カンヌライオンズ2026
ただのドリルではなく「かっこいいドリル」をつくりたい ヤングカンヌ日本代表・清水出帆氏が挑む「テックエンタメ」とは
2026/07/27
世界最大の広告祭「カンヌライオンズ」が、今年も6月22日から26日にかけて開催された。そのプログラムのひとつとして実施された、30歳以下の若手クリエイターを対象とするコンペティション「ヤングライオンズコンペティション(通称:ヤングカンヌ)」に、デジタル部門の日本代表として参加したのが、HYTEK Inc. のプランナー・清水出帆氏だ。
清水氏が取り組むのは、テクノロジーとエンターテインメントを掛け合わせた「テックエンタメ」の領域。クライアントの課題解決に向き合いながらも、「正しい」だけでなく「面白い」ことを追求し、「課題」ではなく「文化」を起点に企画を立ち上げる独自のメソッドを持つ。
グローバルの舞台に挑んだ清水氏に、現在の取り組み、理想とするクリエイティブ人材像、そしてこれからつくりたい未来について聞いた。
※このインタビューは、ヤングカンヌ前に実施したものです。
清水氏が取り組むのは、テクノロジーとエンターテインメントを掛け合わせた「テックエンタメ」の領域。クライアントの課題解決に向き合いながらも、「正しい」だけでなく「面白い」ことを追求し、「課題」ではなく「文化」を起点に企画を立ち上げる独自のメソッドを持つ。
グローバルの舞台に挑んだ清水氏に、現在の取り組み、理想とするクリエイティブ人材像、そしてこれからつくりたい未来について聞いた。
※このインタビューは、ヤングカンヌ前に実施したものです。
「正しい」だけでなく「面白い」ことをやりたい。広告界を志した理由
ー 清水さんは、これまでどのようなキャリアを歩んでこられたのでしょうか。
大学時代は、自動運転のプロダクトを開発するテクノロジー企業でインターンをしていました。
そのままエンジニアの道に進むことも考えましたが、就職活動を機にあらためて自分の志向を見つめ直したとき、広告への興味が湧いてきたんです。
そうして、広告会社に入社しました。インターンでの経験もあって、広告制作ではなく、調査やデータ分析を担うマーケティング部署に配属されました。
広告会社を退職するタイミングで、現在所属している会社・HYTEK Inc. の社長と出会い、今は「テックエンタメ」の領域で活動しています。

清水出帆氏
HYTEK Inc. プランナー
テックベンチャーでのAIプロダクト開発・広告会社のストラテジックプラナーを経験し、HYTEK Inc.にプランナーとして参画。MV・インスタレーション・イベント製作を中心にエンタメ分野のいたずら体験を手掛ける。個人でも”Soft Clubbing” をキーワードに、DJとして音楽活動中。ACC・日本空間デザインアワード・オランダ国際インスタレーションアワード「FRAME」GOLDなど、様々な領域でのアワードを受賞。
HYTEK Inc. プランナー
テックベンチャーでのAIプロダクト開発・広告会社のストラテジックプラナーを経験し、HYTEK Inc.にプランナーとして参画。MV・インスタレーション・イベント製作を中心にエンタメ分野のいたずら体験を手掛ける。個人でも”Soft Clubbing” をキーワードに、DJとして音楽活動中。ACC・日本空間デザインアワード・オランダ国際インスタレーションアワード「FRAME」GOLDなど、様々な領域でのアワードを受賞。
ー 自動運転の会社のインターンでは、どのようなことをされていたのですか。
カメラを使った道路状況認識AIの精度を高める領域を担当していました。カメラが捉えた映像に対して、AIが「これは人」「これは前方を走る車」「これは標識」と識別するのですが、その精度を統計的に分析・改善していました。人型の標識と子どもの判別などで特に苦労した記憶があります。
振り返ると、ChatGPTが世の中に登場する何年も前から、AIの精度向上や学習データの品質改善に携わっていたことになります。
大学では政治経済学部に所属していた、いわゆるゴリゴリの文系でした。ただ、父が技術系の仕事をしていた影響もあり、テクノロジー領域には昔から関心がありました。初代 iPhoneが日本で発売されたときも、父と一緒に行列に並んだことを覚えています。
インターンの経験を通じて、「テックって、やっぱり面白いな」とあらためて実感しました。
ー テクノロジーの面白さを肌で感じながらも、広告会社への就職を選んだのはなぜですか。
