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AIは「実験」から「実装」のフェーズへ 北米最大級のマーケティングカンファレンス「POSSIBLE 2026」現地レポート
2026/07/16
2026年4月27~29日、米国フロリダ州マイアミにてマーケティングカンファレンス「POSSIBLE(ポッシブル)2026」が開催された。昨年に続いて現地参加したが、規模・体験ともに明らかな進化を感じた3日間だった。
メイン会場のフォンテーヌブロー(Fontainebleau)に加え、隣接するエデン・ロック(Eden Roc)やビーチフロントエリアにも会場が拡張。事前予約制のビジネスミーティングやネットワーキングが有機的に組み合わさり、従来のカンファレンス体験を超える場となっていた。
今年の最も大きな変化は「AIの立ち位置」だ。昨年のPOSSIBLE 2025では「AIで何ができるか」が問われていたが、今年、AIはすでに前提として扱われていた。新設された「AI Verse(AIバース)」プログラムに象徴されるように、ユースケースの紹介にとどまらず、「実装」「スケール」「責任ある活用」といったテーマが中心に据えられていた。AIはもはやひとつのトピックではなく、戦略・クリエイティビティ・オペレーションなど、あらゆる議論の背景に溶け込んでいた。本レポートでは、日本のマーケターにとって示唆の深いセッションを厳選して振り返る。
メイン会場のフォンテーヌブロー(Fontainebleau)に加え、隣接するエデン・ロック(Eden Roc)やビーチフロントエリアにも会場が拡張。事前予約制のビジネスミーティングやネットワーキングが有機的に組み合わさり、従来のカンファレンス体験を超える場となっていた。
今年の最も大きな変化は「AIの立ち位置」だ。昨年のPOSSIBLE 2025では「AIで何ができるか」が問われていたが、今年、AIはすでに前提として扱われていた。新設された「AI Verse(AIバース)」プログラムに象徴されるように、ユースケースの紹介にとどまらず、「実装」「スケール」「責任ある活用」といったテーマが中心に据えられていた。AIはもはやひとつのトピックではなく、戦略・クリエイティビティ・オペレーションなど、あらゆる議論の背景に溶け込んでいた。本レポートでは、日本のマーケターにとって示唆の深いセッションを厳選して振り返る。
<執筆者>

黒島 正貴
Business Development Representative
Ayudante Canada Inc.
コンサルタントとして15年以上のキャリアを持ち、HIS・楽天・キッコーマンなどでデジタルトランスフォーメーションを支援。特に楽天では、オフラインからオンラインへの移行を主導した。2024年にカナダへ移住後も、データとイノベーションの力で企業のグローバル成長を支援している。
Business Development Representative
Ayudante Canada Inc.
コンサルタントとして15年以上のキャリアを持ち、HIS・楽天・キッコーマンなどでデジタルトランスフォーメーションを支援。特に楽天では、オフラインからオンラインへの移行を主導した。2024年にカナダへ移住後も、データとイノベーションの力で企業のグローバル成長を支援している。
AIはどこにでもあった — でももはや「主役」ではない
舞台はマイアミビーチのフォンテーヌブロー。北米最大級のマーケティングカンファレンス「POSSIBLE(ポッシブル)2026」は、成長と国際的な野心を示す明確なシグナルとともに幕を開けた。



共同創設者でグローバル・プレジデントのクリスチャン・ムーシェ(Christian Muche)は開幕挨拶で、参加者数が昨年の約5,400人から7,500人超へと拡大したことを報告。さらに、2027年にはポルトガル・リスボンへの展開も発表し、POSSIBLEがグローバルプラットフォームへと進化していることを示した。
そのトーンをさらに強く打ち出したのが、MMA(Marketing + Media Alliance)のCEO、グレッグ・スチュアート(Greg Stuart)だ。彼は会場に向けてこんな問いを投げかけた。
- "If marketing drives growth, why is it still not fully trusted?"
「マーケティングが成長を牽引するなら、なぜいまだに完全には信頼されていないのか?」
(MMA CEO、グレッグ・スチュアート / Greg Stuart)
スチュアートの答えは「構造的な問題」だ。マーケティングはいまだ「真のプロフェッション(専門職)」になりきれていない。何十年もの研究が積み上げられてきたにもかかわらず、この業界は依然として「意見」に頼りすぎている。
- "The age of opinion is ending."
「意見の時代は、終わろうとしている。」
(MMA CEO、グレッグ・スチュアート / Greg Stuart)
そしてスチュアートは、AIについても警鐘を鳴らした。AIは「解決策」ではなく、「前提が間違っていれば問題を拡大させるリスク」だと。
- 前提が誤っていれば、AIはその誤りをスケールさせる。
測定が甘ければ、AIは誤った確信を増幅させる。
つまりAIは「答え」ではなく「乗数(マルチプライヤー)」だ。この認識が、POSSIBLE 2026のトーンを決定づけた。
AIはどこにでも存在していた。しかしもはや、「物語の主役」ではなかった。 会場全体を通じて浮かび上がってきた本質的な問いは、こうだ。
AIがあらゆるものに組み込まれた世界で、マーケティングは何になるべきか?
そして複数のセッションを通じて、一貫したテーマが浮かび上がっていた。本当の変革はAIではない — AIがマーケティングに迫る変容、そのものだ。
現地で感じたのは、「AIを使う/使わない」という議論がすでに終わっているということだ。会場では誰もAIの是非を語っていなかった。問いはすでに「AIが前提の組織をどう設計するか」に移っていた。日本では「どのAIツールを使うか」が話題の中心になりがちだが、マーケターは別の視点を持つ必要があると認識した。Session 1|私たちが信じてきた指標が、壊れ始めている
【セッション原題】
What Most (Maybe All) Marketers Don't Get About How Marketing Works
【登壇者】
- ジョエル・ルビンソン(Joel Rubinson)— SME, Marketing + Media Alliance
- キース・スミス(Keith Smith)PhD — Managing Director, Marketing Science Institute(MSI)
- レックス・ブリッグス(Rex Briggs)— Marketing Researcher, Author and CEO, Marketing + Media Alliance
- ヴァス・バコポウロス(Vas Bakopoulos)— SVP Head of Industry Research, Marketing + Media Alliance

