの非難ではなく“徹底改善のための時間と保護”を選び、品質検証を経て再発売した。その結果、同製品は世界で最も急成長するノンアルカテゴリーへと躍進した。Sandys氏は「失敗への姿勢こそがイノベーション文化の真価を決める」と述べ、AI活用と挑戦文化の両輪が未来のブランド成長を支えると結んだ。
 
 

DiageoのChief Innovation OfficerであるMark Sandys氏

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