From the Innovation Frontier|世界最先端企業の発信を読み解く #02
Shopify、LVMH、Pumaが示す「インフラとしてのAI」とブランド設計の近未来像 NVIDIA GTC2026レポート【電通 森直樹】
GAFAMをはじめ、世界を牽引する企業が独自に開催するカンファレンスやイベントの数々。ビジネス、テクノロジー、イノベーション、クリエイティブなど各領域のトップイノベーターたちが発信するメッセージには、事業・マーケティングの未来を考えるためのヒントが溢れている。
本連載では、海外のさまざまなビジネスカンファレンスを長年ウォッチしてきた電通 ビジネストランスフォーメーション・クリエイティブセンター エクスペリエンス・デザイン 部長 クリエイティブディレクターの森直樹氏が、これら最先端企業の発信を独自の視点でナビゲート。今回は初回に続き、NVIDIAのプライベートカンファレンス「NVIDIA GTC2026」から、日本のマーケターが受け取るべき具体的な示唆を提示する。
本連載では、海外のさまざまなビジネスカンファレンスを長年ウォッチしてきた電通 ビジネストランスフォーメーション・クリエイティブセンター エクスペリエンス・デザイン 部長 クリエイティブディレクターの森直樹氏が、これら最先端企業の発信を独自の視点でナビゲート。今回は初回に続き、NVIDIAのプライベートカンファレンス「NVIDIA GTC2026」から、日本のマーケターが受け取るべき具体的な示唆を提示する。
企業セッションから読み解くブランドとAIの新たな関係
NVIDIA GTC2026オンライン参加レポート第2弾では、ブランドやリテールに関係するセッションを紹介する。GTCではNVIDIAのテクノロジーを活用するさまざまな企業が登壇するのだが、今回は小売・ブランド体験にAIがどのように実装され始めているかを示す具体例が多く登場した。本稿で紹介するShopify、LVMH、Pumaによる3つのセッションに共通していたのは、AIを単発的な効率化の道具ではなく、顧客理解、コンテンツ運用、店頭での接客までをつなぐ「プラットフォーム」として捉えている点にある。ブランドがAIとどのように向き合うべきか、マーケターにとっての重要なヒントが見つかるかもしれない。
Shopifyは「イベントの連なり」を「次の一手」に変える
まずはECプラットフォームのShopifyによるEC×AIのセッション。印象的だったのは「Events are the language of commerce」つまり、「ビジネスにおいて価値や関係性はイベント(体験・接点)を通じて伝達・成立する」という考え方だ。commerce foundation models(コマース領域に特化した汎用AI基盤モデル)を広告最適化の延長ではなく、商取引そのものの文法として捉えている。
ShopifyとNVIDIAのエンジニアが登壇した講演では、購買、閲覧、出店準備、販促実行といった無数のイベントを連続したシグナルとして扱い、その次に起こる行動をAIによって予測する方法論が共有された。ブラックフライデーやサイバーマンデーなどの繁忙期には2.2兆件ものリクエスト、8100万人超の購買が発生する規模においては、個別施策の改善よりも「次の一手をどう導くか」が重要になるという。買い手にはレコメンデーション、売り手には次に取るべきアクションを提示し、そこから得られる情報を需要予測やLTV把握、マーケティング予算の判断にもつなげることができるという。
AIは顧客と加盟店の意思決定を予測し、促すモードに入り始めたと言える。ダイレクトマーケティングの体験と企業によるアプローチが、AIによって一変する可能性を示唆するセッションだった。

Shopifyは「Events are the language of commerce」と定義。
LVMHはDigital Twinsをクリエイティブの土台に
次にLVMHとSKAI Intelligenceのセッションに注目したい。このセッションでは、ラグジュアリーブランドが生成AIに慎重な理由を非常に明確に言語化していた。主な論点は、著作権とブランドセーフティ、商品再現性、修正のしやすさ、そして一貫したブランド表現の4点である。
