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AIは「実験」から「実装」のフェーズへ 北米最大級のマーケティングカンファレンス「POSSIBLE 2026」現地レポート
2026/07/16
Session 3|インフラなきAIはただのノイズ — 実装フェーズの本質
【セッション原題】
Putting the Intelligence Back in AI
【登壇者】
- アンドリュー・スウィナンド(Andrew Swinand)— CEO, ITG

「Putting the Intelligence Back in AI(AIにインテリジェンスを取り戻す)」というタイトルが示すとおり、このセッションのメッセージは明快だった。
- "AI is not the strategy. AI is an enabler."
「AIは戦略ではない。AIは、実現手段だ。」
多くの企業がAIの実験を続けている一方で、実際に組織全体でAIをスケールさせている企業は極めて少ない。その原因はAIモデルの性能ではなく、「その下に敷かれるべきインフラが整っていないこと」だとスウィナンドは断言した。
AIを機能させるために必要な要素として、以下が挙げられた。
- 構造化された DAM(デジタルアセット管理 / Digital Asset Management)
- データと自動化システムの連携(オーケストレーション / Orchestration)
- メタデータとフィードバックループの整備
- ワークフローに組み込まれたAIエージェント(AI Agents)
- "Digital asset management is one of the most important decisions brands can make in enabling AI."
「DAMは、AIを活用するうえでブランドが下せる最も重要な意思決定のひとつだ。」
(ITG CEO、アンドリュー・スウィナンド / Andrew Swinand)
また同セッションは、AI導入の目的についても問い直した。「コスト削減」が主目的と語られがちな現状に、スウィナンドは異を唱えた。
- "It's not spend less. It's do more that's smarter."
「削減するのではなく、よりスマートにより多くを実現する、ということだ。」
(ITG CEO、アンドリュー・スウィナンド / Andrew Swinand)
AIを単なるコスト削減ツールとして捉えるのではなく、パーソナライゼーションと業務効率化によって成長を牽引するドライバーとして位置づける。それがPOSSIBLE 2026を通じて繰り返し示されたAI観だ。
印象的だったのは、「AIを導入しても、データ管理が整っていなければ効果は出ない」という点だ。素材の場所や情報が整理されていない状態では、AIはむしろノイズを増やしてしまう。DAM整備やメタデータ設計のような地道な基盤づくりこそ、AI活用の鍵だと感じた。日本では後回しにされがちな領域だからこそ、早めの対応が重要だ。
Session 4|AIはクリエイティビティを変える、しかし「人間の感性」は揺るがない
【セッション原題】
The AI Storytelling Revolution: Bridging the Gap Between Creator and Consumer
【登壇者】
- カレン・X・チェン(Karen X. Cheng)— 受賞映像監督 / Award-Winning Director
- ニコラ・メンデルソン(Nicola Mendelsohn)— Head of Global Business Group, Meta

MetaのグローバルビジネスグループHeadであるニコラ・メンデルソン(Nicola Mendelsohn)と、受賞経験を持つクリエイター カレン・X・チェン(Karen X. Cheng)の対話形式で展開されたこのセッション。AIがクリエイティブプロセスをいかに変容させているかが、赤裸々に語られた。
チェン氏は、これまで独自のカメラトリックや映像表現でSNS上に多くのファンを持つクリエイターだ。しかし彼女は、自分が積み上げてきた映像技術の多くがAIで再現できることに気づいた瞬間を、率直にこう語った。
- "I kind of had an existential meltdown."
「存在論的な崩壊を感じた」
(受賞映像監督、カレン・X・チェン / Karen X. Cheng)
しかし、数えきれないほどの時間をかけてAI動画ツールと向き合った後、彼女の視点は変わった。以前は数日かかっていたアイデアの映像化が数分で実現できる。その体験から掴んだのは「AIから得られるもの(ゲイン)」という新しい視座だ。
同時に、チェン氏はブランドへの強いメッセージも発した。
- "The number one mistake that I see brands making is that they over rely on AI as the headline."
「ブランドが犯す最大のミスは、AIそのものを目玉にしてしまうことだ。」
(受賞映像監督、カレン・X・チェン / Karen X. Cheng)
制作物の質とオリジナリティこそが重要であり、AIを使ったかどうかに関わらず、作品自体が独立して評価されるべきだという考えだ。
- "Your work needs to be able to stand on its own, regardless of whether you use AI or not."
「あなたの作品は、AIを使うかどうかに関係なく、それ自体で自立できなければならない。」
(受賞映像監督、カレン・X・チェン / Karen X. Cheng)
そしてクリエイターの役割の変化について、こう表現した。
- "More of a conductor of the orchestra."
「より"オーケストラの指揮者"としての存在になっていく。」
(受賞映像監督、カレン・X・チェン / Karen X. Cheng)
AIが制作作業を自動化するほど、人間のクリエイティビティは「センス・方向性・ストーリーテリング・感情との接続」という、より本質的な部分に集中するようになる。AIは創造性を奪わない——それが置かれる場所を変えるのだ。
彼女がたどり着いたのは、AIを受け入れた上で「自分にしかできないこと」に集中するという姿勢だった。
日本のブランドや広告主でも「AIで作りました」を売り文句にするコンテンツが増えているが、それは消費者には刺さらない。問われるのは変わらず、そのコンテンツに人間のセンスと物語が宿っているかどうかということ。
AI Verse — AIの実験から、組織変革へ
今年のPOSSIBLEで新設された「AI Verse(AIバース)」エリアは、AIドリブンなマーケティング変革に特化した専用ステージ&展示スペースだ。
AIを将来のコンセプトとしてではなく、「すでに進行中のオペレーションの現実」として位置づけた点が、他の展示ゾーンとは一線を画していた。

