マーケター海外出張レポート Insights from Abroad

「CMOがCEOになる」グローバルリーダーシップ研修で学んだこと ー リーダーになる人材が意識しておきたい「レンズ思考」【キンドリル 加藤希尊氏】

 

多様な視点で自分を捉え直す「Coaching Circle」


 Marketing Academyの印象的な取り組みのひとつが、継続した「Coaching Circle」です。

 初回の研修から今回まで、ランダムに設定された参加者のグループ同士が互いにコーチとなり、実際のビジネス課題を持ち寄りますが、ここではアドバイスではなく「問い」を通じて対話が進みます。

 たとえばメンバーの深い悩みが共有されます。「General Managerとして実績を積んできた中で、他社のCMOポジションに挑戦すべきか、それとも現職で強みをさらに伸ばすべきか」といったテーマです。 それに対して、「その意思決定の前提は何か」「他にどのような見方があり得るか」といった問いが重ねられていきます。

 その中で印象に残ったのは、「その選択は、本当にあなた自身の意思ですか、それとも期待されている役割に応えているだけですか」という問いでした。この問いからも、自分の中でも似た構造の意思決定がいくつもあったことに気づきました。

 普段はロジカルに判断しているつもりでも、その前提自体が疑われる機会は多くありません。問いによって初めて、自分の思考の枠が浮き上がってくる。この体験は非常に示唆的でした。

 多様なバックグラウンドを持つメンバーからの問いによって、ひとつの課題が立体的に再構成されていきます。答えが与えられるわけではありませんが、「まだ見えていない選択肢がある」という感覚は、その後の意思決定の質を確実に変えるものでした。
 

前提を書き換える力「Reframe 」


 C-Levelになるために、組織のマネジメントやCEO思考など、様々なセッションが提供されます。その中で、本稿でご紹介したい重要な学びが「Reframe」です。

「マーケティングとリーダーシップ」研究の第一人者 トーマス・バラタ氏による「C-Suite Readiness」のセッションで扱われたこの考え方は、「自分たちのビジネスは何をしているのか?」という前提そのものを書き換えるものです。
トーマス・バラタ氏の講義の様子

 このコンセプトを例にすると、 Netflixの創業者リード・ヘイスティングスは、「我々の競合は睡眠である」と語っています。これはあくまで私の理解ですが、Netflixは自らを「映像配信サービス」ではなく、「人の時間をどのように使ってもらうかを競う存在」として捉えているのだと思います。このフレームに立つことで、競争の定義や戦略、投資の優先順位が根本から変わります。

「自社は何と競っているのか」。この問いを持つだけでも、戦略の見え方は大きく変わります。

 Reframeとは、このように前提そのものを問い直し、物事の捉え方を意図的に切り替えることです。どのフレームで世界を見るかによって、見える競争や価値は大きく変わります。顧客を「サービスの利用者」と見るのか、「限られた時間をどう使うかを選んでいる存在」と見るのか。その違いが、提供すべき価値を大きく左右します。

 自分は今、どのレンズで見ているのか。この問いを持ち続けることが重要だと感じました。
 

未来のレンズを定義する「Stand」


 もうひとつの柱が「Stand」です。Standとは、自分がどのような存在でありたいかに対する「自分への約束」です。Marketing Academyの10ヵ月を通じて、1年後、2年後、その先にどのようなことをビジネス、そして私生活で実現するかを言語化し、メンバー一人ひとりがAcademyの仕上げとして発表します。
各参加者が自身のStandを共有するセッションの様子

 これには正解はありません。私自身は「B2Bマーケティングの実践知を体系化し、次世代に還元すること」を掲げましたが、それは同時に、自分自身への明確なコミットメントでもあります。他の参加者も、それぞれの立場で自分の未来に向き合っていました。未来もまた、どのレンズで見るかによって形が変わるのだと感じます。

 Standとは、未来をどう見るかを決めるだけでなく、その未来に対して自分がどう在るかを定義するものです。
 

日本から参加する皆さんへの示唆


 特に、複雑な意思決定を求められるマネージャーやCMOにとって、このプログラムで得られる視点は大きな意味を持つと感じました。 これから参加される方にとって重要なのは、次の3つだと考えています。
 

1. 完成された自分ではなく、「問い」を持っていく

完成された自分を持ち込む必要はありません。むしろ、自分の弱みや迷い、いま向き合っている課題を言語化しておくことが重要です。問いを持っている人ほど、対話の中で得られるものは大きくなります。
 

2. 「日本というレンズ」を自分の言葉で語る

自分がどの文化のレンズを持っているのかを、自分の言葉で語れるようにしておくことは大きな価値になります。日本では当たり前の価値観や所作も、他の参加者にとっては新しい視点です。それを言語化することで、自分自身の見方も広がっていきます。
 

3. 角度のある問いを持ち続ける

どのレンズでこの状況を見るのか、別の見方はないのか。その問いを持ち続けることが、学びの深さを大きく変えます。情報を受け取るだけでなく、自分なりの視点で問いを立てることが、このプログラムの価値を最大化します。
 

レンズを付け替えるというスキル


 今回の経験を通じて強く感じたのは、「違い」は文化ではなく、思考の前提そのものであるということでした。だからこそ、自分のレンズを固定せず、意図的に付け替えることが重要です。

 意思決定は、「何を見るか」ではなく「どのレンズで見るか」で変わります。その前提に気づけるかどうかが、リーダーとしての分岐点になるのだと感じています。

 日本では「立場が人をつくる」と言われますが、今回の経験を通じて、その意味を少し違った角度から実感しました。立場に応じてどのレンズを使うかが変わり、それが意思決定や行動を形づくっていくのだと思います。

 そして、その立場を経験する前でも、想像し疑似的に体験することはできます。CEOかもしれない、CMOかもしれない、マネージャーかもしれない。それぞれのレンズを持って考えることが、意思決定の幅を広げていきます。

 そうした視点を凝縮して体験できることこそが、Marketing Academyの価値のひとつなのだと感じています。

 あなたは今、どのレンズで意思決定をしていますか。

 そして、そのレンズは本当に最適でしょうか。
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