ラグジュアリーブランドでは、素材感、光の反射、比率のわずかなズレがクリエイティブに反映されれば、そのままブランド毀損につながる。そこで提示されたのが、Digital Twinsを「制作物」ではなく「インフラ」として持つ考え方だ。ブランドが保有するアセットや実物から高精度な3D資産をつくり、それをNVIDIA Omniverse(3D空間上で現実世界を再現し、設計・シミュレーション・共同作業をリアルタイムに行えるデジタルツイン基盤)上で再利用することで、静止画、動画、商品閲覧体験を横断して量産することができるという。セッションではHublotやBerlutiなど複数ブランドでの事例が示され、単発の施策に留めるのではなく、横展開できる可能性を強調していた。
セッションの重要なキーワードはScale、Tech、Precisionの3つ。大量SKUと多地域展開に耐える運用、既存ワークフローへの接続、そしてブランド表現の精度がそろって初めて、「AIは現場で使える」と強調された。生成AIを「安く早く作る道具」として見るのではなく、再利用できるブランド資産をどのように蓄積するかが重要になるだろう。
顧客との共創から店頭接客まで、PumaのAIによるエンドツーエンドな新体験
最後にシューズブランドのPumaによるセッションを紹介する。Pumaによると、消費支出の大半は現在でも実店舗で起きている。この前提のもと、キャンペーン体験から店頭接客まで、AI活用が一気通貫で連続する消費者体験の具体例を示した。
Pumaの「AI Creator」は、ファンがユニフォームを共創できる取り組み。キャンペーンでは短期間に5万4000人が登録して18万件のデザインが生まれ、続く「AI Creator 2.0」では、対話型プロンプトによるデザイン支援やリミックス機能を加えたことで、参加ハードルが一層下がった。次の打ち手として店舗に導入されたのはDigital Human。ラスベガスの旗艦店に導入されるAIによるDigital Human接客システムは多言語で会話し、在庫と連携し、スタッフへの橋渡しまで担う。このDigital Humanは店頭でどんな質問が出たかを把握することで、その学びを今後のマーケティング活用やEC改善へ反映する計画もある。顧客との共創で集客し、対話で理解を深め、店舗で購買に近づける。AIをファネルの一部ではなく、顧客体験全体をつなぐ基盤にするというPumaの狙いが伺えた。
AIは接点を横断する運用基盤へ
NVIDIA GTC2026から見えたのは、AIがマーケテイング活動のあらゆる場所に「基盤」として入り込む、極めて近い未来の姿だ。Shopifyは行動予測、LVMHは資産化、Pumaは接客と学習ループを示していた。これらの企業に共通するのは、AIを個別施策や最適化ツールとして活用するのではなく、データ、アセット、店舗接点まで連結することを前提にしている点である。ブランドは、新しいツールを導入するかどうかではなく、どの顧客接点を自社の学習基盤に変えられるか、さらにそれを現場運用まで落とし込めるかどうかで、大きな差が生まれることが示唆された。
NVIDIA GTC2026を終えて
NVIDIA GTC2026では、Agentic AIはチャットの延長ではなく、仕事を自律的に実行するオペレーティングレイヤーとして語られ、Physical AIは自動運転、産業設計、ロボティクス、医療を変革する基盤として期待されることが示された。それらは決して表層的な未来像の提示ではない。コンテキスト設計、検証、安全性、専門特化といった実装条件まで含めて説明する、明確なファクトとロードマップが示されていた。
さらにこのイベントで印象的なのは、グローバル市場で存在感を放つ企業は、技術の話をしながら、同時に産業の未来図と自社のポジションを明確に提示している点だ。AI時代のマーケターは技術トレンドや新しいツールを追うだけではなく、自社のバリューチェーン・サプライチェーン全体を俯瞰して「With AI」の体験をゼロベースから設計することが求められるだろう。さらにBtoBのマーケターであれば、自らの領域の具体的な未来像や、自社のプロダクト・要素技術を提示するばかりではなく、エコシステム全体の中での自社の役割やビックテックを含む他社との協力関係を、具体的なファクトを持って明らかにすることが不可欠になる。これらは現時点で、欧米企業に比べると日本企業が決して得意とはしていないことだが、グローバル市場において今後、ますます重要になるのは間違いない。このことをNVIDIA GTC2026を通した示唆として提言したい。
※記事中の写真はすべて筆者提供(スクリーンショット)




メルマガ登録














