Spikes Asia
PRは「ストーリーテリング」から「行動の設計」へ 国際広告賞受賞は事業会社のコミットメントが不可欠に Spikes Asia 2026 審査の現場より【シナジア 田上智子氏】
2026/05/14
中央アジア、そして独立系エージェンシーが放つ「純粋な熱量」
今回の審査で、私を含め多くの審査員が背筋を伸ばされる思いをしたのが、カザフスタンやウズベキスタンといった中央アジア諸国の躍進、そして独立系エージェンシーの力強い活躍でした 。実は審査でも、多くの独立系所属の方に出会いました。
ウズベキスタンが史上初のSpikesを受賞(「The Weight of Pain」)した背景には、伝統的な広告手法に縛られない、切実で純粋な「伝えたい、変えたい」という意志がありました。
フィルムクラフト部門ゴールドを受賞した「The Weight of Pain」。ウズベキスタン初のSpikes受賞となった。
また、Motion Sickness(ニュージーランド)のような独立系エージェンシーが、昨年カンヌライオンズでも大きな話題を呼んだ「Make New Zealand the Best Place in the World to Have Herpes」に続き、「The Māori Roll Call」がGrand Prix for Good部門のグランプリ(およびGlass部門ゴールド)を受賞して多くの人の心を動かしたことも、その象徴です。
「Make New Zealand the Best Place in the World to Have Herpes」
クリエイティビティの重心が、大きなシステムから、より個別の、より切実な「個」の熱量へと移りつつある。そんな気配を感じました。
日本から世界へ:長期的な「実効性」への挑戦
日本からも、素晴らしい勇気を受け取りました。Spikes Asia 2026において、日本勢は合計で6つのグランプリを受賞し、過去最高レベルの快挙を成し遂げました。
TBWA\HAKUHODOによる日本マクドナルドの「No Smiles(スマイルあげない)」がCreative Effectiveness部門でグランプリを獲得したことは、その代表例です。一時的なバズを追うのではなく、長期的にビジネスとブランドをどう成長させるか。その戦略性がAPACという大舞台で評価されたことは、同じ日本のマーケティングに携わる人間として、大きな勇気をいただきました。
日本マクドナルド「No Smiles」ケースフィルム
また、前職で関わっていた、資生堂クリエイティブによる高松市の「Best After 2055」のDesign部門グランプリ受賞は、授賞式でうれし泣きしてしまい、同じテーブルにいたサイモン・クック氏(LIONS CEO)からも「おめでとう」とおっしゃっていただきました。
デザイン部門グランプリを受賞した「Best After 2055」。香川県男木島の伝統食「男木みそ」を30年後の未来へ残すためのプロジェクト。
結びに代えて:私たちが「設計者」としてできること
APACの興奮のなかで審査を終えて今、私の心に残っているのは、いくつもの素晴らしい作品の記憶と、ブランドが持つべき「覚悟のある勇気」への敬意です。審査全体の背景には、欧米の視点ではなく「アジアの文脈でこのアイデアは本当に機能しているのか?」という問いを立て続ける、アジアの審査員としてのプライドと責任感がありました。
審査を通じて再確認したのは、以下の3つの視点です。
「Wise Bravery(賢明な勇気)」
確かな知見に基づき、ブランドとして「言うべきこと」ではなく「すべきこと」を選ぶ。「Gravity of Truth(真実の引力)」
小手先のテクニックではなく、アイデアそのものが持つ純粋な引力を信じる。「個の意志(The Power of Individual)」
事業主体やエージェンシーの大小にかかわらず、個の意志が社会を動かすということ。Spikes Asiaは、答えを教えてくれる場所ではなく、問いを投げかけてくれる場所でした。私たちがここから受け取ったバトンは、明日からの日々の業務の中で、いかにして「語ること」を「行動」へとつなげ、より良い社会やビジネスの風景を設計していくか、という問いそのものです。
私は今年、6月のカンヌライオンズにも視察に行く予定です。APACの潮流がどのようにカンヌライオンズでグローバルの流れとして見えてくるのか。今回仲良くなった審査員や他部門の審査委員長とも「カンヌ現地で会おう」と約束しています。この記事が、日々奮闘されているマーケターの皆さんの、何らかのヒントになれば幸いです。
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