「ADFEST」萩原幸也氏レポート #8

アドフェスト2026レポート:審査員が見た「AI時代のクリエイティブ」の現在地【リクルート 萩原幸也氏】

前回の記事:
アジアを代表する広告祭「アドフェスト2026」 ハイネケンも語った「人間の本質」に立ち戻る重要性【リクルート 萩原幸也氏】
  アジアを代表する広告クリエイティブの祭典「ADFEST 2026(アドフェスト2026)」。今年は3月19日から21日に、タイのパタヤで開催されました。会場には56都市から770人の参加者が集まり、セッション、アワード、ワークショップ、ネットワーキングパーティーなど盛り上がりを見せました。
アジェンダノートでは、現地参加したリクルート マーケティング室 クリエイティブディレクターの萩原幸也氏によるレポートを全3回の記事に分けてお届けします。3回目となる本稿では、アドフェスト2026でジュリー(審査員)を務めたトップクリエイターの皆さまのコメントを紹介します。
 
 注目セッションを通じた全体テーマ「Human+」への考察、そのテーマに応える受賞作品の紹介と続いてきた、アドフェスト2026のレポートも、今回が最終回です。3回目となる本稿では、今年ジュリー(審査員)を務めたトップクリエイターの皆さまのコメントをご紹介します。

 アワードの結果や審査に対して、お気に入りの作品、そしてアジェンダノート読者であるマーケターの方々へのメッセージをいただきました。
 

 

佐々木康晴氏:Creative Strategy lotus/Effective Lotus/INNOVA Lotus/Sustainable Lotus審査員長

 
佐々木 康晴 氏
Global Chief Creative Officer
dentsu
 

今回のアワードの結果や審査に対して

全体として、グランデ(最高賞)や金賞が少ない、厳しめの年だったと思います。しかし受賞したものはどれも世界品質のクリエイティビティを持った事例だと感じます。その状況下でいくつかの日本事例がメダルを受賞したのは素晴らしい結果です。アドフェストが国際基準で評価される、身近なフェスティバルであることを改めて感じていて、来年はここから日本のクリエイティビティの高さをもっと多く世界に示していけたらと思います。
 

一番良いと思った作品はありましたか

今年の受賞事例のなかでは、レバノンの新聞 An-NaharのActive Journalismが印象的でした。これは私たちが審査したEffective Lotusでグランデを受賞しています。市民の新聞への無関心さを、5年間にわたる、単なる部数稼ぎではない戦略的なアプローチで変え、改めて力のあるメディアに生まれ変わらせた。クリエイティビティがビジネスの変革、メディアの変革に有効であることを強く示した事例だと思います。
   

 

An-Nahar「Active Journalism」
 

読者にメッセージがあればお願いします

アドフェストにおいても、去年に比べ、AIに関する話題や事例が少なくなったと感じています。AIはすでに当たり前になり、その有用性は証明済みだからかもしれません。その上で、クリエイティビティが効率を超えて「大きな違い」を生み出せる、ということが議論されていた印象です。難易度の高い課題の解決にクリエイティビティを活かし、大きなインパクトを生み出すことについて、日本もその流れに積極的に加わっていかなければと感じています。
 

 

杉友ジョージ壮氏:Design Lotus/Print & Outdoor Craft Lotus審査員

 
杉友 ジョージ壮 氏
Chief Creative Officer
Group G
 

今回のアワードの結果や審査に対して

今回の審査で最も印象的だったのは、AIがこれだけ大きなテーマになっている時代にもかかわらず、それを本質的に活用し、表現や体験として昇華した作品が極端に少なかったことです。受賞作にもほとんど見られず、正直かなり意外でした。まだ評価軸が追いついていない段階なのかもしれませんが、この領域を早く理解し、使いこなし、さらに超えていかないと、広告業界そのものの存在意義が問われかねない。そんな危機感を強く持ちました。
 

一番良いと思った作品はありましたか

特に素晴らしいと思ったのは、ニッカウヰスキーの「No Labels」です。これは単に完成度が高いというだけでなく、アートディレクションの教科書に載せるべき仕事だと感じました。世界に向けたブランディングの見本としても非常に優れていて、美しさ、強さ、思想、設計、そのすべてが高い次元で成立していました。デザイナーにとって学びが多いのはもちろんですが、むしろクライアントやマーケターこそ、この仕事から「ブランドを育てるとは何か」を学ぶべきだと思える最高の事例でした。


 

ニッカウヰスキー「No Labels」
 

読者にメッセージがあればお願いします。

マーケターには、アドフェストのような場をもっと積極的に使ってほしいと思います。これは単なる広告賞ではなく、世界が今どこに向かっているのかを肌で感じられる貴重な学びの場です。現地でセミナーを開く、チームで視察する、議論の場をつくるなど、活用方法はいくらでもあるはずです。国内事例だけをなぞっていても、視野は広がりません。日本の中だけで完結せず、アジアから世界から学び、自分たちの基準そのものを更新していく姿勢が、これからのマーケターには必要だと思います。
 

 

室屋慶輔氏:Entertainment Lotus/Media Lotus/PR Lotus審査員

 
室屋 慶輔 氏
Activation Director & Copywriter
Hakuhodo Inc.
 

