Spikes Asia
PRは「ストーリーテリング」から「行動の設計」へ 国際広告賞受賞は事業会社のコミットメントが不可欠に Spikes Asia 2026 審査の現場より【シナジア 田上智子氏】
2026/05/14
アジア太平洋地域における高いクリエイティビティを讃えることを目的に開催されているアジア地域最大の広告・コミュニケーションフェスティバル「Spikes Asia(スパイクス・アジア)」。ヨーロッパのEurobest(ユーロベスト)、中東のDubai Lynx(ドバイリンクス)と並び、カンヌライオンズの地域版フェスティバルとして知られている。今年で40回目の開催を迎えたSpikes Asia 2026は、3月9日~13日にかけてシンガポールで開催された。今年は全25部門で構成されるアワードに2,544のエントリーがあり、Creative Effectivenesss部門の日本マクドナルド、Creative Strategy部門のゼスプリ インターナショナル ジャパンなど、日本勢が5部門でグランプリを獲得する活躍を見せた。
本アワードの審査を通じて見えてきた「これからのブランドの振る舞い」について、PR部門の審査委員長を務めたシナジア 代表の田上智子氏が、前後編に渡ってレポートする。
本アワードの審査を通じて見えてきた「これからのブランドの振る舞い」について、PR部門の審査委員長を務めたシナジア 代表の田上智子氏が、前後編に渡ってレポートする。
全部門の審査委員長で共同審査した3部門から見えたこと
アジェンダノート読者の皆さま、田上智子と申します。P&Gや資生堂などの事業会社で約30年、マーケティングやコミュニケーションに従事した後、社会発想で事業成長を支援するコンサルティング会社、株式会社シナジアを創業して2年目になります。
PR部門 審査委員長という大役を仰せつかった「Spikes Asia 2026」。前編に引き続き、審査員室という特等席から見えた「これからのブランドの振る舞い」についての私の気づきを、マーケティングに携わる皆さんと共有させていただければと思います。

田上智子
シナジア 代表取締役
東京大学卒業後、P&G日本法人入社。日本支社・アジア本社(シンガポール)において、ブランドマネジメント・ブランドPR・企業広報に従事。勤続25年を機に退社。株式会社資生堂 チーフコーポレートコミュニケーションオフィサー(執行役員級)などを経て、2024年9月に(株)シナジアを創業。社会発想のコミュニケーションで事業成長をデザインしている。
2019~21年、24年~ 日本PRアワード審査員/25年~審査委員長
2024年 カンヌライオンズ PR部門審査員
2026年 スパイクスアジア PR部門審査委員長
2026年ACC マーケティングエフェクティブ部門審査員
シナジア 代表取締役
東京大学卒業後、P&G日本法人入社。日本支社・アジア本社(シンガポール)において、ブランドマネジメント・ブランドPR・企業広報に従事。勤続25年を機に退社。株式会社資生堂 チーフコーポレートコミュニケーションオフィサー(執行役員級)などを経て、2024年9月に(株)シナジアを創業。社会発想のコミュニケーションで事業成長をデザインしている。
2019~21年、24年~ 日本PRアワード審査員/25年~審査委員長
2024年 カンヌライオンズ PR部門審査員
2026年 スパイクスアジア PR部門審査委員長
2026年ACC マーケティングエフェクティブ部門審査員
後編では、PR部門の枠を越え、Spikes Asia全体を俯瞰して見えてきた潮流についてお話しします。その大きな視座を与えてくれたのは、審査3日目に全部門の審査委員長が集まり、「Glass」「Integrated」「Grand Prix for Good」の3部門を共同審査した体験でした。
それぞれの部門において、単に「どれが優れているか」だけでなく、「そのカテゴリーの定義をどう再定義するか」という深い議論が行われ、PR視点がいかに他部門のクリエイティビティやビジネス成果、そして社会課題の解決と不可分に接続しているかを肌で感じることができました。そこから浮かび上がった、単なるストーリーテリングを超えた「行動の設計(Architecture of Action)」という次なるステージについて紐解いていきます。

各部門の審査員長。「Glass」「Integrated」「Grand Prix for Good」の3部門を共同審査した。
「Architecture of Action(行動の設計)」への転換
PR部門、そしてSpikes Asia全体を貫く大きなうねりは、「ストーリーテリング(語ること)」から「Architecture of Action(行動の設計)」への移行です 。もはや「良い話」を語るだけでは不十分であり、ビジネスや社会のエコシステムを再設計し、具体的な行動や変容に結びつける力が問われています。
これは、ここ数年カンヌライオンズでも感じてきたことで、国際的なクリエイティブアワードは事業会社側のコミットメントなしでは受賞できないものになってきていることを再確認しました。この潮流は、各部門の最高賞を巡る議論にも色濃く反映されていました。
Glass: The Award for Change 文化と慣習への挑戦
この部門の最大の論点は、「単なる啓発(Awareness)で終わっているか、それとも制度や行動を実際に変えたか」でした。
グランプリとなったWhisperの「Project Early Periods」(P&G)に対しても、審査員からは「以前から同ブランドが続けている既存の大型プログラムとの成果の切り分けはどうか」といった指摘が出されました。最後まで競った「Unfreeze My Rights」(Awakening Foundation/dentsu Taiwan)が高く評価されたのは、卵子凍結を未婚女性にも認めるよう求めて行政院への法案提出という具体的な立法アクションにまで到達した、その実行力でした。
それでも最後にWhisperが選ばれたのは、初経年齢の平均が8歳まで下がっているという新たなデータの発見を起点に、8歳児に向けた製品の再設計、母親や学校を巻き込んだ教育エコシステムの再構築まで踏み込んだ包括性が決め手となりました。社会的タブーを可視化するだけでなく、一方は法制度を、もう一方は産業のエコシステムを動かす具体的なマイルストーンに到達した実行力が、Glass部門の評価軸となりました。
Whisper「Project Early Periods」ケースフィルム
Integrated Spikes 統合の深さと広さ
ここでは、「メディアの集合体か、それともひとつの大きなエコシステムか」が議論の焦点となりました。 グランプリを獲得したマクドナルド(台湾)の「Kung Fries」は、文化的ステレオタイプ(カンフーは台湾ではよくつかわれるアイデアであるということ)への懸念を越え、「ポテトを守る」というユニバーサルな心理と多角的なデジタル展開がブランドを若返らせた点が評価されました。
対照的に、映像作品として完璧だったiPhone(日本)の「Shot on iPhone」が、メディア統合の面では及ばないという厳しい評価を受けたことも、この部門の「再定義」を象徴しています。
Grand Prix for Good 真の社会貢献
ここでは、「歴史的な重み」と「結果の不可逆性」が重視されました。 最高賞に輝いた「The Māori Roll Call」(ニュージーランド / Motion Sickness)は、単なる意識変革を超え、23年ぶりにマオリの議席増設基準を突破させるという、国家の民主主義を物理的に変える結果を出しました 。クリエイティビティが国家の形を恒久的に変える力を持っていることを証明した、歴史的な転換点として支持されました。
「The Māori Roll Call」。2025年のニュージーランド選挙に向け、マオリの人々に「マオリ選挙人名簿」への登録(切り替え)を呼びかけたキャンペーン。




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