カンヌライオンズ2026

カンヌライオンズ2026開幕 新部門「Creative Brand Lion」など今年の注目ポイントを紹介

 

高まる「ブランド」の存在感


 世界最大の広告賞「第73回カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル(カンヌライオンズ2026)が、6月22日にフランス・カンヌで開幕した。6月26日までの5日間にわたり、計2万点以上の応募作品の中から選ばれた世界最高峰の広告・コミュニケーション事例が表彰されるほか、多種多様なセミナーやトークセッション、幅広い業界の第一線で活躍するプロフェッショナル同士のネットワーキングが行われる。

 カンヌライオンズでは毎年、社会や業界の変化を踏まえ、新たな部門の設置や評価基準の刷新など、様々なアップデートを行ってきた。今年は、ブランド企業の存在感の高まり、独立系エージェンシーの台頭、AIとデータ活用の本格化、そして経営アジェンダとしてのクリエイティビティの重要性など、例年以上にマーケティング業界全体の変化がアワードのアップデートに反映されている。

 本稿では、例年との主な変更点を含め、カンヌライオンズ2026の注目ポイントを紹介する。
 

「ブランド」からの応募が全応募作品の10%に到達


 カンヌライオンズ2026の応募総数は、92ヵ国から2万50件となった。2025年の応募総数は2万6900件だったので、数自体は大幅に減ったわけだが、数字以上に注目すべきは応募主体の変化と言える。

 今年は全応募作品のうち10%を、エージェンシーではなくブランド企業が直接応募しており、2025年の8%からさらに増加した。

 カンヌライオンズは長らく“エージェンシーが主役”のアワードだったが、近年はブランド自らがクリエイティブの能力を獲得し、マーケティングを企業成長の中核に据える動きが加速していると言える。
 

「Creative Brand Lion」が新設、初代審査員長はAB InBevのCMO


 ブランドの存在感の高まりは、今年新設された部門「Creative Brand Lion」にも表れている。今年の最も大きな制度変更のひとつである。

 同部門は、個別の広告キャンペーンやコミュニケーション施策、クリエイティブ作品ではなく、創造性を再現性高く生み出すための組織文化、意思決定プロセス、マーケティング体制を構築している先進的なブランドを表彰する。また、クリエイティビティを持続的なビジネス成果へと転換する実践も評価対象となる。

 近年、グローバル企業の間では、創造性をマーケティング部門の機能としてではなく、経営資源として捉える動きが加速している。「Creative Brand Lion」の創設は、そうした潮流を象徴するものであり、クリエイティビティが企業価値や競争優位の源泉として位置づけられていることを示している。

 初代審査員長は、世界的ビールメーカーであるAB InBevのグローバルCMO マルセル・マルコンデス氏が務める。AB InBevは、カンヌライオンズ2026の「Creative Marketer of the Year」の受賞企業であり、同社はカンヌライオンズの歴史上、同賞を3度にわたって受賞した唯一の企業だ。マルコンデス氏の指揮の下、同社は大胆な戦略転換を進め、事業成長の中核にクリエイティビティを据えてきた。

「Creative Brand Lion」の結果は、会期初日・22日夜の表彰式で発表される。
 

CEOとCMOが集う場へ


 ブランドの存在感が増している背景には、「クリエイティビティは広告表現の問題に留まらず、経営課題になりつつある」というグローバル企業の共通認識がある。

 その流れを象徴する動きのひとつとして、経営層向けプログラムの拡充も挙げられる。昨年開催された「Global CEO Forum」を発展させた「CEO Forum」が開催され、世界を代表する50人のCEOが参加する。航空、テクノロジー、消費財、メディア、小売など業界を横断する経営トップが集まり、創造性をいかに事業成長や企業価値向上につなげるかについて議論する場となる。

 また、新たに創設された「LIONS Global CMO Forum」も注目される。これは世界有数のCMOを対象とした招待制のフォーラムで、従来のマーケティングカンファレンスとは異なり、プレゼンテーションや成功事例の共有よりも、参加者同士による率直な対話を重視した設計となっている。議論のテーマも、広告やコミュニケーション施策に留まらず、事業成長の実現、マーケティング投資の正当化、短期的な売上成果と長期的なブランド価値の両立、さらには取締役会やCEOとの関係構築など、経営レベルの課題が中心となる。