今回のアワードの結果や審査に対して

担当した3部門で、日本勢が健闘。ただし、かなり文化的背景やコンテキストの補足説明を要しました。どのブランドも若年層攻略にかなり苦心していた印象です。応募作品はもちろん、受賞作品でさえも、カオスすぎる社会で彼らをどう惹きつけるか、どうやって会話の機会を持つかというところに躍起になっていて、アイデア自体や戦略、PRストーリーまで隙のないような、総合点の高い施策の数は限られていました。

各ブランドは、今年、ゲーミングコミュニティの支持を獲得することの優先順位を上げた模様です。ゲーマー層の重要性がますます高まっているのではないでしょうか。アドフェスト2026が掲げたテーマが「Human+」であったことの証左か、AIによる人間の尊厳に対する冒涜のように見える施策が散見されました。だから、何周も回って、もはやAIが生み出す“おかしみ”に焦点が当たっていたように思います。
 

一番良いと思った作品はありましたか

「THE LIFE-SAVING RECEIPT」。言語による意思疎通の齟齬に直面する移民をどのように支援すべきか、という問題は根深く、韓国だけのイシューではありません。店舗を単なる買い物の場ではなく、コミュニティの交流拠点として捉えた視点と、レシートに予防接種と医療ケアにアクセスできるQRコードだけではなく、気を衒わず、キャッチーなイラストと移民の母国語でシンプルに印字したことが素晴らしかったです。このアイデアは他の国でも横展開でき、PR部門GRANDEの「ONE NOODLE」にも劣らない、ボールドさを最も感じました。


 
CHOROGUSAN FOR CHILDREN「THE LIFE-SAVING RECEIPT」
 

読者にメッセージがあればお願いします

個人的に「アワードと現業は地続きか?(どう再現性をもって活かすか)」という問いを立てながら、それぞれの審査員業務に臨んでいます。各国の審査員たちも、ジャッジを通してAPACの次世代のクリエイターたちに実りのあるメッセージを送りたいと、真摯に向き合っているので、皆さんにも何か少しでもポジティブな影響があると嬉しいです。

土屋貴史氏:Film Craft Lotus/New Director Lotus審査員

 
土屋 貴史 氏(TAKCOM)
Film Director
Nada
 

今回のアワードの結果や審査に対して

同じアジア圏でも、例えばクリケットのスター選手の知名度など、文化的に理解が及ばない部分はあります。それでも審査室で議論していると、根っこの部分で同じバイブスを共有している感覚がありました。どの国にもある制度的・慣習的な課題——それを商品やサービスの力で解決しようとする広告はやはり強い。そこにアジアのクリエイティブの本質的な強さがあると改めて感じた審査でした。
 

一番良いと思った作品はありましたか

普段、苦労の跡を見せつけるようなアニメーション作品は好きではないんです。規模が大きくなるほど、現場で一番大変なのは末端のスタッフだったりするので。ただ「Desi Oon」(Centre for Pastoralism)は別格でした。クセになる音楽、アニメーションには不向きに思える羊毛という素材、そしてそれがそのままテーマに直結している構造。苦労を感じさせない完成度が素晴らしかった。「Baatan Hi Baatan Mein」(WhatsApp)は役者の佇まいや会話のナチュラルさも含めて、フィルムとして見事でした。「Dirty Money」(Steadfast Stationery)は、これをクライアントにプレゼンしに行く時の高揚感は堪らなかっただろうなと。そして正直、一番響いたのはKapal Kertas(The Kancil Awards)でした。審査中に「これは公共広告的なものであって、クライアントワークとしての広告なのか?」と議論にもなりましたが、シンプルで低予算ながら、他のどの作品にも負けない訴求力を持っていました。
 

CENTRE FOR PASTORALISM「Desi Oon」
 

WHATSAPP「BAATAN HI BAATAN MEIN(LOVE IN A FEW WORDS)」
 

STEADFAST STATIONERY「DIRTY MONEY」
 

THE KANCIL AWARDS AND CREATIVE FESTIVAL「Kapal Kertas」
 

読者にメッセージがあればお願いします

外から聞く印象では華やかなお祭りのイメージが強かったのですが、実際に参加してみると、審査員の皆さんは非常に真摯にビジネスや日頃の課題に向き合っている方ばかりでした。フィルムクラフト部門なので当然かもしれませんが、広告主の気概、それを超えるような細部への拘り、そして普遍的な社会への疑問の提示とその解決策——そうしたものが凝縮された作品群に触れられたのは貴重な体験でした。何より、「何かを作ること」について議論して熱くなってしまう空間は、やっぱり心地よいものです。

お忙しい中、コメントをいただいたジュリーの皆さまありがとうございました! 現地でもお話しを伺いましたが、審査の熱量を感じながら、直接対話ができるのも現地参加の醍醐味です。

さて最後に、毎年恒例のアドフェストを象徴する映像を紹介します。会場で最後に流れる、スタッフを讃えるムービーです。こうしたスタンスが随所に滲み出る素晴らしいフェスティバルです。今年もたくさんの出会いと発見がありました。では、皆さん来年も是非現地でお会いしましょう。
 

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