From the Innovation Frontier|世界最先端企業の発信を読み解く #01

NVIDIA ジェンスン・ファンCEOが示すAI中核の新産業エコシステム、NVIDIA GTC2026レポート【電通 森直樹】

 GAFAMをはじめ、世界を牽引する企業が独自に開催するカンファレンスやイベントの数々。ビジネス、テクノロジー、イノベーション、クリエイティブなど各領域のトップイノベーターたちが発信するメッセージには、事業・マーケティングの未来を考えるためのヒントが溢れている。

 本連載では、海外のさまざまなビジネスカンファレンスを長年ウォッチしてきた電通 ビジネストランスフォーメーション・クリエイティブセンター エクスペリエンス・デザイン 部長 クリエイティブディレクターの森直樹氏が、これら最先端企業の発信を独自の視点でナビゲート。今回はNVIDIAのプライベートカンファレンス「NVIDIA GTC2026」から、日本のマーケターが受け取るべき具体的な示唆を提示する。
 

NVIDIA主催イベントから読み解くAI最前線


 今回レポートするNVIDIA GTCは、NVIDIAが主催するAI領域を中心としたグローバルカンファレンスで、開発者、研究者、IT意思決定者、ビジネスリーダー、パートナー企業が一堂に会する場。今年は3月16日~19日に米カリフォルニア州サンノゼで開催され、オンライン参加も可能なハイブリッド形式で実施された。公式発表では3万人超が現地参加し、190ヵ国超から来場、さらに1000以上のセッションが開催される。今回、残念ながらサンノゼでの出席はならなかった筆者は、記事発信の許可を得てオンラインで基調講演を中心に聴講。マーケター目線でこのAIビックイベントをレポートする。
  
  
オンライン配信のプレ講演に参加するNVIDIA CEO ジェンスン・ファン氏
 

NVIDIAが発信するのはAIという要素技術ではなく「産業システム」


 まずはNVIDIA GTC2026を俯瞰してみよう。イベント会場には、Accelerated Computing、AI Infrastructure、Open Models、Agentic AI、Physical AIという五つの論点に関わる展示がある。AIの計算基盤、電力、データ、モデル運用、業務実装、そして物理世界までを連続したひとつの「産業システム」として展示している。ここはNVIDAのAI・技術発表会であると同時に、産業構想とエコシステムそのものを発信する場となっているのだ。そしてNVIDIAは、AI時代の産業基盤をデザインする存在として、自社の役割を明確に打ち出している。
 

エコシステムが循環する「フライホイール」が競争力の中核


 NVIDIAのCEOであるジェンスン・ファン氏は、NVIDIAをCUDA-X、Systems、AI Factoriesという三層のプラットフォーム企業として語り、20周年を迎えたCUDA の「フライホイール」を競争力の中核であると説明した。CUDAとは、NVIDIA製GPU(画像処理装置)をAIや高度な計算の「エンジン」として使うためのエンジニア向けプラットフォームである。これにより開発者はC++やPython(いずれもプログラミング言語)、各種ライブラリ経由でGPU性能を活用でき、ディープラーニングや科学技術計算を高い利便性で取り組むことができる。つまりNVIDIAは、自社の価値がGPUに代表される半導体チップ単体ではなく、CUDAによって生み出される開発者、ソフトウェア、導入基盤、エコシステムが循環し続ける仕組みそのものにあるというのだ。

 コミュニケーションの観点で捉えてみよう。ジェンスン・ファン氏のプレゼンテーションは、GPUという製品訴求ではなく、NVIDIAという企業の存在意義そのものを再定義するところに力点を置いていた。それは基調講演の中で、GPUやAIの価値を「モデルや性能」ではなく「実装システム全体」で語っていた点に示されている。さらに、データセンターをデータ保存の場から、トークン(AIモデルが推論の過程で処理するデータの単位)を生み出すAI Factoryであるという新しい概念を主張し、NVIDIAのAIを中核とする新しい産業エコシステムを打ち出していた。非常にダイナミックなプレゼンテーションとなった。
  
 

基調講演から考える「ブランドに貢献するエコスシステムの見せ方」


 基調講演でNVIDIAは「単独で存在する強力なプレイヤーである」というプレゼンテーションをしていなかった。NVIDIAだけでなく、世界をリードする巨大なテクノロジー企業や製造業全体について言えることだが、彼らはエコシステムの中に自社がどのような立ち位置であるか、誰とパートナーシップを組んでいるのかを非常に重要なコンテンツとして発信している。ジェンスン・ファン氏の講演においても、Google Cloud、AWS、Microsoft Azure、Oracle、CoreWeave、Palantir×Dellなど、多数のパートナーとの取り組みとその優位性が語られ、スライドではこれらエコシステムを形成するパートナー企業を次々と紹介していた。そして、自社のプラットフォームの上に各社のサービスが乗る構図を見せることで、NVIDIAは単独の製品企業ではなく、巨大な産業ネットワークのハブであることを印象づけたといえるだろう。
  
  
NVIDIAは、業務アプリケーションと統合されて価値を発揮しているという。AdobeやSAP、Siemensなど各社の業務基盤にNVIDIAのAIが組み込まれ、企業活動そのものがAIネイティブに再設計されていく構造を示した。
 
基調講演では、NVIDIAが取り組むPhysical AIの現状について言及。Physical AIは車・重機に始まり、産業用ロボットからヒューマンロボットに至るまであらゆる領域での拡大が見込まれる。ジェンスン・ファン氏は、シミュレーションと現実世界を接続し、ロボットが環境を理解し行動する基盤を提供していることを示した。さらに、人とロボットが同じ空間で自然に振る舞う世界観が示され、製造・物流・サービス業における自律化の加速が現実的なフェーズに入ったことを印象づけた。
  
ジェンスン・ファン氏と共演するリアルなロボットとして自然対話するディズニーキャラクターのオラフ。生成AIはテキストや画像生成を超え、リアルなロボットキャラクターと対話できる段階に進化している。オラフのデモは、リアルタイムで理解・応答する存在としてのPhysical AIの現在地を示し、エンターテインメントだけでなく接客や教育、その他あらゆる人とのタッチポイントへの応用可能性を示唆した。
 

筆者プロフィール

 
森 直樹 氏
株式会社電通
ビジネストランスフォーメーション・クリエイティブセンター
エクスペリエンス・デザイン部長/クリエイティブディレクター

光学機器のマーケティング、市場調査会社、ネット系ベンチャーなど経て2009年電通入社。米デザインコンサルティングファームであるfrog社との協業及び国内企業への事業展開、デジタル&テクノロジーによる事業およびイノベーション支援を手がける。2023年まで公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 デジタルマーケティング研究機構の幹事(モバイル委員長)を務める。著書に「モバイルシフト」(アスキー・メディアワークス、共著)など。ADFEST(INTERACTIVE Silver他)、Spikes Asia(PR グランプリ)、グッドデザイン賞など受賞。ad:tech Tokyo公式スピーカー他、講演多数。CESでは、ライフワークとして各種メディアに10年以上の寄稿経験がある。

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