セッション全体を通じて浮かび上がったテーマは以下のとおりだ。
- AI対応のデータインフラ(AI-ready data infrastructure)
- ワークフローのオーケストレーション(Workflow orchestration)
- ガバナンスと透明性(Governance and transparency)
- 規模でのパーソナライゼーション(Personalization at scale)
- AIエージェントと自動化(AI agents and automation)
- AI環境下での人間の意思決定(Human decision-making in AI environments)
AI Verseのステージを囲む形で、Innovation Forge AI・ITG・GWI・NinjaCat・Rembrand・HYPERVSNといった企業がソリューションを展示。マーケティングインテリジェンス、AIによるクリエイティブオペレーション、データ統合、パーソナライゼーション、測定・レポート自動化、没入型ブランド体験などが一堂に会した。

会場全体を通じて、以前の問い「どうやってAIを使うか?」からの変化は明確だった。
- "How do we redesign marketing organizations for a world where AI is built into everything?"
「AIがすべてに組み込まれた世界で、マーケティング組織をどう再設計するか?」
「AI導入プロジェクト」を推進しているフェーズの企業も増え始めてはいるが、日本のテックイベントではまだ「こんなことができます」というデモが多い。
ここでは「あなたの組織のワークフローに、どうAIを組み込むか」という実装の話ばかりだった。見学者も質問が具体的で、「うちのシステムとどう繋がるか」「データガバナンスはどう設計するか」という会話があちこちで起きていた。
現地で感じた、日本との温度差
日本のAI議論との最大の差異として印象に残ったのは、「オペレーショナルインテグレーション(組織への実装)」への関心の高さだ。
日本では生産性ツールとしてのAI、あるいは生成AIのデモが注目されることが多い。しかし北米の企業の多くは、AIを「ビジネスオペレーション、カスタマーインテリジェンス、意思決定システムに直接接続されたインフラ」として位置づけていた。
この差は、「どのツールを使うか」ではなく、「AIをどんな問いに使うか」という発想の層の違いだ。日本のマーケターにとっても、この視点の転換は今後不可欠になっていく。
POSSIBLE 2026に参加して最も強く感じたのは、「AIがトピックであることをやめた」という感覚だ。AIはもはや議題のひとつではなく、あらゆる議論の前提条件になっていた。信頼、コネクテッドエコシステム、オペレーショナルAI、データインフラ —— これらのテーマが繰り返し登場したことは、業界が実験フェーズを超え、変革の新しいフェーズに入ったことを示している。
フォンテーヌブロー、エデン・ロック、マイアミビーチ一帯に広がった会場は、セッションやネットワーキング、ビジネス商談が有機的に融合する独特の雰囲気を生み出していた。
マーケティングカンファレンスでありながら、マーケティング・テクノロジー・メディアの未来を垣間見る場として、POSSIBLE 2026は確かな存在感を示していた。
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