 こうした取り組みの背景には、AIやデータ活用、リテールメディアの拡大などによって、マーケティングの役割そのものが変化していることがある。かつてCMOは広告やコミュニケーションを統括する責任者として位置付けられていたが、現在は企業成長を牽引する経営幹部としての役割が期待されている。CEOにとっても、クリエイティビティはブランド部門や広告部門だけのテーマではなく、競争優位や企業価値を左右する経営資源となりつつある。

 前述の新設部門「Creative Brand Lion」が、個別のキャンペーンではなく、創造性を継続的に生み出す組織や企業文化を評価対象としていることも、その延長線上にある動きといえる。カンヌライオンズは2026年、広告作品を競う場から、クリエイティビティを企業成長の原動力として捉える経営アジェンダの場へと、さらに一歩踏み出したといえる。
 

ジム・ステンゲルが初代「マーケティング功労賞」を受賞


 クリエイティビティと経営の結びつきを象徴する動きとしては、今年新設された「Lions Laureate for Marketing(マーケティング功労賞)」も注目すべきトピックのひとつだ。

 マーケティングという職業の発展に永続的な影響を与え、創造的マーケティングを事業成長の原動力として発展させた人物を顕彰するものと位置づけられている。個別の業績や特定企業での成果ではなく、マーケティングという職能そのものの発展への貢献を評価する点がポイントだ。

 初代受賞者には、P&Gの元グローバル・マーケティング・オフィサーであるジム・ステンゲルが選出された。同氏は、単に優れたマーケターであるということ以上に、早い段階から、ブランドパーパス、マーケティング組織の能力開発、CMOの経営参画、クリエイティビティと企業成長の関係などを提唱し、マーケティングを単なる販促活動ではなく企業成長の原動力として位置づけた人物として知られる。

 さらに、カンヌライオンズでは「Young Marketers Academy」や「CMO Accelerator Program」の立ち上げにも関わり、次世代マーケター育成にも大きく貢献している。
 

ますます強まる、独立系エージェンシーの存在感


 ブランド企業と同様に、近年急速に存在感を増しているのが、独立系エージェンシーの躍進だ。今年は独立系エージェンシーによる作品エントリーが全体の約3分の1を占めた。

 また、近年のカンヌライオンズにおける近年の独立系エージェンシーの躍進を象徴する存在であるGUT(アルゼンチン)を含め、独立系エージェンシー出身の審査委員長の数が過去最多となった。さらに、Artplan、Rethink、M+C Saatchi、Motherから初めて審査委員長が選出され、

 巨大ネットワークエージェンシーが中心だった時代から、専門性や独自性を武器に、独立系エージェンシーが存在感を高めている。彼らが世界各地の業界・市場でクリエイティブの可能性を拡張する重要な役割を果たしていることを踏まえ、カンヌライオンズは今年、新たな参加パス「Challenger Pass」を導入し、独立系エージェンシーや新興ブランド、スタートアップ企業の参加機会を拡大している。
 

AI活用から、AI時代のクラフトへ


 あらゆる業界・領域においてAIの存在感が強まる中、2026年のカンヌライオンズを語る上でもAIは欠かすことができない。

 生成AIの普及から一定の期間が経過し、業界の関心は「AIを導入・活用するべきか」から「AIを活用してどのような価値を創出するか」へと移っている。ゆえに、カンヌライオンズでも、「AIを使ったこと」そのものを評価するのではなく、人間のクリエイティビティとAIがどのように融合し、新たな表現や価値を生み出したかに焦点が置かれる。

 その考え方を反映するのが、「AI Craft」サブカテゴリーの新設だ。このサブカテゴリーは、AI Craft、Design、Digital Craft、Film Craftなど、複数のクラフト系部門に設置される。

 AIを単なる制作効率化ツールとして利用した作品ではなく、AIがアイデアの実現や表現の拡張に本質的な役割を果たし、人間だけでもAIだけでも成立しなかった成果を生み出した作品が評価される。
 