「正しいこと」をするだけでなく、その過程に「面白さ」や、ちょっとした「いたずら心」を込めたい。もともとそういう志向が強かったのだと思います。
私は映画、特にピクサー作品が大好きなんです。ピクサー作品は、ハッピーなストーリーの中に、クスッと笑える遊び心がいくつも散りばめられていますよね。自分もそういうものをつくり、世の中に送り出していきたい。その方法のひとつとして、「広告」はとても面白いのではないかと思いました。
前職では、ストラテジックプラナー(マーケター)として、広告配信前のターゲット調査やインサイトの深掘り、配信後の効果測定・分析などを主に担当しました。
この仕事を通じて、「感覚的・右脳的な要素も、データとして可視化できる」という発見を数多く経験しました。
たとえば、店舗の商品棚のレイアウト(陳列)を変えると、生活者の行動はどのように変化するのか。「言葉」で理解していた人間の思考や行動が、データとして明確に表れる。そのことに、毎回新鮮な驚きを感じました。
こうした気づきの積み重ねは、現在の仕事にも大いに活きています。
「インサイト」ではなく「カルチャー」を起点に発想
ー 現在はHYTEKで「テックエンタメ」領域に取り組んでいらっしゃいます。具体的には、どのようなお仕事をされていますか。
インスタレーションの制作、ミュージックビデオ(MV)の制作、さらには芸人さんを海外に送り出すプロジェクトなど、テック・エンタメ・海外をテーマに仕事の領域は多岐にわたります。入社して最初の大きな仕事は、「とにかく明るい安村」さんを海外に発信するプロジェクトで、非常に印象に残っています。
私たちの仕事の核心にあるのは、「課題(Problem)」からではなく「文化(Social Context)」から考えるというアプローチです。
世の中の不便や不満を見つけて解決する、いわゆるジョブ理論的なアプローチではなく、「最近こういうものが流行っているよね」「この空気感が面白いよね」といった、まだ言葉やデータになっていない現象や気分、社会の文脈から、プロダクトや映像などのアウトプットをつくっていく。それが私たちのスタイルです。
一般的なクリエイティブワークの流れは「課題 → インサイト → コンセプト → アイデア → 実装」だと思います。しかし私たちの場合、その入口が「課題」ではなく「文化・文脈」なんです。
そして、インサイトだけでなく、そこに「テック」を乗せる。どんなに些細なものでも、テックを掛け合わせることで、言葉を超えて伝わるノンバーバルな力が宿ると感じています。
ー 独自のメソッドを実践した、具体的なプロジェクトについて教えてください。
たとえば、声援をトリガーにシャッターを切るカメラ「Yell Selfie(エールセルフィー)」があります。
新型コロナウイルス感染症が第5類に移行した2023年、あるバンドのライブに行ったんです。コロナ禍で声出し応援ができなくなり、拍手で応援することにみんなが慣れてしまっている。そのことに、少し寂しさを感じました。本来はみんなが盛り上がれる場所なのに、どこかブレーキがかかったままになっているのが悔しかったんです。
そこで、声援をトリガーにシャッターを切るカメラ「Yell Selfie(エールセルフィー)」をつくり、さまざまなフェスや“推し活”の文脈で展開していきました。
「Yell Selfie」
東京ミッドタウン八重洲で実施したクリスマスインスタレーションも、象徴的な事例です。
通常、クリスマス企画では「どれだけ長く滞在してもらうか」「クリスマスマーケットでどれだけ消費してもらうか」といった指標が重視されます。
しかし私たちは、その年の1月1日に発生した能登半島地震に目を向けました。東京ミッドタウン八重洲は東京駅の目の前にあり、東京の中でも能登に向かう起点となる場所です。単に消費を促すクリスマスではなく、その対極にあるクリスマスイベントをつくれないかと考えました。
そこで掛け合わせたのが、「金継ぎ」です。テックというとデジタルを想像する人が多いかもしれませんが、手工業もある意味ではテクノロジーだと捉えています。
壊れた家屋の柱や梁を、石川県・能登の伝統文化である「金継ぎ」の思想で組み合わせ、ツリーをつくる「KINTSUGI TSUGIKI」というプロジェクトです。
クリスマスイベントとしての指標を達成するだけでなく、集まったお金を能登に還元したり、その取り組みが石川県の新聞に取り上げられたりと、温かな波及効果を生むことができました。
「KINTSUGI TSUGIKI」。日本空間デザイン賞2026などを受賞。