POSSIBLE 2026で最も知的な刺激を与えてくれたセッションのひとつが、これだ。長年にわたりマーケターが「正しい指標」として信頼してきたROI・ROAS・リーチ。これらを根本から問い直す議論が展開された。
- "If you want to maximize ROI, the best strategy is to spend nothing."
「ROIを最大化したければ、最善の戦略は何も使わないことだ。」
意図的に挑発的なこの発言が示す本質はシンプルだ。
効率の最大化は、成長の最大化ではない。
ROIは固定された数値ではなく、「曲線」として捉えるべきだ、とスピーカーたちは強調した。効率のピークだけを追い求めると、投資量が不足し、長期的なスケールと影響力が失われる。議論はさらに踏み込んでいった。- リーチの最大化は、効果を希薄にする可能性がある
- 個別チャネルの最適化は、ビジネス全体のアウトカムを損なうことがある
- 指標そのものは「中立」ではない — 指標には必ず前提と偏りが内包されている
- "No metric is neutral."
「中立な指標など存在しない。」
そしてこの議論が導くのは、マーケティング観の転換だ。
最適化は、成長ではない。(Optimization is not growth.)
マーケティングは線形の方程式ではなく、トレードオフを能動的にマネジメントしなければならない「動的なシステム」として捉えるべきだ。そしてAI活用の文脈では、この複雑性は消えない — むしろ増幅される。正確な測定と、健全な前提。それなしにAIを走らせれば、誤った確信だけが速くなる。これがこのセッションの核心だった。
日本のマーケティング現場でも「ROASが高いから正解」という判断は多い。しかしこのセッションは、その指標自体を疑うところから始まっていた。AI活用の前に、まず「何を測るべきか」を問い直す。その姿勢が、ここでは当たり前になっていた。
Session 2|信頼こそが最も価値あるメディア資産になる
【セッション原題】
A New Era of Entertainment
【登壇者】
- キニグラ・ディオン(Kinigra Deon)— YouTube Creator & Filmmaker, Kinigra Deon Ent LLC
- メアリー・エレン・コー(Mary Ellen Coe)— Chief Business Officer, YouTube

今年のPOSSIBLEで繰り返し浮上したもうひとつの大テーマが「メディアそのものの変容」だ。YouTubeが主導したこのセッションで、明快なメッセージが示された。
クリエイターはインフルエンサーではない。彼らはメディア企業だ。
これは概念的な比喩にとどまらない。データが裏付けている。YouTubeは米国においてストリーミングプラットフォームとして3年連続で第1位を維持しており、視聴者の75%が「クリエイターは最も信頼できる情報源だ」と回答している。
- "That unique blend of trust and attention translates into action."
「信頼とアテンション(注目)の独自の融合が、行動へと変換される。」
(YouTube Chief Business Officer、メアリー・エレン・コー / Mary Ellen Coe)
今日のクリエイターは、コンテンツを発信するだけではない。コミュニティを構築し、長期的な信頼を積み上げ、文化と消費行動の両方に影響を与える存在だ。視聴者も変わった。もはや受動的なメディア消費者ではなく、信頼するボイスに基づいて積極的に関与し、評価し、行動を起こす。
このセッションが示した新しい方程式はシンプルだ。
Trust(信頼)+ Attention(注目)= Action(行動)
ブランドにとって、これはメディアの役割が根本から変わることを意味する。インプレッションを買い、リーチを最適化する — そのモデルだけでは不十分になっている。問われるのはこうだ。信頼はどこにすでに存在しているか。ブランドはどうすればその信頼の一部になれるか。
日本では「インフルエンサーマーケティング」として語られることが多いが、北米ではその概念が「クリエイターはメディア企業」へとアップデートされている。ブランドがクリエイターと組む理由を「拡散力」ではなく「信頼の継承」として設計し直す時期に来ている。その違いが、コンテンツの質と消費者への響き方に出てくるのだと改めて感じた。




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