データは分析のためではなく、アイデアを生み出すためのものへ


 クリエイティブ・データ部門の見直しも注目すべき変更点のひとつ。従来のデータ活用は、ターゲティングやメディアプランの最適化など、コミュニケーション効率を高めるための手段として語られることが多かった。しかしカンヌライオンズ2026では、データをクリエイティブの出発点として位置づける考え方が明確に打ち出されている。

 新たな評価基準では、データが単に活用されただけでなく、アイデアそのものを形成し、その成果に不可欠な役割を果たしていることが求められる。

 背景にあるのは、ファーストパーティデータやプライバシー配慮型マーケティングの重要性の高まりである。データはもはや分析の対象ではなく、顧客理解や新たな発想を生み出す資源として捉えられているのである。
 

リテールメディアが戦略領域へ拡大


 近年、急速に存在感を高めているリテールメディアも、2026年の重要テーマのひとつだ。昨年、メディア部門とクリエイティブ・コマース部門に導入された「リテールメディア」関連カテゴリーが、今年はクリエイティブ・ストラテジー部門とクリエイティブ・データ部門にも拡張された。

 これはリテールメディアが単なる広告配信チャネルではなく、ブランド戦略や顧客体験設計を担う領域へと進化していることを示している。

 購買データを基盤とするメディア環境は、認知から購買までを一気通貫で設計できる点に特徴がある。カンヌライオンズのカテゴリー拡張は、リテールメディアがマーケティング戦略全体において重要な役割を担うようになった現状を反映していると言える。
 

スポーツに特化したプログラム「LIONS Sport」が初開催


 これまでもスポーツ関連作品を評価する部門は存在していたが、今年はスポーツに特化した独立プログラム「LIONS Sport」が初開催される。

 6月24-25日の2日間にわたって開催され、ブランド、エージェンシー、メディア、リーグやチーム、権利保有者、アスリートなどが集まり、スポーツが持つ文化的価値とビジネス価値について議論する。

 重要なのは、LIONS Sportが「スポーツマーケティングのイベント」ではないという点。評価対象となるのは広告施策だけではなく、スポーツIP、ファンダム(熱狂的ファンコミュニティ)、スポンサーシップ、メディア権利、アスリートのブランド化、スポーツを活用した事業成長なども含まれる。

 背景には、スポーツが世界的な巨大産業へと成長していることがある。カンヌライオンズは、世界のスポーツ市場規模を4,000億ドル超と捉え、その中でクリエイティビティやマーケティングが果たす役割が急速に高まっているとしている。
 

応募作品の信頼性を担保する「Awards Integrity Standards」の本格運用


 近年、カンヌライオンズに限らず国際広告賞では、ケースフィルムにおける成果の誇張や、実施実績に関する疑義がたびたび問題となってきた。

 こうした状況を受け、カンヌライオンズは応募作品の信頼性を担保するための基準を大幅に強化。「Awards Integrity Standards(公平性・誠実性基準)」の本格運用を開始した。

下記5つのアカウンタビリティ(説明責任)測定基準で構成され、受賞作品や応募作品における虚偽や誇張を防ぐとしている。
・Ownership and Authorship(所有権と制作 authorship)
・Veracity of Claims(主張の正確性・真実性)
・Consequence of Misrepresentation(虚偽表示に対する措置)
・Conflict of Interest(利害の対立)
・Transparency and Verification(透明性と検証可能性)

 応募企業には、成果を裏付ける証拠の提出が求められるほか、CEOやCMOによる事実確認も必要となる。さらにAIを活用した検証プロセスや、審査員から追加情報を求める仕組みも導入された。

 単なる運営ルールの変更というよりは、クリエイティビティの評価においても透明性や説明責任が不可欠な要素になったことを意味しているといえる。成果を語るだけではなく、その成果を証明することが求められている。

 2026年の変化を総合すると、カンヌライオンズが評価する対象は広告・キャンペーンから企業・ブランドそのものへと広がっている。

 カンヌライオンズが、「優れた広告を表彰する祭典」から、「クリエイティビティを通じて企業成長を実現するためのグローバルプラットフォーム」へと進化しつつあることを示す象徴的な年になるといえるだろう。

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録