また、直近の事例としては、成田空港で実施した空間インスタレーションがあります。
空港は一般的に、スムーズな搭乗体験を実現するための機能的な空間として設計されています。事実、世界の空港ランキングであるSKYTRAXでも、成田空港はその快適性や効率性を高く評価されています。
一方で私たちは、空港は単なる移動の場ではなく、「旅の始まりや終わり」という特別な時間が流れていることに着目しました。だからこそ、空港をただ通過する場所ではなく、その時間そのものを楽しめる場所にできないかと考えました。
そこで注目したのは、空港で働く人たちです。旅客にとっては一瞬しか出会わない従業員一人ひとりですが、彼らの持つ思い出や価値観こそ、成田空港ならではの魅力になるのではないかと考えました。
そこで、従業員の皆さんの思い出の空色をのれんとして表現する空間インスタレーション「空のれん」を制作しました。制作にあたっては、それぞれの思い出の空色を抽出できるアプリを開発したほか、雲の流れを模した照明演出を組み合わせることで、旅の最後に立ち止まりたくなる空間を目指しました。
さらに、抽出した空色を用いたスタッフ向けネックストラップも制作しました。旅客が従業員一人ひとりの人となりに触れられるだけでなく、従業員同士が互いの個性を知るきっかけにもなり、空港という場所の魅力を内外の両面から発信する仕組みとなりました。
「空のれん」。日本空間デザインアワード ショートリストノミネート(記事執筆時点)などを受賞。
ゼロからプラスを生み出すアプローチもあれば、マイナスをゼロへと引き上げるアプローチもありますね。
ー 「とにかく明るい安村」さんを海外に売り出すプロジェクトも、同じメソッドを用いたのですか。
元々、とにかく明るい安村さんと所属事務所のご尽力により『ブリテンズ・ゴット・タレント(Britain's Got Talent)』へ進出されていたのですが、そこで一人の日本人が世界へと駆け上がっていく姿を目の当たりにして、本当に衝撃を受けたんです。
その中で、安村さんの開発した「全裸に見えるポーズ」は、世界共通で伝わる最強のノンバーバル・テックだと思いました。そこで、世界情勢が不安定な中、この世界共通で楽しめるポジティブな話題を風化することなく発信できないかと考え、YouTubeを通じてその様子を届けるお手伝いをさせてもらいました。
その後の安村さんのラッパーデビューも同じ発想からです。海外の『ゴット・タレント』を巡る中で感じたのが、世界各地の地域分断への違和感でした。そんな中で、アジアの中年男性が武器も持たず、丸腰で「ただ笑わせるためだけに挑む」という姿勢は、究極に平和なことではないかと。
そこで、イギリス生まれで、その背景に武装や攻撃性を持つ音楽ジャンルである「UKドリル」に乗せて、「俺は武装しないし、攻撃しない。ただ笑わせるだけだ」というメッセージを込めたMVを制作しました。これがイギリスのSpotifyでも多く再生され、新たな波及効果を生みました。
日本でも話題にしていただき、代々木体育館でのライブでは8000人近い方々に楽しんでいただきました。ライブでは、私もバックDJとして参加させていただきました。
ー 企画はどのように発想し、組み立てていくのでしょうか。支える技術が先にあるのか、それとも実現したいゴールが先にあるのか、どちらなのでしょう。
マーケター脳とエンジニア脳を、同時に走らせているイメージです。
マーケターとしては、生活者へのデプスインタビューや、一生活者として肌感覚で感じることから発想した企画をストックしておく。一方でエンジニアとしては、まだ正しい使い方が確立されていない技術を常にストックしておき、いただいたお題に応じてそれらを結びつけ、企画として形にしていく。この2つのエンジンで企画を考えています。
エンジニア脳を養うには、とにかく「自分でつくる」ことが一番だと思います。たとえば、AIを活用して百人一首を歌にしてみたり、目覚ましアプリをつくってみたり。完成度はプロに及ばなくても、「エンジニアがどう発想し、どのようなプロセスでものをつくるのか」を肌感覚で知っていることは、専門のエンジニアと会話をする上で非常に重要です。
テクノロジーが民主化され、専門性が高くなくともさまざまなツールを使える現在の環境は、私のような人間にとって非常に恵まれていると感じます。もともとの性格もありますし、自由に伸び伸びとなんでもやらせてもらえる環境も大きいと思います。




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