Spikes Asia

PRとはブランドが「何かを言う」ことではなく「居場所を設計する」こと ー Spikes Asia 2026 審査の現場より【シナジア 田上智子氏】

 

「Vaseline Verified」に学んだ、ブランドの謙虚さと誠実さ


 PR部門でグランプリに輝いた「Vaseline Verified」(Unilever / Ogilvy Singapore)は、まさに「Wise Bravery」を象徴する作品でした。
 

「Vaseline Verified」ケースフィルム。「Vaseline Verified」は、PR・Creative Commerce・Social & Creator・Healthcareの4部門でグランプリを受賞した。

 すでにカンヌライオンズ2025をはじめとする多くのアワードで称賛されたプログラムだからこそ、「SpikesのPR部門としてどこを評価するか」を議論しました。

 ブランドがコントロールを手放し、TikTokなどのコミュニティで自然発生的に生まれていた「ワセリンの活用法」を、自社のR&D研究員が一つひとつ検証していく。正しいものにはお墨付きを与え、誤ったものには科学的に答える。

 審査員室で称賛されたのは、その「聞く姿勢」と「動く誠実さ」です。ブランドが一方通行のメッセージを発信するのではなく、生活者との対話の中に自らの専門性を差し出す勇気。その主体的な行動が、ブランドの危機にもなりうるソーシャル上の会話をブランドの信頼という資産へと変容させるのだと、私たちはこの作品から教わりました 。
 

社会の中の「ブランドの居場所」をハックする


 グランプリ以外にも多くのケースからの気づきがありました。私が個人的に感銘を受けたケースとしては、グレートバリアリーフの事例「THE LIFETIME OF GREATNESS PROJECT」(トロピカル・ノース・クイーンズランド観光局)や、香港の「BACK TO KAI TAK」(キャセイパシフィック航空)がありました。

 前者は、「サンゴ礁は生き物なのだから」というロジックで、「人物」としてアワード(編集部注:国連環境計画の「Lifetime Achievement Award:生涯功績賞」)にノミネートするという知的なアプローチで、巨大な環境資産に再び尊厳を取り戻させました。
 

トロピカル・ノース・クイーンズランド観光局(Tourism Tropical North Queensland)「THE LIFETIME OF GREATNESS PROJECT」ケースフィルム

 後者は、ブランドの危機にあたり、社会的な緊張下にあっても、当局との対話を厭わず「場」を創出した圧倒的な実行力が光りました。
 

キャセイパシフィック航空「BACK TO KAI TAK」ケースフィルム

 これらの作品が教えてくれたのは、PRとは「何かを言う」ことではなく、社会のルールや空気の中に、ブランドが自らの手で「居場所を設計する」ことだという、至極シンプルですが力強い事実です。

 また、それは事業主自体が勇気と覚悟をもって動くことでしか完成しない、逆に言えば事業主がクリエイティビティと覚悟と勇気をもつことで大きな社会のうねりを生むことができるというエールでもありました。

後編につづく
他の連載記事:
Spikes Asia の記事一覧
  • 前のページ
  • 1
  • 2

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録